ある企業の社長と新しいビジネスプランを考えているときに、南場さんがあまりに熱くオークションサイトについて語るものだから、それならあなたがやってはどうか、というのが起業のきっかけと伺っています。どうしてオークションサイトだったのでしょう?

オークションが好きだったんです。加えてビジネスモデルとしてもオークションは優秀だと思っていました。
 自分で事業をやるのであれば、成長の軌道にのったら自立的に動いていく力のある事業がいいと思っていました。オークションの場合、ものが増えてくると人が増える、人が増えるとものが増えていくという、すごく自立的な循環をしているビジネスモデルです。それに在庫リスクがない。在庫リスクを甘く見てはいけませんから。
 加えて、お客さんが一回やると「はまって」いく常習性のあるサービスだという強みがあります。


確かに、立ち上げて最初の2年ほどで他の40近くのプロバイダーや大手ポータルサイトと提携され、順調な成長を遂げておられます。その秘訣とは?

まだ現状に満足していないので、何が良かったのかわかりませんが…。ただ、細かい所まできっちりやることは重要だと思います。サイトですから、24時間動いていなければなりませんし、そのためのしっかりとしたオペレーションを確立させることに注力しました。戦略的に提携を結んだことも良かったと思っています。
 ただ、事業を始めて思ったのは、企画することよりも、実行する方がずっと大変だということです。
これは私ひとりの力では到底無理でした。幹部に優秀な人間が集まっていたからできたことです。良い人材が集まったということが、ここまでこられた要因だと思っています。
 よく「今の若い人は…」と言う人がいますが、私は「今の若者」はすごいと思います。責任感もあって能力も高く、本気になれば何でもできます。ただ、そういう人間がこれだけ集まっているにもかかわらず、まだまだ企業として成長途中。経営者として責任を感じているところです


でも、それだけ人材を集め、かつ力を発揮できる場を維持しておられるというのは、ひとつの功績なのではないでしょうか。

私の最大の功績はそれだけですね(笑)。会社を立ち上げた99年の後半は、優秀な人間がどっと動いた時期と重なったので、運が良かった面もあります。その後ももちろん優れた人がたくさん入ってきてくれましたが、とりわけ重要なのは起業するときの最初の10人です。仕事に取り組む態度がしっかりとした、目線の高い人間が10人集まれば、そうでない人が居にくい組織になる。DeNA立ち上げ時は、そうした素晴らしいメンバーが揃ったわけです。
 皆が頑張れるのは、彼ら一人ひとりの活躍の場があるからだと思うんですよね。個人の責任は大きいし、自分の活躍するステージがありますから。
 でも実は、そういう組織作りを意識してやっているわけではないんですよ(笑)。ただ、うちみたいな小さい会社に余計な人なんて置けない。だから、スタッフそれぞれが責任の最先端を担う組織じゃないと成立しない。階層構造ではなくて、スタッフみんなが「球」の表面を覆っている感じです。


経営者になって、変わったことというのはありますか?

経営者は、今ある材料で、今すぐ決めなければならない。迷っている時間はないんです。判断材料を増やすことでより良い意志決定を求めたマッキンゼー時代とは違います。
 それ以上に変わったのが、オペレーションに対する意識。私は戦略を描いたりロジカルに正しい意志決定をすることは訓練されていましたが、事業の正否にとっては戦略の巧みさ以上に実行の部分が重要なんです。間違った戦略で潰れる会社はありますが、戦略がなくても生き残っている会社もたくさんあります。でもオペレーションがないと、その会社はすぐにだめになってしまいます。
 サイトの場合、ユーザーの要望を取り入れようと誰でも考えますが、どの組織が一番ユーザーの本質を見抜いて迅速に実行に移せるかというと、戦略よりも組織能力の高い会社です。コンサルタントの時は「戦略が命」でしたが(笑)、今は事業の正否の9割は、オペレーションにかかっていると考えています。

組織能力の差が出てしまうのは何故でしょう?

理由は3つあるかと思います。ひとつは組織が競争環境に置かれているかどうか。もうひとつはいわゆる企業統治です。つまり株主や取締役会、監査役が代表取締役をしっかりと監視しているか、またその監視がしっかりと意味をもっておこなわれているか。最後に、経営者がプロで若いかどうかということ。
 若い経営のプロってやはり必要だと思いますね。経営者は会社を良くするためにありとあらゆることを全てやっていることが重要。だから、脳のキャパシティも広く、物忘れもしない、しかも疲れにくい──体力も知力もある若い経営者のほうがいいんじゃないでしょうか。
 この3つのことが、会社組織をつくる礎であり必要条件だと思ってます。3つめの「若さ」は、要素としてですが。


経営者としては「私、アホなんです」とカミングアウトすることも大切だとおっしゃったと伺ってますが。

そうです(笑)。コンサルタントは、会社としてだけじゃなくて、個々人が優秀であるというのが前提です。でも自分で会社を始めると、そんなことよりも、売り上げが上がるか、利益が出るか、人がついてくるかということが重要で、無理して賢いふりをすることに何の価値もない。「社長が賢いからみんな頑張ろう」って思う会社はそれでいいですが、「社長が情けないから頑張ろう」でもいいんです。私はずっとコンサルタントで、賢そうにしていなければならなかったのですが、もう「アホです」ってばらしちゃおうかって思いまして(笑)。

会う方全てが人材に見えると伺っています。ある時は空港で出会ったグランドホステスの方に、名刺を無理矢理、渡したこともあるとか。今、御社で「欲しい人材」というのはどんなものでしょうか?

会社の中の常識や決まりにとらわれず、自ら効率性を考えたり自分の頭で考える人。諸々の細かいルールに健全なチャレンジをしていける人。日本の会社の暗さやスピードの遅さを見ると、そういう人の必要性を感じます。  もうひとつ。リスクを回避するのではなく、ものを進めるために切り捨てることができる人物。物事を成し遂げるためには、いろいろなリスクをとらなきゃいけない。人を苦しめたり、人から批判されたりすることもあります。もちろんそんなことは誰でも嫌ですが、そういうことを「悪いこと」だから、「避けなければいけない」と思うのではなく、何かを達成するために払うコストのひとつと割り切らなければならない状況がたくさんあります。そのコストをとれる会社ととれない会社との10年後は、確実に違うと思います。あとは今、我が社にいないタイプの人ですね。人材に多様性をもたせたい…それが我が社のテーマです。


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