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ニッポン・ロングセラー考 Vol.128 明治ブルガリアヨーグルト

1973年発売

株式会社明治

プレーンヨーグルトという
新しい食文化を創造

大阪万博で出合った、本物のヨーグルトの味

画像 「明治ハネーヨーグルト」

1950年発売の「明治ハネーヨーグルト」

画像 「明治プレーンヨーグルト」

1971年に発売された日本初のプレーンヨーグルト「明治プレーンヨーグルト」

画像 「明治ブルガリアヨーグルト」

1973年、本場ブルガリアの名を冠した「明治ブルガリアヨーグルト」を発売

まだ半分眠っている体をスッキリと目覚めさせてくれる爽やかな酸味。フルーツやハチミツを加えて食べるのはもちろん、近年はそのままという人も多いプレーンヨーグルト。今や朝食の定番メニューの一つとなったが、40年前、この味は日本人にとって全く未知なものだった。

日本でヨーグルトが本格的に生産されるようになったのは第2次世界大戦後で、明治乳業株式会社(現 株式会社明治)は、1950(昭和25)年に「明治ハネーヨーグルト」を発売している。その後、日本では、ゼラチンや寒天で固めたハードタイプの甘いヨーグルトが主流となっていく。

明治の社員が、そんな甘いヨーグルトと一線を画す味に出合ったのが、1970(昭和45)年に開催された大阪万博のブルガリア館。酸味が強く、独特の香りを持つプレーンヨーグルトを試食した社員は、「これが、本物の味だ!」と感銘を受ける。
本物のヨーグルトを日本の食卓へ届けよう。商品化に向けて、研究所ではブルガリア館から分けてもらったプレーンヨーグルトをもとに、本場の味を再現するために乳酸菌の菌種選定に着手。開発スタッフも容量やパッケージなどの検討を進めた。もちろん、商品名は最初から「ブルガリアヨーグルト」と決めていた。

ところが、ネーミングについてブルガリア大使館から待ったがかかる。ブルガリアにおいて、ヨーグルトは民族の魂のようなもの。軽々しく他国の民間企業には貸し与えられないというのだ。ネーミングの使用許可が下りなかったため、商品名を「明治プレーンヨーグルト」とし、1971(昭和46)年に発売した。

日本にない味を広めるには、その味を生み育んだ歴史や文化といったストーリーがいる。ブルガリアという名前がどうしても必要と考えた明治は、プレーンヨーグルトにかける熱い想いを伝え続けた。ある日、大使館から工場を見学したいとの申し出があった。最新の生産設備と厳しい品質管理体制…、明治の熱意と製品に対する信頼が伝わったのか、1972(昭和47)年5月に「ブルガリア」の名称使用許可が下りる。翌年12月、ようやく念願の「明治ブルガリアヨーグルト」を世に出すことができた。


Top of the page

フルオープンタイプの新容器を、ジャンピングボードに

画像 テレビCM

発売当初のテレビCM。ブルガリア風の民族衣裳を着た女性が本物感と爽やかさをアピール

画像 新聞広告

週1回、全国紙2紙で2年にわたり展開した突き出し広告。時々の話題に絡め、食べ方を提案

画像 新容器

プレーンヨーグルト普及のきっかけとなったフルオープンタイプの容器

画像 「のむヨーグルト」3本パック

1982年には「のむヨーグルト」3本パックが登場

本物の味を世に問うた「明治プレーンヨーグルト」「明治ブルガリアヨーグルト」の売れ行きはどうだったのか。
結果は、“ヨーグルト=甘いデザート”という固定概念を打ち破ることができず、1日数百個売れるかどうか。さらに、「酸っぱすぎる」「味が変、不良品では?」といった問い合わせも寄せられた。
このような反応は想定内だったとはいえ、消費者からの厳しい声はこたえた。やっぱり、ダメか!? 普通ならここで諦めてしまうところだが、明治は強い信念の下、ずっと先を見つめていた。何年かかるか分からないが本物はきっと理解される、と。

もちろん、ただ手をこまねいていたわけではない。「明治ブルガリアヨーグルト♪」というサウンドロゴが印象的なテレビCMをはじめ、新聞の突き出し広告による食べ方提案、スーパーやフルーツショップでの試食販売といったプロモーションを展開。営業マンは、購入者が好みで甘さを加えて食べられるように、パッケージ1個1個に砂糖の小袋をテープで貼って店頭に並べるといった地道な活動を続けた。

少しずつ売り上げが上がってきたころ、課題として浮上したのが容器だった。牛乳パックと同じ容器を使っていたので、一度開けるとフタができない、中身が取り出しにくい、砂糖を外側にテープ貼りしているのも問題だ。これらの課題を解決するために開発したのが、現行のフルオープンタイプの容器。新容器の採用は生産設備の変更を伴うが、明治は先行投資に踏み切った。

たかがパッケージと侮るなかれ。コカコーラのボトルを見れば中身が想像できるように、優れたパッケージは商品を雄弁に物語る。新しい顔を得た「明治ブルガリアヨーグルト」は、プレーンヨーグルトという、それまでになかったカテゴリーを創造するとともに、その象徴的な存在となっていく。
1981(昭和56)年の容器刷新は販売実績に直結し、売り場でも独立したコーナーを獲得できるようになった。容器革命―、その名にふさわしい効果を発揮したのだ。


Top of the page

乳酸菌の菌株を見直し、機能面を強化

画像 「明治ブルガリアヨーグルトLB51」

機能面で優れたLB51乳酸菌を加えた「明治ブルガリアヨーグルトLB51」

画像 「明治ブルガリアヨーグルトLB81」

トクホの表示許可を取得した「明治ブルガリアヨーグルトLB81」。大量陳列時に躍動感が出るよう、パッケージも斜めのラインにリニューアル

画像 LB81乳酸菌

LB81乳酸菌。細長いのがブルガリア菌2038株、丸い方がサーモフィラス菌1131株

画像 「明治ブルガリア低糖ヨーグルト」 「明治ブルガリアCaのむヨーグルト」

1995年ころから多種多様な商品を展開。「明治ブルガリア低糖ヨーグルト」は初の200g容器。「明治ブルガリアCaのむヨーグルト」は糖分2分の1カットのダイエットタイプ

「プレーンヨーグルトは『プレーン』というぐらいだから、作るのも簡単」と思う人がいるかもしれない。ところが、プレーンヨーグルトは、フルーツヨーグルトやドリンクヨーグルトに比べ、格段に神経を使う製品だという。大きなタンクで発酵させるフルーツヨーグルトなどと違い、プレーンヨーグルトは1つ1つの容器の中で発酵させるので、発酵条件を一定に保っての大量生産が難しい。しかも振動を与えるとカード※1が崩れるため、物流にも細心の注意が必要だ。明治は、長年にわたり培った発酵技術で、この繊細なプレーンヨーグルトを大量かつ安定的に生産することに成功している。

「明治ブルガリアヨーグルト」は、古来よりヨーグルト作りに使われてきたブルガリア菌とサーモフィラス菌という2種類の乳酸菌※2を使用している。菌の種類は2種類だが、明治の乳酸菌ライブラリーにはそれぞれ何百種類もの菌株があり、さまざまな組み合わせが考えられる。どの菌株を使うかで風味や食感が変わるが、ヨーグルトの場合、鼻で感じる香りも重要。これによって酸っぱさやおいしさが左右されるため、この点も菌株選定のポイントとなるという。

1980年代に入ると、食生活と健康の関係が注目されるようになり、ヨーグルトは体に良い食品という認識が広がった。
明治は、機能面の強化を図るために、1984(昭和59)年、従来の乳酸菌に優れた生理活性作用を持つLB51乳酸菌を加えた。その後、1993(平成5)年には菌株を全面的に見直し、「ブルガリア菌2038株」と「サーモフィラス菌1131株」に変更。乳酸菌を意味するLactic Acid Bacteriaの頭文字LBと、2つの株菌の末尾番号の8と1を組み合わせ、「明治ブルガリアヨーグルトLB81」として発売した。

1996(平成8)年、「明治ブルガリアヨーグルトLB81」は、プレーンヨーグルトとして初めて特定保健用食品(トクホ)の表示認可を受ける。1日100g以上摂取することで、腸内細菌のバランスを整え、お腹の調子を良好に保つといった効果が科学的に証明されたのだ。

  • ※1:発酵によって牛乳の中に含まれるタンパク質(カゼイン)が分離して固まったもの。
  • ※2:1900年代初頭、ウクライナ出身のノーベル賞生物学者・メチニコフがヨーグルトの保健効果を科学的に研究し、「ヨーグルト不老長寿論」を提唱。また、ブルガリア人の医学者・グリゴロフは、伝統的なブルガリアヨーグルトの主要菌種がブルガリア菌とサーモフィラス菌であることを発見した。

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「まろやか丹念発酵」で、ワンランク上の風味に

画像 パッケージ

パッケージは2003年から「正統」「本物」「自然」なイメージを表現する曲線に変更されている

画像 「そのままおいしい脂肪0プレーン」 「おいしい生乳100」

カロリーが気になる人に人気の「そのままおいしい脂肪0プレーン」、生乳本来のおいしさを生かした「おいしい生乳100」

画像 「のむヨーグルト」シリーズ

注ぎやすく、開閉しやすいキャップを付けた「のむヨーグルト」シリーズ

画像 果肉入り4個パック

切り離して食べられるファミリー向け果肉入りの4個パック

ブルガリアの伝統的なヨーグルトは素焼きのつぼで作られる。素焼きのつぼは牛乳の水分を吸収するので、牛乳が濃縮される。さらに、吸収した水分がつぼの表面から蒸発することで気化熱を奪い、低温で発酵が進む。こうして作られたヨーグルトは、なめらかでクリーミー。この伝統的製法を再現しようと開発されたのが「脱酸素低温発酵法(まろやか丹念発酵)」という技術だ。

低温発酵は時間がかかる上に、固まりにくいことから大量生産には不向きとされてきたが、発酵する前のヨーグルトのもとから酸素を除去することで、この問題を解決。低温発酵ならではのなめらかな舌触りと、こくのあるまろやかな味わいを実現した。
「まろやか丹念発酵」は、2004(平成16)年発売の「明治ブルガリアヨーグルトLB81ドマシュノ」を皮切りに、「明治ブルガリアヨーグルトLB81脂肪0プレーン」や「明治ブルガリアヨーグルトLB81生乳100」といった製品に採用されてきた。

今年の2月、明治は2つの大きな決断を下した。一つが「まろやか丹念発酵」の生産設備を全工場に導入すること。これによって、圧倒的なボリュームで販売されている「明治ブルガリアヨーグルト」が、新製法で生産されることとなった。
そして、もう一つの決断が砂糖の添付中止だ。40年前、プレーンヨーグルトの食べ方提案として付けたが、今や砂糖がなくても消費者自身が自分の好みに合わせて、プレーンヨーグルトをおいしく食べられるようになった。これは、「本物はきっと受け入れられる」という明治の思いがかなえられたことに他ならない。

明治の推計によると、2013(平成25)年度のヨーグルト市場規模は約3,500億円。うち明治のヨーグルトの売上高は1,546億円で、主力の「明治ブルガリアヨーグルト」は731億円。この数字から、日本にプレーンヨーグルトという新しい食文化が定着したことが分かる。

また、2011(平成23)年から2年間、フランス・パスツール研究所と共同研究を行った結果、LB81乳酸菌が腸管内に分布する免疫細胞に働きかけるとともに、腸管バリア機能も高めることが確認された。
おいしさと健康―、ヨーグルトに求められる2つの価値をさらに高めることを目指し、これからも明治のチャレンジは続く。


取材協力:株式会社明治(http://www.meijibulgariayogurt.com/
明治の機能性ヨーグルト

明治は、60年以上も前から乳酸菌の研究を続け、今では約5,000種類の菌株を保有している。本文でも触れたが、乳酸菌の組み合わせによって、風味や食感はもちろん、体への影響も異なる。乳酸菌の可能性を探る研究の中で、東海大学医学部との共同研究でピロリ菌を抑制するLG21乳酸菌を、また北里大学との共同研究で免疫機能に働きかける1073R-1乳酸菌を発見した。「明治プロビオヨーグルトLG21」「明治ヨーグルトR-1」は、このような乳酸菌の基礎研究から生まれた機能性ヨーグルトとして注目を集めている。

画像 「明治プロビオヨーグルトLG21」「明治ヨーグルトR-1」

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タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治
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