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大型カッターの定番「万能L型」。紙から薄手のベニヤ板まで切ることができる。Gマーク選定品・ロングライフ賞受賞。525円。 |
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両手でしっかりもって使う大型の「LL型」。ベニヤ板、原皮、厚紙、ゴムの切断などに最適。Gマーク選定品・ロングライフ賞受賞。1,260円。 |
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ラバーグリップを採用し、握りを追求した「ハイパーシリーズ」。「AL型」は大型刃装着タイプだ。Gマーク選定品・ロングライフ賞受賞。オープン価格。 |
現在、オルファの国内における市場シェアは50%ほど。カッターナイフ専業メーカーは同社のほかに1社しかなく、後は工具メーカーや文具メーカーがそれぞれ数種類をラインナップに加えているくらいだ。
同社企画部の担当者は、「カッターナイフは大きな利益が見込めるような商売じゃないから」と語る。確かにそうかもしれない。物価上昇率に比べると、カッターの価格はほとんど据え置かれたままだ。1本200〜300円ほどで手に入り、一度買えばなくさない限りなかなか買い替えない。替え刃の需要は大きいが、その刃もずいぶん長持ちする。となると、市場は自ら開拓するしかない。オルファが早くから輸出に乗り出し、開発型のメーカーになったのも頷ける話だ。
もうひとつ、オルファが躍進するうえでプラスに働いたことがある。他社に先駆けて「折る刃」式カッターの市場を獲得できたため、先行者メリットを手にできたのだ。
カッターナイフの替え刃は消耗品だから、メーカーは製品を開発する際、どのメーカーの刃でも使えるように互換性を考えなくてはならない。市場を見渡すと、既に出回っている替え刃はオルファのものばかり。後発メーカーはオルファの刃のサイズに合わせた製品を作らざるを得なかったのだ。凄いのは、それが世界レベルの話だということ。オルファの刃(小型刃、大型刃)の規格は、今や世界標準になっているのである。
品質に対するこだわりもオルファの特徴だ。オルファは創業時から今に至るまで、すべての製品を国内で作っている。最近は刃を人件費の安い中国で生産するメーカーも少なくないが、同社はあくまでも国内生産にこだわり続けている。
刃の原材料はJIS規格の炭素鋼。これも昔から変わらない。別の素材を使えばコストを1円減らせると材料メーカーから教えられても、良男は頑として譲らなかったという。少しでも品質を落とすことは、絶対に許せなかったのである。
こうした品質重視の姿勢から生まれたオルファカッターは、国内でも高く評価されている。「ブラックS型」「万能L型」「LL型」など、初期に発売されて今も継続販売されているロングセラーから、最新の「ハイパーシリーズ」に至るまで、合計48品目がグッドデザイン賞を受賞しているのだ。しかもそのうち16品目は、受賞後10年以上にわたって販売されている商品に与えられるロングライフデザイン賞を受賞している。
この賞がデザインだけでなく、製品の機能や品質、安全性まで審査対象に含めていることを考えると、オルファカッターの“モノ”としての完成度の高さには改めて驚かされる。
その昔、岡田良男はカッターを指して「これが私です」というキャッチコピーを作ったという。社員旅行のバスの中でもカッターの話しかしないほど、良男は人生のすべてをカッターの開発に捧げていた。ほとんど変えようがないと思われていた刃物に“折る刃”という革命をもたらした後も、「もっと良く切れるように、もっと使いやすいように、もっと安全に」──そう考えて開発の手を休めることはなかった。
今、私たちは当たり前のこととしてカッターの刃を折っている。でも、51年前まで刃物の刃が折れることはなかったし、カッターナイフも存在していなかった。ひとりの工作好きの青年が、私たちにまったく新しい刃物を与えてくれたのである。 |