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かしこい生き方 時間デザイナー あらかわ菜美さん

「一日24時間と思っている間は、時間の使い方はうまくなりませんね。」

「忙しい」というのは、現代に生きる私達の挨拶のようにもなっている。 時間管理を指南する書籍もたくさんあり「仕事のできる人」は 時間の使い方もうまいことになっているが、なかなかマネできない。 ばりばりと仕事をこなし、自分の時間も充分に楽しみ… そのための妙案はあるのだろうか? 「時間簿」(R)を考案し 時間の上手な使い方について、さまざまな提案をしている あらかわ菜美さんにお話を伺った

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時間はまっすぐ、一本の道のように流れていない複数の道路を行ったり来たり

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「時間簿」というのは、とても面白い発想ですね。

あらかわ

「時間簿」というのは、一つの新しい時間の概念を提示したものです。つまり私達は、一日は24時間で、それを全部自分の思い通りに使えると勘違いしている。とんでもありません。一日が24時間であっても、その中には、誰かと共有する時間があり、誰かに奪われる時間もあって、丸々自分が使える時間というのは一日1時間しかないかもしれないからです。

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「24時間あるからできる」と思うのは大間違い、と(笑)。

あらかわ

ええ。時間というのは、いろいろなことに影響されます。季節によっても天気によっても、あるいは本人の体調によっても、その質が変化していくものです。

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1時間とか30分とかいったものも、額面通りではないということですか。

あらかわ

ええ、そう思います。それは単純に時間の単位、時計の単位であって、それをいつ、どのタイミングで、どう使うのかが重要だということです。私は時間を道路に例えるのですが、普通ビジネスマンがスケジュールを立てるといった時、「何時に何をする、次に何をする」というように、多くの人が時間を1本の線で考えます。そうすると例えば「会議が14時に終わるから、その後はまとまった時間をとって企画を作ろう」というように仕事を順番にこなすスケジュールになるのですが、実際の時間の流れというのは、会議が30分長引いて、終わったと思ったらクライアントから電話がかかり、と思ったら至急返事が欲しいとメールが来る、というように「割り込み」ばかりです。

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自分はこの時間にこれをしようと思っていても、そう思い通りにはいかないことがほとんどですね。

あらかわ

そうなんです。「時間は単独では流れていない」とは、ドイツの哲学者ハイデガーの言葉ですが、時間は重層的に流れるもの。それはあたかも何本もの道路をあちこちに車線変更しながら走っている状況の中で、私たちは時間を共有して、ぶつかり合っているんです。

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それを表したものが時間簿ですね。

あらかわ

はい。時間簿を付けてみると、自分の時間がどこで誰の影響を受けているのかが見えてきます。その結果、どうしたらその限られた時間が充実した時間になるのか、効率アップできるのかが分かるのです。
人だけでなく、夏になったら朝方のほうが涼しく仕事がはかどるとかいった周囲の環境や状況はもちろん、年齢の変化によっても、体力勝負の仕事は時間がかかるようになる一方、経験から時間が短縮できるようになることもありますね。そうやって時間は常にさまざまな自分以外の周りの条件に左右されていくものなのです。

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周りに左右され、お互いに共有したりする…生きるということそのものですよね。

あらかわ

産業革命以降、時間効率を上げるための方法がたくさん出てきました。ですが、それを行う状況までは示されていませんでした。それに対して社会学者、メアリー・パーカー・フォレットは「状況の法則」という概念を提示しました。命令や指令ではなく、状況が人を動かすと唱えたんですね。これは時間の概念に通じるもので、周りがどういう状況かによって時間は変わるのです。
もう一つ、時間は目には見えません。お金なら貯めることができますが、時間は使わなくてもどんどん減っていくものです。

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それは、よく感じることではありますが…。

あらかわ

ふと気がつくと、こんなに時間が経っていたというのは、よくある経験ですが、やはり充実した時を過ごすには、自分の持ち時間がいったいどれくらいあるのかを、しっかりと認識することが大切です。仕事の時間、親子の時間、夫婦の時間、他者との時間、そして自分の時間…。そういう意味で、時間の配分は、お金の使い方と似ていると言えると思うのです。時間簿は、自分の時間配分を整理し、持ち時間を認識するためのツールと言えます。

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時間簿を発表されたのは1999年ですが、そもそもこの時間簿が生まれたきっかけはどんなものだったのでしょう?

あらかわ

子供が生まれて自分の時間が無くなってしまったことです。正直なところ、私は時間の使い方がうまいと思っていたのです(笑)。上の子どもの時には、周囲のお母さん達が「自分の時間が持てない」と言っていることに実感がわきませんでした。ところが下の子を育てていた時、後から考えれば上の子よりも手がかかる子だったということなのですが、全然、時間がなくて。

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お母さん方の言葉に初めて共感できたわけですね(笑)。

あらかわ

私も時間がないと嘆いていた時、知人がビジネス書をくれたのです。「早起きすれば自分の時間を作れる」といった内容で、朝30分早く起きたらゆっくりお茶を飲みながら新聞を読めますよ、といったことが書かれていました。それを読んで、確かに「へえ、そうなのか」と思いはしたものの、同時に「じゃあ、そのお茶を出しているのは誰なんだ?」と反発する気持ちも生まれまして(笑)。

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本当にそうですね!

あらかわ

その出来事が私に時間の概念を考えるきっかけを与えてくれたと思います。「そうか、誰かが時間を作るために、誰かが時間を費やしているんだ」、つまり自分の時間と思っていても人に影響されもするし、影響を与えもすると分かったのです。
夫の本棚には時間管理に関する書籍がたくさん並んでいたので、それを読んでみたのですが、どれも「時間活用」の本ばかり。ビジネスマンの時間と、女性の時間が違うのではないかと思って、周囲の女性を観察して「なぜか」ということを追求してみた結果、辿り着いたのが時間簿のフォーマットです。横軸に書き出した項目は、でき上がってみれば当たり前のことですが、それを目に見える形にすることで、解決方法を見出せるようになりました。

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この時間簿を、これまで4000人の方々につけてもらって調査もされましたね。

あらかわ

時間がないと言っている人は、複数のことをしている「ながら時間」が多いとか、細切れの仕事が多いとか、割り込みに邪魔されるとか、家族構成やチーム構成など周囲の人の性格に左右されているということが分かってきたのです。やはり、結局、周りの状況に関係なく、何かをしようとしているから、思い通りに事が運ばず、時間だけがどんどん過ぎていってしまうんですね。

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逆に時間の使い方が上手だという方にも共通点がありましたか。

あらかわ

ご自分で認識しているかどうかは別にして、人だったり、天気だったり、自分の疲労度だったり、さまざまな周囲の影響を考慮した時間の使い方をしていると思いますね。


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ここでも、あそこでもムダ遣い何が時間を奪っているか

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時間簿は、縦軸には時間が入りますが、横軸はさまざまですね。

あらかわ

自分の状況に合わせて、まずは好きなように横軸を入れていけばいいのです。例えば、子育てと家事に忙しいという方なら、自分、夫、子どもという項目を作って、その時間、誰が何をしているというのを付けてみるのです。時間簿は、正に家計簿に似ていて、一日、何に時間を使ったかが目に見えるようになります。そうすると、ムダな時間も見えてきます。

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時間がないというビジネスマンならどうでしょう?

あらかわ

横軸に「組織」「今日やること」「モノ・準備・片付け」「アクシデント」などと入れておきます。そして会議などは、自分だけでは動かせない予定の前に入れることで、ムダな延長を防ぐといったことを考えましょう。また企画書を作ると予定していても、実際は企画を練るといった目に見えない作業が必要です。それらは、ランチをしながら、移動しながらなど「ながら時間」を活用しながら予定を立てていくのです。

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時間簿はスケジュールとともに、実際に起きたことを書き込み、それで自分の時間の使い方を視覚化できるツールなんですね。自分なりの時間簿をつけるポイントというのはありますか。

あらかわ

自分の関わっている時間の構造を分かって欲しいのです。漠然と「会社」という項目でもいいのです。書いていくことで、自分が何に時間を取られているのか、どこで時間を作れるのかが見えてくるはずです。あるいは家にいても、会社のことで頭がいっぱいなんてことがありますよね?

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ありますね(苦笑)。

あらかわ

そうすると、実際は家族と接しているのに、集中度が下がってしまいます。例えば子供と一緒にいる時は仕事をやめて、子供に集中する。仕事のことを考えるのは、子供が寝てから。その方が仕事に集中できますし、そのためにも早く子供を寝かせてあげた方がいい。子供にとっても良い事ですよね…という話になるわけです。

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ちょっと意地悪な質問になってしまうのですが、時間簿をつけてみると、本当にそんなことが見えてくるのですか。

あらかわ

ええ。「時間が無い」と言っている人のほとんどが、集中できない時間にやっているのだと分かります。小さいお子さんがいて「コーヒー、一杯飲む時間も無い」と言っている方たちの「時間が無い理由」というのは、10人のうち9人まで同じ。相手、つまり子供のリズムに関係なく自分のスケジュールを立ててしまっているんです。逆に、時間の作り方がうまい人は、子供のリズムを見て、どのタイミングでそれをすれば能率が上がるか、例えば「この時間に、これをやればゆっくりコーヒーを飲むことができる」と、相手を見て行動しているということが見えてきました。

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自分で簡単に作れそうですね。

あらかわ

A4ノートを一冊買ってくるか、エクセルなどで管理するかで簡単にできます。つけていけば一日、二日で、大体自分の時間ぐせというのも見えてきますね。

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「時間ぐせ」というのはなんでしょう?

あらかわ

どんな風に時間を使っているかということなんです。性格や立場にも影響されますし、無理に直す必要はなく、それに応じて時間を多く見積もったり、整理の方法を工夫したりすれば良いのです。要は「仕事」を効率良く終わらせ、時間を作ることが目的ですからね。
4000人の時間簿から見えてきたのは、時間の使い方にタイプがあるということです。ビジネスマンだと、時間のロスを生んでいるタイプは、次の7つに分類できると思います。まず、書類などがすぐに出てこない「探し物ぐせ」、忙しいのについ飲み会に誘われ断れない「流されぐせ」、伝票精算など組織として必要なことを後回しにしてしまう「マイペースぐせ」、人の仕事につい口を出すといった「振り回されぐせ」、プレゼン資料に必要以上に凝ってしまうような「こだわりぐせ」、予定を入れすぎて結局ロスが生まれる「追われぐせ」、自分の仕事を後回しにしてしまう「組織優先ぐせ」です。どれも、言われてみれば思い当たる節があるという方が少なくないでしょう。

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逆に、時間の使い方が上手な人にも共通項がありますか。

あらかわ

4つほどあります。まず、予定を入れる順番を吟味しているということ。話の長くなりそうな人との打ち合わせの後に相手のある固い約束を入れることで、無意味に時間を取らないようにするといった工夫をしています。二つ目に移動時間も仕事時間と考えるということ。三つ目に、大きな仕事でもそのままの大きさでとらえずにブロックに分けて考えることで、細切れの時間が無駄にならずに済むのです。
また机の整理も仕事のうちです。意外にそう考えている方が少ないようですが、仕事のできる方というのは、得てして整理上手ですね。

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先にもありましたが、時間の使い方というのは、仕事ができる、できないを超えて、生き方そのもののような気もします。

あらかわ

文明の発達というのは、スピードの競争でしたよね? でも私達はそれによって、自然時間から離れてしまって、時計時間にしばられるようになりました。でも、そろそろ、皆、違和感を感じているんではないでしょうか? これからはスピードばかりではいけないと思いますし、スピードを緩めていこうとする時に、どうしても自然の時間、周りの人との時間の共有というものを意識しなければならないと思うんです。
時間って人間関係の大切さとかいったものとも密接につながっていると思います。

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確かに、私達は今、時間に追われていることに疲れているような気がします。しかし、なぜ追われるようになったのかは、よく分からないんですよね。

あらかわ

経済効率に振り回された結果だと思います。でも今はクルマだって、スピードを競うというよりも、いかに安全かエコかという時代に変わりました。あるいは便利な家電製品が増えているにもかかわらず、総務庁のデータによると家事にかける時間は増えている。興味深い結果だと思います。つまり物が多い、情報が多い。だから私たちは生活全般において、「スピード」の恩恵を受けていないんです。

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物事が複雑になってしまって、結局、時間がかかっている。もしかしたら私達の時間の充実度が薄くなっているのではという気さえします。

あらかわ

だからこそ、効率良く時間を過ごすことだけでなく、時間そのものについて考えることが大切なんだと思います。時間活用の本はたくさんありますが、皆、似ているし、私が伝えていることも基本的には方法です。その中で、時間簿というツールを活用して、皆さんがベストの方法を見出してもらえれば良いなと思います。


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あらかわ菜美(あらかわ・なみ)

時間デザイナー。1999年に「時間簿」を考案して、新聞、雑誌、テレビで話題になる。多くの女性やビジネスパーソンに支持され、時間簿は論文や大手企業の人材開発、学校教材、マーケティングに採用される。これまでに4000人以上にのぼる調査を行い、時間意識や生活時間を分析、教育委員会、男女共同参画などの行政機関、大手企業などで数多く講演。著書に『人生がスッキリする モノ・時間・人間関係の整理術』(中経出版)、『残業をゼロにする「ビジネス時間簿」』(祥伝社)、『モノのために家賃を払うな!〜買えば買うほど、負債になる』、『「忙しい」という人ほど、実はヒマである理由〜よけいなモノや考えはあなたの人生から幸福を奪う〜(共にWAVE出版)、『気づいた人から時間が増える 時間簿ノート』 (講談社) 他多数。

●取材後記

子育て中のお母さん方が、時間を作るために、ビジネスマンが効率良く仕事をするために、経営者が限られた時間を充実させるために、あるいは介護中の方がやはり自分の時間を持てるように…。今、時間簿はいろいろな場面に使われ、応用されている。「時間簿」自体が、時間というものの考え方を提示している。いたずらに時間に追われるのではなく、時間の本質について、もう一度考えてみようと、締め切りに追われながら考えるのだった。

構成、文/飯塚りえ   撮影/海野惶世   イラスト/小湊好治
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