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指揮所に置かれたノートパソコン。ここから打ち上げの指示が出される。 |
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パソコンを操作するオペレータ。操作に集中するので花火を見る余裕はないという。 |
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打ち上げソフトの操作画面。次の花火番号、残りの数、速度係数などが表示される。 |
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國友銃砲火薬店の花火が夜空に大輪の花を咲かせた。スタッフの苦労が報われる瞬間。 |
準備万端整ったら、後は本番を待つだけ。とはいえ忙しいときは本番直前まで作業が続き、食事を取れないこともあるらしい。花火大会の舞台裏はなかなか大変なのである。
各場所に設置したパレットの周辺には、打ち上げの指示を出す指揮所が置かれる。ここでオペレータが、打ち上げソフトの入ったノートパソコンを操作するわけだ。本番が始まったら、オペレータの仕事は基本的にスタートボタンを押すだけ。後はデザイナーがプログラムしたタイミングでコンピュータが点火の指示を送り、自動的に花火が打ち上がっていく。すべてがうまく行けばこれで万々歳だが、実際はそううまくいかないらしい。
「現場で一番多いのは時間調整の問題ですね。途中で入るアナウンスCMが押して、後のプログラムに影響することがあるんです。交通規制が敷かれていることもあり、大会の終了時間を遅らせることはできません。そこで、大会本部で花火全体を見ているスタッフがオペレータに連絡し、プログラムの時間を調整して終了時間に合わせるわけです」(上埜)。
コンピュータ制御のメリットはここにある。國友銃砲火薬店の打ち上げソフトは、100分の1秒の精度で点火のタイミングを微調整できるのだ。設定数値を変更するだけで、例えば5分のプログラムを3分に巻いたり、逆に一発一発の間隔を延ばすこともできる。時には途中の花火をカットしたり、急きょ順番を入れ変えることもあるという。
また、オペレータは万が一の異常事態にも備えなければならない。そのため、打ち上げソフトはバックグラウンドで絶えずシステム全体をチェックしている。もしどこかの端子に不具合が生じていたら、パソコンの画面上にアラートが現れる。オペレータはその花火をカットするか、CMの最中に修理して対処するわけだ。
「こうしたソフトの仕様は、自分たちで開発したからこそ可能になった部分。当社にも海外製の点火システムがありますが、やはり自社のソフトの方が使いやすいですね」と上埜さんは言う。
現場に持ち込むノートパソコンは、どのようなものが使われているのだろう。写真を見ると、5、6年前までPC98で動くモデルが使われていたようだ。
「プログラム自体は比較的軽いので、別に高性能なパソコンを使う必要はないんです。さすがに最近はWindowsパソコンを使っていますが(笑)。それよりも大切なのは、現場の作業中にクラッシュやダウンしないこと。ハードはなるべく丈夫なものを選び、中のシステムは極力シンプルな構成にしています」(上埜)。
もちろん、万一のことを考えて現場には必ず予備のパソコンを持っていく。フリーズ等のトラブルには、万全の対策が練られているのだ。
コンピュータ制御の導入以降、花火の世界は劇的に変わったと言われる。第一に作業員の安全が確保され、第二にエンタテインメント性の高い自由な演出が可能になった。自社でソフトを作っている國友銃砲火薬店の場合は、搬出作業の効率アップや緊急時に備えたフレキシビリティも加わる。そして更に、上埜さんはもう一つ大きなメリットがあると教えてくれた。
「昔ながらの花火職人に頼らなくても、火薬類取扱等の資格があれば現場を任せられるという点です。熟練の職人にしか任せられないとしたら、当社のように一日で5〜6の現場を請け負うような会社はやっていけません。ベテランがいなくても、安全かつスムーズにお客さんに喜んで頂ける花火を打ち上げることができるようになりました。これもまたコンピュータのおかげなんですよ」
夏の夜空を華麗に彩る打ち上げ花火。長い伝統に培われたその美しさは、コンピュータの力によってこれからも輝きを増すことだろう。
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