起業のきっかけについて、お話を伺えればと思います。

まず、ユニカルインターナショナル(以下、ユニカル)は、「会社組織であれば、もっとたくさん仕事をあげられるのに」と言われて(笑)1987年に法人化した会社です。当時、私の中では「起業しよう」とか、「会社をおこそう」といった、強い思いがあったというよりも、何となく仕事の延長として法人化したという感じです。
 二社目のイー・ウーマン設立のきっかけのひとつは、2人目の子供の出産です。2人目も欲しいと思っていたので、無意識のうちに長期的な仕事をセーブしていたところがありました。それが、2人目の子供が健康に産まれてきてくれたことで「これからは、自分にとっての挑戦をしていける」という気がして。とても怖いけれど、大きな仕事を始めてみたいという思いに駆られたんですよね。
 それに、20代、30代と、仕事をしてくる中で、女性の仲間がいないと感じたことも設立のひとつの理由です。それらのことをからめながら、経済的にも認められ、大きなうねりがつくりだせないだろうか、と。経済的にも成立するということであれば、それ自体が、いわゆる「男性中心、東京中心、大企業中心」という構造への提言だと思いましたし、健全な変革への一部を担えるのではないか、と。


具体的にどんなことをなさっているんですか?

企業のブランドコミュニケーションの提案、サービスや商品の評価や提案、近未来市場のための調査などです。ewomanという場に集まる半歩先をいく「賢い(スマートな)」消費者、生活者、市民の知恵を、企業などに提供するコンサルティングとシンクタンクといったビジネスです。ewomanに集まる女性たちは、自分で考え、新しいライフスタイルを先取りし、周りの人たちに影響力もある賢い人たちです。簡単に言えばそのような人たちの知恵を活用することで、近未来の企業ブランド力を高めるコミュニケーションの研究開発をしているのです。
 96年に、ある経済団体の人に、開催準備中だった「国際女性ビジネス会議」の企画書をお見せしたことがあります。すると、「どうせこのような会議に集まる女性たちは、日本経済の主流から落ちこぼれた女性だろう。こんな会議は、日本経済にとって何の意味のないことである」と言われました。とても強い言葉ですよね。私自身、日本経済の主流に入ったことも、触れたこともなかったけれども、このような考えの人たちのもとで働いている女性たちが何万人もいることを想像し、会議開催は必要だという思いを深めたのです。実際、毎年会議に集まる女性たちは、一流企業の女性たちが多いですし、平均収入も700万近くです。本当に、彼女たちは「日本経済の主流からの落ちこぼれ」でしょうか?
このような発想は、「経済界、政界、メディア界」など全てに見られるのですが、視点の違いを象徴していると思うんです。この格差が埋まらないと経済界は、顧客層や労働層である女性の動向を捉えることはできないだろうと思います。ewomanに集まるような半歩先をいく賢い消費者、市民たちと共に近未来の企業戦略を練りましょうという、ということなのです。


企業の側と「こちら」側との乖離の理由は何だと思いますか?

すごく簡単に言ってしまうと生活をしていない人が権力を握りすぎていることが原因だと思います。戦後の日本の急成長は、同じ価値観をもった男性集団が団結して経済界、政界、メディア界を作ってきたから効率も良かった。そうせざるを得なかったわけですから責めるつもりはありません。しかしそうして突進する過程で、彼らは「生活」をしないできた。「生活」を女性が任されたのも、歴史的に見ても、戦後のこの期間だけでしょう。男性たちは、家でごはんを食べることもなく、家族と学校の話をすることもない。子どもの学校も、住む家も、自分のネクタイすら選ぶことがなかった。
そういう点では今回日産自動車がイーウーマンと年間独占契約を結んだように、企業の側にもスマートコンシューマの視点の必要性が見えてきたということなのでしょうか?

そうですね。企業の経営者は、かなりの場合「必要」だと思っておられます。これはマス・マーケットが縮小してきたこともきっかけになっているでしょうね。北から南までみんないっせいに同じモノが流行るという日本特有の現象が少なくなって、考え、選ぶ消費者が増えてきました。その結果2年くらい前から、今までの「大衆=マス」と呼ばれてきた人たちにアピールする広告方程式が当てはまらなくなってきているんです。企業のトップの方は、投資効果が落ちてきていると感じている。でも理由も対策もわからない。そういうところに、私たちが飛び込んでいって、コミュニケーションの研究開発の話をすると理解していただけるんです。


企業のIT化と言われて久しい中で、成功したとは言い難い例も多いわけですが、どのあたりがその分かれ目と思われますか?

ITというものはあくまでツールであって、企業が本当に変われるかどうかは、企業が持っている「人」が変わるかどうかだと思うんですね。たとえば、私が今まで手紙を書いていたものをFAXに、FAXにしたものをメールにしたとします。これはまさしくIT化ですが、私という人柄は、どのツールであっても何ら変わりはない。同じように企業もホームページだろうが雑誌だろうが、担当の方の考え方というのは、基本的には変わらないはずです。だから本人が変わらなければ意味がないわけです。企業自身がIT化で変わるというのは、ある意味、幻想です。目的がないままIT化を進めても無意味です。

ネット時代にはギブ・アンド・ギブンの発想がとても大切だと、自身の著書で語られていますが…。

既に、一人ひとりが何をするのかが求められる時代になってきたと考えています。これまで日本企業が急成長してきたのは、誰もが突き出ず、一緒にやってきたら効率が良かったというだけ。逆をいうと、その体質によって、国際的にも責任の所在が誰にあるのかわからないと言われています。それで個人の顔がみえるようにしようとなったわけですが、インターネットの技術は、それを後押ししていると思います。
 たとえば、私がある企業の社長さんと連絡をとろうとします。これまでなら電話でもファクスでも、まず秘書の方が取り次いで、社長につないでもらわなければならず、すぐには直接のやりとりができないわけですが、電子メールだとそれができます。これは、一人ひとりが裸の状態でオンラインに存在していて、組織や役職が守ってくれない状態だと私は思うんです。よくデジタル反対派の人は、「デジタルは人を冷たくする」と言いますが、私はデジタル上では、個人の人柄がすごく表れると思っています。
「ギブ・アンド・ギブン」という言葉は、ギブ&テイクにひっかけたものです。「ギブ&テイク」という言葉は、与えるときに使う言葉ではなくて、理由づけをして人から何かを奪う、つまり提供してもらうときに使うものですよね。それはこれからの世の中の発想としては合っていないでしょう。まずは自分から与えてみる、情報を提供してみることが必要だと思います。組織で守られたり、誰から奪えるかを考えるのではないのです。オンラインで個で生きるということは、その「個」をみんなが見ているということでもあります。組織の大小に関係なく、ひとりの人間として見てもらえる時代が来たかなと思います。


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