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ニッポン・ロングセラー考 Vol.41 森永製菓 チョコボール 子供たちの心をとらえた「おもちゃのカンヅメ」

開けることが楽しくなるパッケージを

初代チョコボールのクチバシ部分

チョコボールのパッケージを特徴付けているのが、このクチバシ部分。開けると目が現れ、小鳥のイメージになる。

1999(平成11)年に創業100周年を迎えた森永製菓。同社には創業と同時に発売した「ミルクキャラメル」や、日本初の飲用ココアとして知られる19(大正8)年発売の「ミルクココア」、国産ビスケットの代名詞ともなっている23(大正12)年発売の「マリー」など、今も幅広い人気を誇るロングセラー商品が数多くある。
チョコレートの分野では、18(大正7)年に発売した「ミルクチョコレート」が有名。これはカカオビーンズから一貫製造された初の国産チョコレートで、以降、チョコレートは森永製菓にとって主力商品のひとつとなっていく。

ところが、菓子業界は昔から競争が激しい。60年代以降、森永製菓はチョコレートの分野で同業他社にやや水を空けられてしまう。
市場を取り戻すために同社が発売したのが、1964(昭和39)年の「ハイクラウンチョコレート」だった。これが大ヒットし、森永製菓は大人向けチョコレート市場を抑えることに成功。次は子供向け市場をつかむために、魅力的な商品を作る必要があった。

菓子としてのチョコボールは、1965(昭和40)年に「チョコレートボール」として発売済みだった。開発陣は、「これを改良し、もっとパワーのある魅力的な商品を作ろう」と考えた。
おいしさはもちろん重要。ただ、それだけでは子供の興味を引き付けることができない。ではどんな要素があればいいのか。開発陣が検討したテーマは、「開けることが楽しくなるパッケージ」だった。チョコレート菓子に、おいしさ以外の新しい価値を付加しようと考えたのである。

試行錯誤の末に完成したのは、縦長スタイルで2重サック式になった独特のパッケージだった。箱の上部を引き上げると、鳥のクチバシのような振り出し口が飛び出して、そこからチョコボールが出てくる。凝った仕掛けだったが、設計は大量生産を前提にしたものだった。
発想はさらに膨らんだ。振り出し口が鳥のクチバシに似ているなら、パッケージ全体を小鳥のイメージにしたらどうか。クチバシの傍、鳥の目に当たる部分にはチョコボールが描かれ、表には羽根を表現する斜めのラインが入れられた。
開発陣の次なる仕事は、当時の子供向け菓子にはよくあった、キャラクターの設定だった。


パッケージから生まれたキャラクター「キョロちゃん」

初代チョコボールのパッケージ

発売当時のチョコボール3種。デザインの基本は現行商品とそれほど変わっていない。内側のサックをそのまま上に引き上げる仕組みだった。

キョロちゃん

キョロちゃんデザインは40年間にわたり、ほとんど変わっていない。

キョロちゃんぬいぐるみ

人気を博したキョロちゃんのぬいぐるみ。キャラクターグッズは販促品として幅広く使われた。

パッケージが小鳥だから、キャラクターは当然、小鳥になる。子供に受け入れられるような可愛いデザインでなければいけないし、後々まで印象に残るようなインパクトも必要だ。
またチョコボールは、ピーナッツをチョコレートで包んだ「ピーナッツボール」、キャラメルをチョコレートで包んだ「チョコボール」、ピーナッツ入りのキャンデーをチョコレートで包み、さらにシュガーコートした「カラーボール」の3種類で発売されることが決まっていた。キャラクターは、その違いも絵で表現しなければならなかった。

完成したキャラクターデザインは、なんとも前衛的な絵柄だった。
大きな目と、ころんとした体つき。確かに鳥に見えるけれど、羽らしいものは見当たらない。もっと不思議なのは、横向きなのに目が二つ正面に並んでいること。実はこれ、同存化表現という伝統的な絵画手法のひとつで、平面上に立体を強調する表現方法。キュビズム時代のピカソも良く使っていたという。開発時は「目つきが悪い」という声もあったが、目がキョロキョロしていることから、このキャラクターには「キョロちゃん」という愛称が付けられた。
味の表現には、「ピーナッツボール」はピーナッツの薄皮がついたもの、「チョコボール」はキャラメル色の胴体に蝶ネクタイ、「カラーボール」は赤・黄・緑・青のストライプ柄、といった具合に、キョロちゃんの胴体が使われた。

小鳥を模した斬新なパッケージと、前衛的なキャラクター「キョロちゃん」。この二つが合体した3種類の初代チョコボールは、1967(昭和42)年、満を持して発売された。価格は各30円。
森永製菓の狙いどおり、チョコボールは発売当初から子供たちに好評で、順調に売上げを伸ばしていく。
積極的な宣伝展開も、チョコボールの売上げ増加に大きく貢献した。
発売当時のテレビCMには、キョロちゃんの形をした帽子を被った歌手のペギー葉山が登場。その後約20年間は、子供たちに絶大な人気を誇ったタレント、田中星児がブラウン管を飾った。
そして87(昭和62)年には、とんねるず主演のテレビCMに再びキョロちゃんが登場。「クエッ!クエッ!クエッ!」という名フレーズと共に、キョロちゃん自身が人気者となっていく。

このCM以降、森永製菓はチョコボールの広告戦略を、キョロちゃんを前面に押し出したキャラクター戦略へと変更する。90年代のテレビCMには、キョロちゃんクレイアニメや着ぐるみキョロちゃん、CGキョロちゃんなどを次々と登場させ、チョコボール=キョロちゃんのイメージを定着させていった。
1991(平成3)年にぬいぐるみを始め、ゲームソフトやプリクラ、ビデオ、時計など、様々な分野でキョロちゃんのキャラクターグッズが登場。99(平成11)年には、なんとテレビアニメまで放映されている。
現在、森永製菓は9月6日を「キョロちゃんの日」と定め、夏休みには「キョロちゃん夢ファンタジーミュージカル」という無料の招待イベントを毎年開催している。
お菓子のオリジナルキャラクターは数多いが、ここまで認知され、マルチに展開されている例は極めて珍しい。


子供たちが夢中になった「おもちゃのカンヅメ」

まんがのカンヅメ雑誌広告

発売当時の雑誌広告。キョロちゃんではなく、「まんがのカンヅメ」の魅力を訴求していた。

最初のおもちゃのカンヅメ

1969(昭和44)年に登場した「おもちゃのカンヅメ」第1号。まんがはなくなり、おもちゃの種類が増えた。

玉手箱

1976(昭和51)年には、外の容器も使えるようにした「玉手箱」が登場。四角いのは男の子用、ハート形は女の子用だった。

最新のキラ★キョロ缶最新のキラ★キョロ缶
キラ★キョロ缶

最新の「キラ★キョロ缶」。2006年7月から07年6月までの1年間限定カンヅメで、ピーナッツ缶とキャラメル缶がある。

チョコボールを語るときに絶対外せないのが、「おもちゃのカンヅメ」の存在だろう。子供の頃、これ目当てにチョコボールを買っていた人も多いはずだ。
これもまた販促活動の一環で、収集心をくすぐるコレクション性と希少性の高いプレゼントを通じて、子供の興味を引き付けるのが狙いだった。
発売当時は中に豆本が入った「まんがのカンヅメ」だったが、2年後には小さな玩具や文房具が入った「おもちゃのカンヅメ」に変更。同時に、森永製菓は広告展開でも「おもちゃのカンヅメ」を全面的にアピールするようになる。

このプレゼントキャンペーンのうまいところは、クチバシ部分に金のエンゼルがあれば1枚で、銀のエンゼルなら5枚集めれば、必ず「おもちゃのカンヅメ」をもらえるという点にある。
さすがに金はなかなか出ないが、銀が出る確立は比較的高く、頑張れば誰でも手に入れることができる。このほどほどのプレミアム感と、楽しそうな物がカンヅメにいっぱい詰まっているというワクワク感が、子供の心を捉えたのだ。
森永製菓は「おもちゃのカンヅメ」の当選確率を公表していないが、同社広報によると、月平均で約2万個を発送しているという。プレゼントキャンペーンとしてはかなりの高確率といえるだろう。

もうひとつ、「おもちゃのカンヅメ」が同類のプレゼントキャンペーンと一線を画しているのは、これが今もちゃんと続いているということ。チョコボールの発売以来約40年、このキャンペーンは一度も中断したことがないのだ。
これだけでも凄いことだが、さらに驚くのは、その多彩なバリエーション。ほぼ2年ごとに中身やカンヅメの形を変えており、しかもたいてい2種類用意されている。時にはシークレットカンヅメが用意されることもあった。
「おもちゃのカンヅメ」は、最新の「キラ★キョロ缶」でちょうど20代目になる。ざっと計算して、今まで登場したカンヅメは約40種類。最初のカンヅメは、もはや森永製菓にもないらしい。もし第1号の「おもちゃのカンヅメ」を持っていたら、それはかなりのお宝だ。

キョロちゃん大集合
 
キョロちゃん大集合
 
太陽のカンヅメ
  月のカンヅメ

蓋がかぶせ式になった「キョロちゃん大集合」は、1991(昭和51)年のもの。ちなみにこの年、チョコボールのパッケージに初めてキョロちゃんの名前が表示された。

 

2001(平成13)年には、ブック型の「太陽のカンヅメ」と「月のカンヅメ」が登場。シークレットとして「時のカンヅメ」もあった。


 
消費者ニーズに合わせ、味とパッケージを常にリニューアル

キョロちゃんクラブ
大ヒットシリーズとなった「キョロちゃんクラブ」。そのコンセプトは99年以降の「キョロちゃんショップ」に受け継がれた。
150円チョコボール
1999年に発売された大人の150円チョコボール「アーモンドキャラメル」と「大粒ピーナッツ」。
チョコボールミルク
新製品のチョコボール<ミルク>60円(税別)。現在のチョコボールは全品にカルシウムを添加し、健康志向を打ち出している点も新しい。

時代とともに変わったのは「おもちゃのカンヅメ」だけではない。常に商品の新鮮さを維持しなければならないのは、菓子業界の宿命。90年代以降、チョコボールはほぼ毎年のようにラインナップを変更している。
なかでも大きなヒットになったのが、1991年に発売した「ビッグチョコボール」(1000円)。ちょうど菓子のジャンボブームが起きていた頃で、この途方もない大きさのチョコボールが売れに売れたという。

「ビッグチョコボール」以上に売れたのが、1995(平成7)年に発売した「キョロちゃんクラブ」(150円)だった。これは既存のチョコボール「ピーナッツ」「いちご」「キャラメル」を少量ずつ集め、マスコットとして様々なデザインのキョロちゃんスタンプを組み合わせたアイデア商品。途中でスタンプがシールに代わったり、再びスタンプに戻ったりしながら、シリーズはパート10まで続いた。
「キョロちゃんクラブ」がヒットした背景には、当時のコミュニケーション状況がある。90年代半ばは、携帯電話が今ほど普及しておらず、ポケベルも使われていた時代。女子中高生の間では、まだ紙ベースのコミュニケーションが根強く支持されていた。可愛いキョロちゃんのスタンプ集めやシール集めは、彼女たちの間でちょっとしたブームになったのである。
その後、99年には150円の大人向けチョコボールが発売され、様々なバリエーションが登場したが、現在、チョコボールのラインナップは60円の商品だけに絞られている。

一方、チョコボールのパッケージも、発売以降、2度大きな手が加えられている。1969年には内側のサックを改良し、蓋を起こすとクチバシが出てくる方式に変更。74(昭和49)年には上のクチバシを起こすだけのシンプルなスタイルとなり、現在に至っている。
もちろん、味のリニューアルはもっと頻繁に行われている。最新のチョコボールでは、キャラメルはさらに柔らかく、歯にくっつかないように工夫され、ピーナッツはより香ばしく、粒が大きくなっているという。

2007年、チョコボールは発売40周年を迎える。40年の間に、チョコボールはそのバリエーションを目まぐるしく変えてきた。普通なら、商品のアイデンティティそのものが揺らいでしまってもおかしくないくらいに。
でも、パッケージにキョロちゃんが描かれている限り、そしてクチバシに金のエンゼルか銀のエンゼルが隠されている限り、チョコボールはやはりチョコボール以外の何物でもない。
「開ける楽しさ、ワクワク感」といった子供の心を引き付ける大きな魅力は、今も昔もまったく変わっていないのである。

取材協力:森永製菓株式会社(http://www.morinaga.co.jp
     
働く女性のための、大人向けチョコボール
「艶やかビター」「まろやか豆乳」
チョコボール「艶やかビター」は気分を引き締めたいとき、「まろやか豆乳」はホッと一息つきたいときに最適。コンビニ、駅売店で発売。各100円(税別)。
チョコボールの歴史を振り返ると、ここ数年で何度か"大人向け"商品が発売されていることに気が付く。子供の数が減り、新規需要が期待しにくくなっていることがその理由だ。
今年7月に発売されたばかりのチョコボール「艶やかビター」「まろやか豆乳」もまた、チョコボールを卒業した世代に向けた新製品。働く女性にターゲットを絞り、味もパッケージデザインも大人向きに仕上げられている。
「艶やかビター」は、チョコボールの代表ともいえるピーナッツを本格ビターチョコでコーティング。香ばしさと深い味わいが特徴だ。「まろやか豆乳」は、軽い食感のココアビスケットを豆乳風味のホワイトチョコでコーティング。独特のまろやかな味わいが楽しめる。
最近の菓子業界はオフィス需要が伸びているという。子供の頃、「おもちゃのカンヅメ」に憧れた若いOLたちが、ランチの後にチョコボールを手に取る。そんな光景が目に浮かぶようだ。

撮影/海野惶世(タイトル部) タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 Top of the page

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