モンド・セレクション受賞後、アーモンドチョコレートは消費ニーズに応じた新製品をラインアップに加えながら変遷を重ねてゆく。
1965(昭和40)年、縦型のパッケージを採用し、カットテープを切ると同時に取り出し口が開く「アーモンドチョコレート〈プルトップ〉」を発売。68(昭和43)年には、女の子向けの「赤(ミルク)」と男の子向けの「白(セミスイート)」に商品をセパレートした。
その翌年にはアーモンドを独自の製法でフライした「アーモンドチョコレート〈フライド〉」を発売。この商品はそれまでの板チョコスタイルではなく、チョコレートを1粒ずつ丁寧に金紙で包装していた。パッケージも新形式のスライドケースを採用。こうした新しさが市場で評価され、フライドもまた人気商品となった。
1971(昭和46)年には「アーモンドチョコレートXO」、1973(昭和48)年には「アーモンドチョコレートXA」を発売。値段は共に150円。当時の高価格市場を狙った商品だった。
この頃から、グリコは広告に新しい手法を取り入れるようになった。テレビCMに人気若手タレントを起用し、印象的なイメージソングで視聴者のハートを一気につかむという作戦だ。
出演タレントには近藤正臣、志垣太郎、森田健作、岡田奈々、田中健などを、歌手には松崎しげる、チューリップ、松山千春などを次々と起用。「青春のひと粒」「カリッと青春」など、"青春"をキーワードにした宣伝コピーを覚えている人も多いだろう。
中でも有名なのは、77(昭和52)年に松崎しげるが歌って大ヒットした「愛のメモリー」。この曲はレコード会社とタイアップしたイメージソングの走りとなった。
1978(昭和53)年、グリコは1粒チョコレートの用途開発として「おもてなしキャンペーン」を展開。これは1粒チョコをお皿に盛りつけ、紅茶を入れて友人やお客様をもてなしたり、ウイスキーやブランデーのおつまみとして勧めるという、新たな食べ方の提案だった。
80年代以降、消費者ニーズが変化すると共にチョコレートも多様化が進むが、1粒ごとに包装してあるアーモンドチョコレートは、じっくり味わって食べるチョコレートとして既に確固たるポジションを築いていた。アーモンドチョコレートが最も売れた時期も、70年代半ばから80年代半ばにかけてである。
90年代後半から、チョコレートの多様化がますます進んだ。現在のグリコは、ふっくらサックリした食感の「ほわわ」や、コーヒー豆を粉砕して練り込んだ「アロマーモ」といった新感覚のチョコレートを発売し、変化する消費者ニーズに応えようとしている。
アーモンドチョコレートは数年前に店頭効果を考えてパッケージを大型化したほか、気軽に食べられるよう、新たに小袋タイプとパウチタイプをラインアップした。さすがに昔ほどの勢いはないが、今も同社菓子部門の重要な製品であることに変わりはない。
菓子業界では、1,000種類の新製品が誕生しても、その内、生き残るのは3つ程だと言われている。10年続く製品ですら滅多に生まれないという、厳しい業界なのだ。
そんな中にあって、アーモンドチョコレートはもう48年も定番であり続けている。時代の空気や消費者の嗜好に合わせて微妙に味を変えてきたが、まろやかなチョコレートの味わいとアーモンドの香ばしさは変わっていない。
カリッとアーモンドを噛み砕いた時、創業者・江崎利一の声が聞こえたような気がした。
「誰も作ったことがないチョコレートだからこそ、今も続いているんだよ」 |