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ニッポン・ロングセラー考 Vol.82 トップ ライオン 洗浄力と環境への配慮で時代をリードする衣料用洗剤

衣類を選ばないオールパーパス洗剤として登場

普段何気なく使っている衣料用洗剤。スーパーの棚に目をやると、随分たくさんのブランドがあることに気が付く。国内の大手メーカーは複数のブランドを展開しているし、スーパー独自のプライベートブランドもある。最近はアメリカからの輸入洗剤も販売されていて、店頭はなかなか賑やかだ。容器の形もバラエティに富んでいる。粉末洗剤はポピュラーな1kgサイズがほとんだが、液体洗剤は取っ手の付いた大型ボトルから、襟・袖口用のミニボトルまで大小さまざま。
衣料用洗剤はロングセラーが多く、各メーカーの主力ブランドはどれも20年から40年くらいは続いている。国内の現行商品で最も長い歴史を持つのは、ライオンの「トップ」。生まれてもう半世紀以上になる。親子3代にわたって使っている家庭もあるはずだ。今回はトップの歴史を追いながら、同時に衣料用洗剤の進化にも目を向けてみよう。

その前に、界面活性剤について少し解説を。界面活性剤とは、本来なら混ざり合わない油と水を混ぜ合わせ、汚れを落とす働きをする物質のこと。つまり界面活性剤が汚れ(脂分)を衣類から引き剥がし、水の中に取り込む。動物や植物の油脂をアルカリで煮て作る石鹸も界面活性剤の一種だが、合成洗剤の界面活性剤は石油等の化石燃料を合成して作るのが一般的。これに洗浄補助剤や添加剤等を加えて製品にするわけだ。合成界面活性剤は第一次大戦中のドイツで開発され、第二次大戦中のアメリカで商品化が進んだ。
1951(昭和26)年、ライオンは日本で最初に衣料用の鉱油系合成洗剤を発売した。界面活性剤にはアルキルベンゼンスルホン酸塩(ABS)を使っていた。

合成洗剤は発売されたものの、ほとんどの家庭では固形の洗濯石鹸か粉石鹸を使い、洗濯板やタライで汚れ物をゴシゴシ洗っていた。今では想像しにくいが、かつての洗濯はかなりの重労働だったのだ。
そんな状況が徐々に変わってくる。きっかけは、電気洗濯機の登場。1953(昭和28)年頃には噴流式の洗濯機が低価格で発売され、その圧倒的な便利さから一気に普及が進んだ。粉末の合成洗剤は石鹸より水に溶けやすく、洗浄力が強い。面倒な石けんカスも発生しないため、主婦はどんどん合成洗剤を使うようになっていった。

ライオンは1920(大正9)年に日本初の植物性石鹸「植物性ライオンせんたく石鹸」を発売して以来、洗剤や洗濯の方法について科学的な研究を続けていた。36(昭和11)年には「ライオン洗濯科学研究所」を設立。翌年発行した「標準家庭洗濯法」が多くの女学校で家庭科の教材に採用されるなど、社を挙げて洗濯文化の普及に力を入れていた。合成界面活性剤の研究も早くから進めており、49(昭和24)年にはABSの試作に成功。その翌年に ABS洗剤の試験生産を開始している。

初代「トップ」の発売は1956(昭和31)年。容量は230g、価格は50円だった。パッケージは現行商品とは大きく異なり、青をバックに「トップ」の赤いロゴが描かれている。シンプルで明解な「トップ」という名称は、「最高の洗浄力」に由来する。
1950年代はファッションの洋装化、衣料素材の多様化が進んだ時期だった。そのため、初代「トップ」は木綿はもちろん、毛、絹、化学繊維など、衣類を選ばないオールパーパスの中性洗剤として誕生している。初代「トップ」は合成洗剤としては後発だったこともあり、一気に市場を獲得というわけにはいかなかったようだ。だが60年代以降、ライオンは「トップ」を毎年のように進化させ、ヒット商品へと育て上げてゆく。

「植物性ライオンせんたく石鹸」

「植物性ライオンせんたく石鹸」。昔の主婦は石鹸を溶かして衣類を洗濯していた。

ライオン洗濯科学研究所の紹介

「ライオン洗濯科学研究所」。洗濯文化を主導する研究機関だった。

初代「トップ」

初代の「トップ」。消費者は紙箱の隅を開封し、洗剤を目分量で洗濯機の中へ入れていた。


洗浄力は高く、環境へは優しく──「トップ」進化の歴史

1960年代に入ると洗濯機の普及率は急速に上昇し、それと同時に合成洗剤の市場も拡大していった。より高い洗浄力が求められるようになり、 1960(昭和35)年、ライオンは木綿・化繊洗いに用途を絞った弱アルカリ性の「ニュートップ」を発売。激化する市場競争に打って出た。そんな折、洗剤市場は最初の困難に直面する。河川の堰や下水処理場などで生活排水から大量の泡が発生するという問題が発生したのだ。原因の一端はABS洗剤にあった。 ABSは化学的に安定した物質(ハード型と呼ばれる)なので、なかなか分解が進まない。泡が消えない原因はそこにあった。対策として、各メーカーは環境中の微生物によって速やかに分解されるソフト型の洗剤を開発。従来のABSに代わり、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(LAS)という界面活性剤が使われるようになった。ライオンは1967(昭和42)年、LASの工業化に成功し、市場をリードする。以降、60年代後半にはほとんどの製品がLAS洗剤に置き換わった。

1967(昭和42)年には、洗濯時間の短縮を実現した高能率型の「ニューハイトップ」を発売。70年代に入ると洗濯機がほぼ全ての家庭に行きわたり、洗浄力競争が一段と激しくなった。ライオンは79(昭和54)年、タンパク汚れを分解する成分として初めて酵素を配合した「酵素パワーのトップ」を発売。飛躍的に洗浄力を向上させたこの商品は大ヒットを記録し、この後約10年間、国内売り上げ No.1のブランドとなった。
この頃、環境面から再び難題が持ち上がる。河川や湖沼の富栄養化問題が発生し、社会問題になったのだ。水軟化剤として合成洗剤に入っているリン酸塩がその一因とされたため、各メーカーは無リン化洗剤の開発に乗り出した。ライオンは1980(昭和55)年に「無りんトップ」を発売。リン酸塩に代わって水軟化効果のあるアルミノけい酸塩を使用し、高い洗浄力を維持したまま無リン化を実現した。ちなみに「無リントップ」は、現在も2サイズ(特大の4.1kgもある)を継続販売している。

「酵素パワーのトップ」と「無りんトップ」は大量に売れたこともあり、消費者がそのパッケージを強く印象付けられた商品となった。赤をベースにオレンジと黄をあしらった背景に、力強く描かれた「トップ」のロゴ。このデザインモチーフは、2009(平成 21)年に現行の「トップ」が登場するまで30年以上も継続した。衣料用洗剤としては極めて認知度の高いパッケージの一つだろう。

1987(昭和62)年、今度は洗浄力や環境対応とは別の側面から、衣料用洗剤に大きなブームが起こる。サイズのコンパクト化だ。従来の洗剤は水に溶けやすくするため洗剤の粒子に中空構造を採用していたが、コンパクト洗剤はこれを圧縮して密度を高め、全体の容積を縮小した製品。ライオンは88(昭和63)年にコンパクト洗剤「ハイトップ」を発売し、市場に参入した。「ハイトップ」は1回の洗濯(水30 リットル)で使用する洗剤量を従来の40gから25gに減らし、パッケージには計量スプーンを同梱。パッケージの前面にも「スプーン1杯」と明記した。価格は1.5kg入り、60回分で870円。従来のタンパク分解酵素に加えて脂質分解酵素(ハイテク酵素)を配合し、コンパクト化と共に洗浄力も向上させた。
95(平成7)年には、更にコンパクト化を推し進めた「酵素トップ」を発売。使用量が20gになったため、内容量も1.2kgに減らした。2001(平成 13)年には、サイズはコンパクトなまま生乾きの嫌なニオイを防ぐ「部屋干しトップ」を発売している。

実は、業界でコンパクト洗剤が発売されたのは、この時が初めてではない。70年代半ばにライオンを含む主要メーカーから製品が発売されたのだが、この時は消費者に受け入れられず、どの製品も数年で姿を消してしまった。理由の一つとして、当時の消費者に洗剤を量って使う習慣がなかったことが挙げられる。目分量で使うので、本来は少なくて済むのに、ついつい従来型の洗剤と同じ量を使ってしまったのだ。それでは早くなくなってしまうので、消費者は逆に損だと感じたのかもしれない。
2回目のコンパクト洗剤が支持されたのにも、いくつかの理由がある。一つは消費者意識の変化。60年代に盛んだった地域限定の環境問題が地球全体の問題へとシフトし、消費者の環境意識が高まったのだ。洗剤が小さくなれば、原料や包装材料を節約できるだけでなく、生産や輸送のエネルギーも低減できる。当然、排出時のゴミの量も減る。もちろん、持ち帰りが楽という実用的なメリットも理由の一つ。更に言えば、この頃普及が進んだ全自動洗濯機に合わせ、洗剤自体も省スペース型が好まれたという側面もあるだろう。
以降、洗剤の小型化は必然的な要素になり、メーカーは新たな視点での商品開発に力を入れるようになる。

1960年の「ニュートップ」

1960年発売の「ニュートップ」。洗浄力アップを訴求している。

「ハイトップ」 「ニューハイトップ」

「ハイトップ」(1962年)。

「ニューハイトップ」(1968年)。

「酵素パワーのトップ」 「無りんトップ」

「酵素パワーのトップ」(1979年)。

「無りんトップ」(1980年)。

「ハイトップ」 「酵素トップ」

「ハイトップ」(1988年)。

「酵素トップ」(1995年)。

「部屋干しトップ」

「部屋干しトップ」(2001年)。


植物原料の界面活性剤でCO2排出量を削減!

21世紀に入ると、ライオンはますます地球環境を意識した製品づくりを推し進める。「トップ」はその代表とも言える存在で、2005(平成17)年に発売した「酵素パワーのトップ」では、省エネを考慮して容器に再生紙を、計量スプーンには再生樹脂を使用した。もちろん、新酵素を含む3種類の酵素を配合するなどして、洗浄力も向上させている。
「トップ」の成分が大きく変わったのは、06年(平成18)年。この年、ライオンは「ECO LION」活動をスタートさせ、全社を挙げて温暖化ガスの排出量削減に取り組み始めた。同年発売した「3つの酵素パワートップ」は、洗浄成分の約4分の3にパーム油を原料とする植物由来のオリジナル界面活性剤「MES(アルファスルホ脂肪酸エステル塩)」を採用。ライオンは早くからこのMESを研究開発し、1991(平成3)年から「スパーク」ブランドに採用してきた。主力製品である「トップ」への導入は、ライオンが地球環境の保全に真剣に取り組んでいることの証でもある。

植物を原料とするMESの、どこが環境に優しいのか。地球環境で問題視されているのは、CO2の排出量。洗剤中の界面活性剤は、洗濯後に外部環境へ排出されると、微生物によって分解されて水とCO2になる。植物を原料とするMESの場合は、CO2がその植物によって再び吸収されると考えれば、地球全体としてのCO2の量に変化はない。地球環境を語る際によく出てくる「カーボンニュートラル」の考え方だ。他にもMESには、LASに比べて洗浄力が高いので少ない水で洗濯できる、自然環境中で容易に分解されるなど、いくつかのメリットがある。

2009(平成21)年に発売した現行「トップ」では、MESの配合比率を更に高め、同時に製造プロセスを効率化して使用エネルギーを削減。その結果、洗濯一回あたりのCO2排出量は、1990年に比べて51%も少なくなった。また、節水洗濯で起こりがちな汚れの再付着を防止する新成分もプラス。これに従来のトリプル酵素のパワーが加わり、頑固な汚れも一度洗いでしっかり落とせるようになったという。
「温暖化ガス排出量削減」と「商品を通じた環境配慮」が高く評価された結果、ライオンは環境に対する顕彰制度として知られる「地球環境大賞」の第16回大賞(2007年)を受賞した。

2005年の「酵素パワーのトップ」

「酵素パワーのトップ」(2005年発売)。

2006年の「3つの酵素パワートップ」

「3つの酵素パワートップ」(2006年発売)。

2009年の現行「トップ」

現行の「トップ」(2009年発売)。オレンジと黄色のラインは消え、「CO2排出量51%カット」のマークが大きく描かれている。


“見える汚れ”から“見えない汚れ”の洗浄へ

衣料用洗剤の歴史を語る時、忘れてはならない点がもう一つある。液体洗剤の登場だ。ライオンは1984(昭和59)年の「液体トップ」を皮切りに、 87(昭和62)年の「液体ハイトップ」、95(平成7)年の「液体速攻トップ」、02(平成14)年の「トップ浸透ジェル」等、「トップ」でも数多くの 液体洗剤を発売してきた。今は08(平成20)年発売の「香りつづくトップ Fresh Camomile」「香りつづくトップ Sweet Harmony」と、09(平成2)年発売の「トップ クリアリキッド」、そして今年発売したばかりの、ナノ洗浄でニオイの元まで分解して落とす超コンパクト液体洗剤「NANOX(ナノックス)」が店頭を飾っ ている。

「トップ」のブランドマネージャーによると、最近、この液体洗剤が急速に販売量を伸ばしているのだとか。それもライオンだ けではなく、洗剤市場全体がそういう傾向にあるという。
液体洗剤は元々、粉末洗剤がやや溶けにくい寒い地方でのニーズから開発された商品だった。国内では、衣料用洗剤全体の中に占める割合はずっと10%程だっ たが、ここ5年くらいでその割合は急上昇。「今年に入り、週間ベースでは粉末よりも液体の方が売れているくらいです」というから、驚く程の勢いだ。

なぜ、液体洗剤がそんなに伸びているのか。理由はいくつか考えられる。まず、水使用量の少ないドラム式洗濯機の普及で、粉末よりも 溶け残りの少ない液体に注目が集まっていること。
もうひとつは、衣料用洗剤に対する消費者ニーズの変化。かつての洗剤は、襟袖などの汚れだけでなく、食べこぼし、ドロや砂埃など、あらゆる種類の汚れに対 応しなければならなかった。生活環境が劇的に変わった現在、ドロ汚れはほとんどないし、子供が減ったので食べこぼしのシミも少なくなった。多くの主婦が気 にする汚れは、もっぱら普通の生活で出てくる皮脂汚れ。ライオンを始め、多くのメーカーがこの皮脂汚れにフォーカスした製品を液体洗剤で発売していたの だ。だが皮脂汚れの落ち具合は、目だけではなかなか確認しにくい。
ライオンの調査によると、約9割の消費者が、汚れ落ちを確認するために洗濯物のニオイを嗅いでいるという。“見える汚れ”が落ちるのは当たり前。消費者は 今、“見えない汚れ”の洗浄を求めているのだ。

衣料用洗剤の市場規模は、年間約1,600億円。規模は大きいが、ここ10年程はほぼ横ばい状態にある。パイの拡大が期待できない ため、メーカー間の開発競争は昔以上に激しくなっている。そんな中で、ライオンの「トップ」は50年以上にわたって定番商品であり続けてきた。「トップ」 と同時期に誕生した他社のブランドは、既に姿を消している。
粉末洗剤の「トップ」を大木の幹とするなら、液体の「トップ」は、今一番元気な若枝といえるかもしれない。しっかりした幹が土台にあるから、枝はどこまで も伸びていける。

「香りつづくトップ」

「香りつづくトップ Fresh Camomile」と「香りつづくトップ Sweet Harmony」。気分で香りを選べる新しいコンセプト。

「トップ クリアリキッド」

「トップ クリアリキッド」は、“見えない汚れ”への高い洗浄力を実現。

取材協力:ライオン株式会社(http://www.lion.co.jp/
ニオイの元まで分解して落とす「ナノ洗浄」とは?

眼鏡をかけたベッキーが、眼鏡をかけたニオイ犬の言葉を通訳する──ちょっとクールなイメージのTVCMで話題になっているのが、今年1月に登場した超コンパクト液体洗剤「NANOX(ナノックス)」。ライオンオリジナルの植物由来界面活性剤「MEE(メチルエステルエトキシレート)」による“ナノ洗浄” で、繊維の奥にからみついて落ちなかったニオイの元を、ナノ(1mの10億分の1の長さ)レベルにまで分解して落とすという。MEEを高濃度配合した結果、一回の使用量も従来の液体洗剤の半分になった。持ちやすさを考えてエッジに窪みを入れたキューブ型のボトルは、これが洗剤とは思えない程お洒落なデザイン。液体洗剤というと取っ手の付いた大きめのボトルが主流だったが、これからはこのコンパクトサイズが増えてくるかもしれない。

「NANOX(ナノックス)」

話題の新製品、超コンパクト液体洗剤の「NANOX(ナノックス)」。

タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト
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