フェルトというのは織っても編んでもいない不思議なきれで、その歴史は古くノアの方舟までさかのぼるという。船底に敷き詰めた羊毛がたくさんの動物に踏みしめられ、その体温と湿気でフェルトになってしまったという話。現代でも、羊毛を始め色々な繊維に熱と蒸気と圧力をかけてフェルトは作られる。弾力があってショックを吸収し、磨耗に強く遮音や断熱性能に優れることから、驚くほど多くの工業製品に使われている。自動車や電気製品、楽器、インテリアから土木設備まで、緩衝部材やフィルターとして大活躍だ。皆が良く知っているのは、習字で使った緑色の下敷きや、ひな壇の緋毛氈、マジックインキの先など、どういうわけか皆懐かしいものばかり。フェルトという音にはどことなくモダンな、それでいて温かい響きがあって、あの独特の手触りを思い起こさせる。ピアノの鍵盤の蓋を開けるとおもむろに現れる赤いフェルトや、ピンバッヂの裏についている丸くて小さな黒いフェルトは、ものを大切にする想いの表れでもある。 |