10年前、バイオメトリクスの装置は50万円ぐらいしたが、現在は平均5万円以下。指紋認証では2000円くらいのものもある。価格が100分の1になった半面、出荷台数は96年を境に約100倍になったという。この10年で何が起きたのか?
「96年以前、生体認証はドアに付ける画像処理装置でしたが、96年以降はコンピュータに付くようになった。つまり、ネット経由で本人確認をするための技術としてのニーズが起こってきたわけです。また質的にも、装置産業からシステムインテグレーション、認証サービスへとシフトしてきています」
さらに、バイオメトリクス隆盛の背景を瀬戸さんは、“2つのトリガー(引き金)”で説明する。
「まず、9.11の同時多発テロで戦争の形態が変わったこと。最近の戦争はいつ戦争が始まり、いつ終わったのか分からないし、9.11のように一般市民も巻き込まれる。ミサイルを持っていようが、戦闘機があろうが全然意味がない。国を守るにはどうすればいいのか――アメリカは、従来のDOD(国防総省)のやり方では守りきれないと、DHS(国土安全保障省)をつくりました。そこで何をやるかというと、国境の出入りを管理する。管理するには、生体の情報を取ってデータ化するのが一番いい。最初のトリガーがこのボーダーコントロール(国境管理)です」
「2つ目はユビキタス。コンピュータや電話を常に持ち歩く世の中になりましたが、落としたら大変。今まで通話だけだったのが、インターネットでデータベースにアクセスされてしまう。認証機能が必要で、しかもみんなが使うから難しい方法ではダメ。
また、ユビキタスの時代は、サイバー空間からリアル空間にあるモノや人を常にチェックする時代。IPv6(※)で地上に存在するものにすべて番号付けができるようになると、今度はその番号をどうやって識別するかが問題になる。モノにはICタグを付ければいいが、人間はどうするのか?
そこで生体認証なんです。これが第2のトリガーとなった。どちらか1つではなく、この2つが同時に起きたこと。これが生体認証にとって、とても象徴的だと思います」
※IPv6:インターネット・プロトコル・バージョン6の略で、インターネットで共通に使われている通信手順(プロトコル)の名前。現在一般的に使われているIPv4の場合、1台1台のマシンにつけるIPアドレス(電話でいう電話番号のようなもの)は約43億で世界人口とほぼ同数だが、IPv6ではその数をほぼ無限の43億の4乗に増やせる。これによって、パソコンだけでなく、あらゆる家電や自動車、使い捨ての商品にまでIPアドレスを割り当てることができるようになる。
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