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新IT大捜査線 特命捜査 第32号 IT化で実現した様々な駐車場サービス「電子マネーの導入が渋滞緩和と環境保護につながる!」
 
  利便性を考慮し、全国8300ヵ所の駐車場をオンライン化
 
袴田さん

パーク24株式会社 経営企画部の袴田千津子さん。

車で移動することが多いので、時間貸駐車場をよく利用する。便利さを実感している反面、「最初から場所や駐車状況が分かっていたらなあ」「小銭での精算が面倒だなあ」とも思っていた。初めての街だと駐車場を探してウロウロすることがよくあるし、見つけても満車だとまた探すはめになる。精算機もコインと千円札しか使えないものがほとんど。情報の提供不足と精算時の不便さは、時間貸駐車場の大きな課題といえるだろう。駐車場そのものは便利なのに、使い勝手が今一つだったのだ。

そんな駐車場業界の中で、ITを武器に新たな需要を喚起しようとしているのが業界最大手のパーク24株式会社。同社は全国に約8300ヵ所・約23万台分の時間貸駐車場「タイムズ」を運営している。経営企画部の袴田千津子さんに、このプロジェクトの狙いと背景を尋ねてみた。
「駐車場業界は他の業界と比較すると、お客様に対するサービスの面では若干遅れています。当社が目指しているのは、どこにでもあって気軽に使えるコンビニのような駐車場。お客様にとって便利なサービスとは何か、それをどのような形で提供すればいいのかをずっと考えてきました」

TONIC

TONICの概念図。各タイムズと情報センターは携帯電話網や有線電話網で結ばれている。

今までの時間貸駐車場は“待ち”のビジネスだった。市場が成長期にある時は、特に工夫しなくても利用してもらえる。だが競争が厳しくなってくると、待っているだけではなく、積極的に利用者に選んでもらえるような“攻め”の戦略が必要になってくる。
利用者が時間貸駐車場に求めているのは、位置や満空車の情報と精算時の利便性。この2つを提供するためには、個々のタイムズの稼働状況を一元管理する必要がある。ここに、ITを活用したオンラインシステムの構想が生まれた。同社は全国のタイムズをつなぐオンラインシステム「TONIC(Times Online Network & Information Center)」の開発に着手。システムの第1フェーズは2000年に完成し、2005年にはほぼ全てのタイムズが情報センターで集中管理されることとなった。

パソコンでのタイムズ情報検索

パソコンでのタイムズ情報検索画面。左上に空車情報が表示される。

各タイムズの稼働データ、入出庫データ、精算データなどは、リアルタイムでTONICの情報センターに送られてくる。これらの情報を基にした利用者への最初の情報サービスが、位置情報と満空車情報の提供だった。同社は2000年の12月から、自社のホームページ内で2891ヵ所の位置情報と29ヵ所の満空車情報を地図ベースで発信。翌年には提供範囲を全国へ拡大すると共に、双方向カーナビ向けや携帯サイト向けにも満空車情報を提供。その後、検索ページは現在の「タイムズ・パーキングインフォメーション」へと発展し、今は携帯からもダイレクトにアクセスできるようになっている。
情報センターから提供される満空車情報の表示は、カーナビ、パソコン、携帯電話に「満車・混雑・空車」の3段階で表示される仕組みだ。

ちなみにTONICには、利用者サービスの向上だけでなく、駐車場管理の効率化という側面もある。時間帯別の稼働率をスペース単位でリアルタイムに把握しているので、稼働率が上がるよう駐車場のレイアウトを変更したり、時間帯毎の料金設定を最適化できるのだ。また、精算機の故障などで利用者が出庫できなくなった時も、TONICで故障状況を確認した上で遠隔操作し、ゲートバーを開閉する仕組みになっている。

 
 
 
  駐車場の決済には電子マネーが向いている?
 
タイムズドコモタワーサイド

初の電子マネー導入駐車場となった「タイムズドコモタワーサイド」。

タイムズステーション川崎

こちらは全国で初めてSuicaを導入した駐車場「タイムズステーション川崎」。

イオンレイクタウンの駐車場

イオンレイクタウンの広大な駐車場。約8200台を収容可能だ。

イオンレイクタウンの精算機

イオンレイクタウン駐車場の精算機。国内で初めてWAONに対応した。

では、もう一つのユーザベネフィットである精算時の利便性を見てみよう。時間貸駐車場に限らず、現金以外の決済方法というと、まずはクレジットカードが思い浮かぶ。パーク24の対応は早かった。業界初のクレジットカード決済を2001年からスタート。今やほとんどのタイムズがクレジットカード対応になっているという。「時間貸駐車場の場合、支払料金が高額になるほどクレジットカードの利用率は上がる傾向にあります」と袴田さん。
また、TONICのシステムをクレジットカード対応にしたことにより、社内にポイントシステムやキャッシュレス決済に関するノウハウも蓄積された。これが、03年に導入した業界初の会員制ポイントプログラム「タイムズクラブカード」や、05年に導入した法人専用決済サービス「タイムズビジネスカード」につながっていく。

キャッシュレス決済のノウハウは、電子マネーへの対応で更に大きな実を結ぶことになる。日本で非接触型ICチップ通信技術Felicaを採用した電子マネーが流通し出したのは2000年代の前半。パーク24は2004年10月にオープンした「タイムズドコモタワーサイド」で、業界に先駆けて電子マネー「Edy」による駐車料金の決済を実現した。しかも決済手段はEdyカードだけでなく、EdyアプリをインストールしたNTTドコモの「おサイフケータイ」にも対応。

これを皮切りに、パーク24は05年11月の「Suica」、07年8月の「PASMO」と9月の「ICOCA」というように、年を追って電子マネーへの対応を進めていく。また今年10月には、埼玉県越谷市にオープンした国内最大級のショッピングセンター「イオンレイクタウン」の駐車場管理を受託。設置した67台の精算機全てで、イオンの電子マネー「WAON」が使えるようになっている。

もちろん、全てのタイムズが一度に変わるわけではい。電子マネー対応のタイムズは全国でもまだ80ヵ所ほどしかないが、その利用率はクレジットカードよりも高いという。4000万枚以上を発行するEdyでもその数はクレジットカードに及ばないが、決済時にサインを必要としない利便性の高さ、個人データを含まないことによる安全性の高さ(プリペイド方式の場合)、利用範囲の広さ(相互利用含む)などが、急速に使われるようになった理由だと思われる。
2008年の「通信利用動向調査」(総務省)によると、電子マネーの全国保有率は21.5%。南関東に限定すると、この数字が39.9%に跳ね上がる。理由として考えられるのは、交通系電子マネーを定期券として日常的に利用する人々の存在だ。様々な調査データからも、首都圏では交通系電子マネーの所有比率が高いことが分かる。
そして交通系電子マネーと時間貸駐車場…この2つを結びつけたところに、パーク24の次なる展開「パーク&ライド」の出発点があった。

 
 
 
  “パーク&ライド”推進のカギは乗車履歴連動の優待サービス
 
タイムズ幸手駅前

PASMOを利用した乗車履歴連動型のパーク&ライドを実施している「タイムズ幸手駅前」。

パーク&ライドの精算機

パーク&ライドに対応した精算機。リーダーが2つある(乗車履歴確認用と決済用)のが特徴だ 。

「パーク&ライド」とは、自宅から車で最寄りの駅まで行き、近隣の駐車場に車を停めて(パーク)、鉄道やバスなどの公共交通機関に乗り換え(ライド)、都市部の目的地へ向かう移動方法のこと。都市部や観光地などの交通渋滞緩和を目的に、アメリカやヨーロッパでは早くから導入が進んでいる。日本でも自治体や民間駐車場が中心になった取り組み例はいくつかあるが、一般にはほとんど認知されていないといっていいだろう。
だがパーク&ライドは、世界的に見てもこれからの交通システムにおいて極めて重要な方策だと考えられている。公的視点で見た場合のメリットは大きい。都市部への車の流入量が制限されるので、交通渋滞が緩和される。渋滞が緩和されれば、渋滞が原因で発生する経済的な損失も回避できる。また都市部への車の流入量が減少すれば、大気汚染の抑制も期待できる。経済面でも環境面でも、パーク&ライドには大きな期待が寄せられているのだ。

日本でもパーク&ライドは利用価値が高いと思われるが、首都圏近郊から都心部へ乗り入れる形の試みはほとんど行われてこなかった。そもそも駅周辺にそれほど多くの時間貸駐車場があるわけでもなく、あっても駐車料金と電車賃を合わせたら金額がかさんでしまい、利用者にとって魅力が薄かったのである。一方で首都圏沿線の近郊では駅から離れた場所に住宅地がある場合が多く、自宅から駅までの足は車かバス、自転車を利用している人が多いのも事実。駐車場ビジネスの新業態として見た場合、パーク&ライドには確かに時間貸駐車場の潜在的な需要がありそうだ。
ここ数年、パーク24はJR、私鉄を問わず駅周辺にタイムズを多面展開しているので、環境は既に整っている。必要なのは、顧客をパーク&ライドへと誘引するための仕掛けだった。

そこで考えたのが、交通系電子マネーに記録された乗車履歴との連動。今までのパーク&ライドは、電車に乗った証拠として車を出す際に切符を見せる、パーク&ライド専用の駐車券を買うなど、利用に際して一手間かかる煩わしさがあった。交通系電子マネーを使って電車を利用すれば、カードには「どこから乗ってどこで降りたか」という乗車履歴が自動的に記録される。この記録データを駐車場の精算機で読み取れば(実際に必要なのは降車履歴のみ)、利用者が電車を使った証拠となるわけだ。この方法だと、手間はほとんどかからない。
こうした利便性に加えて、パーク24は思い切った駐車料金の優待サービスを打ち出した。いくら渋滞緩和に寄与する、環境保護に役立つと謳っても、顧客自身が便利で安いと実感できなければ利用は進まない。経済面でのインセンティブは必須だった。

幸手駅前におけるパーク&ライド利用率

「幸手駅前におけるパーク&ライド利用率」のグラフ。時間と共に認知が進んできたことが分かる 。

パーク24は2007年7月から、大阪の「タイムズ住之江公園駅前」で国内初の乗車履歴連動型パーク&ライドの実証実験をスタートさせた。利用する電子マネーは関西圏の私鉄・地下鉄・バスなどで利用されているOSAKA PiTaPa。精算時に自動的に住之江公園駅または大阪市バスの利用履歴があれば、駐車料金が一律200円引きになり、同時に駐車料金5%分のOSAKA PiTaPaポイントが付与される。利用者の反応は概ね好評だったが、この試みでは最初に精算機でサービス登録を行う必要があったため、同社が目指す利便性の高いシームレスなパーク&ライドまでは今一歩の感があった。
この実験結果を活かして08年4月から開始したのが、首都圏初となるPASMOを利用した乗車履歴連動型のパーク&ライドサービス。こちらは東武鉄道と協力した本格的な商用サービスで、埼玉県にある「タイムズ幸手駅前」と「タイムズ新座志木」の2ヵ所で実施されている。
利用の手順は、車を駐車場に置いて東武鉄道を利用した後、(1)出庫時、精算機に駐車券を入れる、(2)パーク&ライドボタンを押す、(3)PASMOを所定のリーダーにかざす、(4)現金、クレジットカード、PASMOのいずれかで決済する、の4アクション。実際に利用してみるとまごついたのは最初だけで、2回目以降はスイスイと操作できた。仕組み上は(3)の段階で利用者の降車履歴(幸手駅または志木駅)と駐車日の照合が行われ、データが合致していれば駐車料金が一律200円割り引かれる。終電を利用した場合は日付をまたぐことになるが、もちろん同一日と認識される。

パーク24が公表した「幸手駅前におけるパーク&ライド利用率」を見ると、サービス導入から1ヶ月で利用者が伸び始め、以降は右肩上がりで推移していることが分かる。全駐車場利用者のうちパーク&ライドで精算しているのは約4割。これはかなり高い数字ではないだろうか。
「パーク&ライドの告知については、当社のWeb上と精算機の前面で、更にサービス開始時には、近隣へのチラシ配布とタイムズクラブ会員へのメールマガジン送付を行いました。お客様の口コミ効果も大きいですね。タイムズ幸手駅前の場合は一日の駐車料金が最大で600円ですから、パーク&ライドを利用すればわずか400円で1日車を停めておくことができます。コストバリューが高い点も利用が進んだ理由ではないでしょうか」と袴田さんは分析する。

 
 
 
  利用者が重視するのは“交通費の安さ”と“時間の短縮”
 
タイムズ三鷹駅前第5

「タイムズ三鷹駅前第5」。中央線沿線でもパーク&ライドの取り組みが始まった。

パーク&ライドのボタン

Suica用精算機のパーク&ライドボタンにタッチ。こちらはPASMOでも使える。

PASMOの乗車履歴と連動したパーク&ライドは期待通りの成果を収めたが、導入に至るまでにはハードルもあったという。パーク24側は既にTONICを完成させているので、交通系電子マネーの乗車履歴をシステムに反映させることはそう難しくない。しかし鉄道会社は利用者の乗車履歴をサービス用途に想定していなかったため、新たなサービスとして業務をどう構築していくかが課題になった。
「現場でトラブルが発生した際の対策として、24時間365日対応しているパーク24グループのコンタクトセンターがお客様をサポートするなど、鉄道会社様とは十分に議論を重ねてきました。もともと交通インフラの整備という意味でサービス自体に賛同してくださっていた事もあり、理解を得ることができました」と袴田さんは説明する。

東武鉄道との協働以降も、パーク24は2008年11月からSuicaを利用した乗車履歴連動型のパーク&ライドを開始している。こちらはJR東日本との協働で、中央線沿線にある6ヵ所のタイムズでサービスを実施。仕組みは東武線沿線のケースと同様だが、各タイムズの料金体系が異なっているため、割引金額に100円から300円と幅があるのが特徴だ。
同じ11月からは多摩都市モノレールとの協働で、「タイムズ高幡」「タイムズ万願寺駅前」の2ヵ所でPASMOの乗車履歴と連動したパーク&ライドサービスを開始。多摩地区はモノレールの開通によって南北移動の利便性が高まったが、いまだに南北を車で行き来する際の渋滞が残っている。パーク&ライドは沿線住民にとっても好意的に受け止められるのではないだろうか。
また、先に紹介したイオンレイクタウンでも、パーク24は武蔵野線沿線及び東武伊勢佐木線沿線にある18駅65ヵ所のタイムズを活用したパーク&ライドの利用を推進している。こちらは乗車履歴を利用するわけではないが、これらの駐車場をイオンレイクタウンの提携駐車場とみなし、同店で4000円以上の買い物をすれば、レシートを確認した上で500円分の商品券をサービスしている。

首都圏でのパーク&ライドはまだ始まったばかり。利用者のニーズは正確には掴めていないが、パーク24は同社の会員を対象に、パーク&ライドに関するアンケート調査を行っている。その結果がなかなか興味深い。「出発地から近い駅にパーク&ライドが可能な駐車場があれば利用しますか?」という問いに対して、「条件付きで利用したい」と答えているのは全体の77%。理由の1位は「交通費が安くなるなら」だった。これは郊外から都市部へ移動する一般的なパーク&ライドに対するニーズを探る質問で、同社の例でいえば東武鉄道との協働に当てはまる。
反対に「目的地から1〜2駅ほど手前の駅にパーク&ライドが可能な駐車場があれば利用しますか?」という問いに対しては、全体の75%が「条件付きで利用したい」と返答。理由の1位は「時間が短縮されるなら」だった。こちらは狭いエリアでの可能性を探る質問で、多摩都市モノレールとの協働に当てはまる。渋滞に悩まされている多摩地区では、少々費用がかかっても時間を優先したいと考える人が多いのだ。パーク&ライドのニーズは、費用と時間の両面から考えるべきなのかもしれない。

パーク24が積極的に進めてきた時間貸駐車場のIT化は、位置情報と満空車情報の提供サービスに始まり、公共交通機関をも視野に入れたパーク&ライドへと発展してきた。恐らくこれから先は、電子マネー決済の普及が進むと共に、既に民間開放されているETCを利用した決済サービスが始まるだろう。これが実現すれば、利用者は一切精算機に触れることなく時間貸駐車場を利用できるようになるはずだ。
IT活用の余地はまだまだある。10年後、20年後の駐車場の姿は、今とは大きく違っているかもしれない。

 

取材協力:パーク24株式会社 (http://www.park24.co.jp/

 
 
田島洋一 0010 D.O.B 1976.2.3
調査報告書 ファイルナンバー032 IT化で実現した様々な駐車場サービス「電子マネーの導入が渋滞緩和と環境保護につながる!」
イラスト/小湊好治 Top of the page

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