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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 多摩織の夏のネクタイVol.50 多摩織りの夏のネクタイ 桑の都×地球温暖化対策

昭和30年代の写真に写った夏の会社員は、半そでの白い開襟シャツをさらりと着ている。クールビズなどと言われるまでもなく、暑ければ涼しく過ごす工夫をしていた。最近は省エネやクールビズのためにネクタイを外すことが奨励されるが、時には、ネクタイを締めたい、という気持ちになることもある。
そこで夏らしいネクタイを求めて、八王子を訪ねた。平安時代、西行法師の歌に「桑の都」と詠まれたように、このあたりは昔から生糸の生産が盛んであった。1590年に紬座が置かれて以来400年以上にわたって伝えられた多摩織は国の伝統的工芸品の指定も受けている。

JR八王子駅北口から北西に延びる商店街を抜けたら甲州街道を高尾山方面に向けてさらに西へ行く。この辺りまで来ると創業慶長年間の鰹節店や染料の専門店など趣のある古い店が残っていて、街道筋のかつての賑わいが偲(しの)ばれる。八幡町の交差点を過ぎて少し行くと、八王子織物工業組合のビルが見つかる。1階のショールームには、さまざまな八王子織物が展示されていて、機(はた)屋さんや工房ごとに異なる個性を楽しみながら一点一点見てゆくと時間を忘れてしまう。

数あるネクタイの中から、多摩織らしい絹の平織りの一本を選んだ。トンボの羽のような軽い織りで薄い黄色だが、よく見ると黄の他に灰色がかった黄緑と白い糸の斜め縞だ。織りも色もはかないような軽さなのだが手にしてみると意外に腰があって、締めると、きちっと決まるところはさすがである。絹糸の良さ、手織りの加減の良さも申し分ない。あとは麻のシャツにこれをさりげなく着けて涼しげに見えるかどうか、着る人のセンスが問われることになるだろう。

八王子織物工業組合 http://www.hachioji-orimono.jp/

画像 襟元画像 先端部分画像 平織りの質感

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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