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亀の子束子 ニッポン・ロングセラー考 〜その名のとおり100歳間近の長寿モノ

亀の子誕生の陰に妻子あり


日本人の平均寿命は女性85歳、男性78歳。
1880(明治13)年頃には女38歳、男36歳だった
というから、随分長生きになった。
そんな世界一長寿の国・日本に、
発売以来まもなく1世紀にならんとする商品がある。
亀の子束子(たわし)だ。

亀の子束子を発明したのは、株式会社亀の子束子西尾商店の初代社長、西尾正左衛門。
アイデアマンの正左衛門は、当時、シュロを針金で巻いた新型の靴拭きマットを作っていたが、
使っているうちに毛先がつぶれるなどの欠点を指摘され、大量返品という憂き目に遭う。

厳しい生活を強いられた正左衛門は、ある日、妻が靴拭きマットのベースである
シュロの棒を折り曲げ、障子のさんなどを洗っているのを目にした。
「これだ!」
いけると確信した彼は、女性が使いやすい形、大きさ、重さにするため、妻の手を参考に試作を繰り返し、今の形を作り上げた。

たわしは完成したものの、実用新案の登録に必要な名前がない。どうしようと悩む正左衛門に、
幼い息子が「お父さん、見て見て!亀が泳いでるよ」。
見ると、たらいの中で亀が水に浮いて泳いでいる。
「この亀、たわしに似ているなぁ…、 ン?」
亀は長寿で縁起がいい、形も似ているし、水にも縁がある。「亀たわし、亀たわし…、亀の子たわし!」

1907(明治40)年に誕生した亀の子束子は、翌1908年に実用新案を取得し、「亀の子束子」の名前と亀のマークを商標登録。
ちなみに、たわしの漢字は漢学者に相談し、「束子」の文字を当ててもらったという。
亀の子束子、当時1個3銭なり。

原料

普通名詞にまで高めたブランド力
広告

商標登録し、地方への拡販も成功して、売行き順調の亀の子束子。1915(大正4)年には「特許として価値あり」と、新たに特許権も付与された。ちなみに、亀の子束子が特許を取得した7月2日は「たわしの日」。

特許というお墨付きを得たものの、売れる商品とあって特許侵害が続出。これに対し、亀の子束子が採った戦略が、ブランドの周知と商品の差別化だった。新聞や婦人雑誌に積極的に広告を出す、紙包装して類似品との差別化を図る…。その甲斐あって、「亀の子束子」の名は津々浦々に広がった。

広辞苑で、亀の子束子と引いていただきたい。「亀の子」の項目に【亀の子束子】の文字が見える。製品のオリジナリティーはもちろん、商品名、パッケージ、販促活動のすべてが実を結び、「亀の子束子」という1つの商品名が普通名詞として認知されるに至ったのだ。

オレンジ包装
ロングセラーの秘密は耐久性と品質

現在のキッチンを見てみよう。そこには、たいていスポンジタワシと台所用洗剤があるはずだ。
取材時に「ライフスタイルの変化で、売上げが減った時期もあったのでは?」と
意地悪な質問をしてみた。答えは「ノー」。

現在は不況ということもあり、売上げは少しずつ落ちてはいるものの、
スポンジタワシの出現は大勢に影響なかったという。
亀の子束子とスポンジタワシの一番の違いは、機能性と耐久性にある。
まず機能性だが、亀の子束子なら、ザルの目に入り込んだ汚れや食器・鍋の油汚れが洗剤なしですっきり落とせる。
耐久性については、こんなエピソードがある。

 

ニューヨークに住んでいる日本人の女性から、使い古された亀の子束子が送られてきた。「3年間使ったたわしです。よく働いてくれたので、日本に里帰りさせてあげたいと思い、送ります」。このたわし、すり減っているものの、原形はちゃんと留めている。3年間――、それはスポンジタワシには望むべくもない耐久性といえる。

そんな耐久性を支えているのが、品質へのこだわりだ。亀の子束子は、パームの間から針金が見えないか(針金が見えるものを「口あき」という)、色むらはないかなど、厳しい検査を経て出荷される。天然素材ゆえに季節によって原料にバラつきが出るが、そこは容赦なく不合格に。こんな地道の努力が、ベストセラーとなり、ロングセラーとなった所以なのか。

鶴は千年、亀は万年。亀の子束子は、命名時にロングセラーたることを運命づけられていたのかもしれない。

取材協力:株式会社亀の子束子西尾商店
http://www.kamenoko-tawashi.co.jp



亀の子束子ができるまで
(1)裁断&棒巻き (2)刈り込み (3)完成 (4)包装
裁断&棒巻き 裁断&棒巻き 裁断&棒巻き 刈り込み 完成 包装

所定のサイズに裁断したパームを、半分に折った針金に均等に挟む。ここがたわしづくりで一番難しい工程。微妙な手先の感覚が必要なため、今でも手作業だ。

専用の機械でねじり、棒状に巻き込む。

 

たわしの基本形ができる。

 

棒状のたわしを刈り込み機にかけ、毛足をそろえる。

2つに折り曲げ、周囲に縄をかける。縄を内側に折り込み、針金の先を丸めて完成。

厳しい検査に合格した一級品だけが、オレンジのパッケージで包装される。


撮影/海野惶世(メイン、オレンジ包装) Top of the page

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