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ニッポン・ロングセラー考 Vol.68 ロゼット洗顔パスタ ロゼット 白子さん黒子さんの広告で大人気日本初のクリーム状洗顔料

発想の原点は“硫黄を用いたニキビ治療薬”だった

原敏三郎

創業者・原敏三郎。硫黄に目を付けたクリーム状洗顔料の発明者であり、メディア戦略に長けた経営者でもあった。

雑誌の新聞広告

1935(昭和10)年頃の雑誌広告。「ニキビが消えて色が白くなる」という効能を明記している。

源泉数、湧出量ともに全国1位を誇る温泉王国、大分。ここは天ヶ瀬温泉、赤根温泉、別府八湯の明礬温泉など、硫黄温泉が多いことでも知られている。
時は昭和の始め頃。大分のある町で、硫黄の臭いに包まれながら、一人の若者が不思議な研究に没頭していた。硫黄を精製し、粉末状にしようと四苦八苦している。若者の名は、原敏三郎。作ろうとしていたのは、ニキビに効果のある洗顔料だった。若い女性にとって、ニキビは大きな悩みの一つ。この悩みを解消できたら女性にとって朗報となるし、事業としても見込みがある。洗顔料を作ろうと思い立ったのは、母方の実家が地元・別府で医者を営んでいたせいかもしれない。
硫黄に目を付けたのは、昔から「硫黄温泉に入ると肌がすべすべし、色が白くなる」という評判を聞いていたからだった。「硫黄にはニキビに効く何かがある」敏三郎は硫黄の効能に確かな自信を持っていた。

敏三郎の頭にあったのは、ただの洗顔料ではなかった。軟膏のようにクリーム状の洗顔料を作ろうとしていたのである。洗顔料といえば固形石鹸しかなかった時代だから、クリーム状の洗顔料は驚きを持って受け入れられるに違いない。今までの製品とは全く違った、「ニキビを治し、色を白くする」洗顔料──敏三郎の狙いはそこにあった。
日々研究に没頭した結果、ついに日本初のクリーム状洗顔料が完成。1929(昭和4)年、敏三郎は天然硫黄のパウダーを練り込んだこの製品を「レオン洗顔クリーム」と名付けて売り出した。個人商店としての販売だったため販路を広げることはできなかったが、商品の評判は敏三郎が予期した以上に良かった。手作りのため大量には作れないが、作る端から売れていく。これに意を得た敏三郎は、1934(昭和9)年、株式会社レオン商会を設立し、本格的に製品を売り出すことにした。白いガラス瓶に詰めたレオン洗顔クリームの値段は、小瓶が1円40銭、徳用瓶が3円40銭。当時の固形石鹸は1個10銭ほどだったから、随分と高価な製品だった。

会社は作ったものの、製品を売るためには流通ルートを開拓しなければならない。洗顔料を扱っているのは薬局と化粧品店だが、会社を作ったばかりの敏三郎が問屋に顔が利くわけもなかった。既に購入者からは高い評価を得ているし、製品には絶対の自信がある。どうしたらレオン洗顔クリームを世間の女性に知ってもらえるだろう? 悩んだ末に、敏三郎は思い切った手を打った。
新聞に3〜4行の短い説明広告を出し、通信販売を始めたのである。「ニキビが消えて色が白くなる」という製品の効能をわずか数行で端的にアピールし、価格分の切手を郵便で会社まで送ってもらう。いわば、日本における通信販売の原点のようなスタイルである。マスメディアを積極的に利用し、最小限の費用で最大限の効果を上げる。敏三郎の卓越したメディア戦略はここから始まったのだった。

その後は大きなスペースを使った新聞広告を出すようになり、レオン洗顔クリームは徐々にその名を知られるようになる。利用者間の口コミ効果も大きく、今までにない洗顔料として、評判はどんどん高まっていく。確かに値段は高いが、ここまで効能をはっきりと謳った洗顔料はそれまでになかった。ニキビやシミ、色の黒さで悩んでいた世の女性たちは、こぞってレオン洗顔クリームを買い求めたのである。最初は相手にしなかった問屋も、結局はその人気を見過ごせなくなった。レオン洗顔クリームは、他に類を見ない高級洗顔料として、薬局や化粧品店の店頭を飾ることになったのである。
やがて日本は戦時体制下に入り、レオン洗顔クリームの生産もやむなく中止された。だが、この大ヒット商品は戦後まもなく復活し、新たな道のりを歩み出すことになる。


「ロゼット」ブランドを冠し、洗顔料の代名詞的存在に

ファミリーサイズが仲間入り

昭和30年代のパッケージ。左が60gのレギュラーサイズで、右は後に加わった90gのファミリーサイズ。

チューブからクリームを出しているカット

内蓋を利用した独特の使い方はロゼット洗顔パスタのオリジナル。クリームの硬さを維持するための工夫でもある。

荒性用3ヶ

1960年代には「荒性肌タイプ」も追加された。後に普通肌と並ぶ主力商品に成長。

チューブタイプ

一時期発売されていたチューブタイプ。使い勝手は良かった。

ロゼットダイヤモンド

洗顔パスタの高級版として登場した「ロゼットダイヤモンド」。

終戦から6年目の1951(昭和26)年。世の中はやや落ち着きを取り戻していたが、洗顔料や化粧品の市場は驚くほど混乱していた。なんと、レオン洗顔クリームと名付けられた商品が既に売られていたのである。内容や容器をそっくりにまねた模造品だった。しかもその数は一つや二つではない。数え切れないほどの模造品が市場に出回り、粗悪な製品も多かった。このままではせっかく苦労して作り上げたクリーム状洗顔料の市場が壊されてしまう。復活を期した敏三郎は、再び新たな販売戦略を練ることになった。

そこで考えたのが、過去を捨て、全く新しい装いで再スタートする“ブランド戦略”。まず、商品の発売元を1951(昭和26)年に設立した昭光製薬株式会社に変更した。次に、商品名を「ロゼット洗顔パスタ」に変えた。ロゼットは、薔薇結びのリボンや薔薇の花飾りを意味している。薔薇が持つゴージャスなイメージは、商品の高級イメージにぴったりと重なった。ちなみに現在も継承するバラダイヤのシンボルマークは、この時作られたものである。
一方のパスタはスパゲティやマカロニのことではなく、クリーム状、ペースト状の軟膏剤を指している。昭光製薬株式会社が販売するロゼット洗顔パスタ──レオン商会の名も、レオン洗顔クリームの名もそこにはない。だが、敏三郎には勝算があった。今まで築き上げてきた確かな品質と信頼は、名前が変わっても大きな武器になる。加えて、自分には他の誰にもまねできない宣伝力がある。その自信は商品の価格に現れていた。60g入りの価格は、なんと280円。一般的な化粧クリームは80円ほどだったから、レオン洗顔クリーム同様、ロゼット洗顔パスタもまた飛び抜けて高価な洗顔料だった。

ロゼット洗顔パスタの特徴として見逃せないのが、そのユニークな容器の形だろう。やや浅めの円筒容器に入っているので、一般的な化粧クリームと同じように、蓋を開ければ中身がそのまま詰まっているように思う。が、蓋を開けてみると、クリームを覆い隠すような形で内蓋が付いているのだ。この内蓋の真ん中に直径1cmほどの小さな穴があり、内蓋の周囲を押して、この穴から中身のクリームを押し出す仕組みになっているのである。
考えてみれば、これはチューブ入りのクリームと同じ方法だ。当時はまだ化粧品用のアルミチューブがなく、硫黄を使用するクリームのデリケートな硬さを維持するために、この方法を採用した。同時にこの容器は、レオン洗顔クリーム時代から続く、軟膏のイメージを踏襲することにもつながった。結局このパッケージはロゼット洗顔パスタだけのオリジナルデザインとなり、現在もしっかり守られている。

ロゼット洗顔パスタは1960年代に販売のピークを迎える。バリエーションが増えたのもこの頃で、60gのレギュラーサイズに加え、30gのハンディサイズと90gのファミリーサイズを追加。また、現在も主力商品となっている荒性肌タイプが登場したのも同じ時期で、サイズとタイプだけでもロゼット洗顔パスタは6商品がそろっていたことになる。ちなみに荒性肌タイプはデリケートな肌のことを考えて、洗浄力をやや弱めに調整してある。
変わり種の洗顔のパスタもいくつか発売された。1963(昭和38)年に発売されたチューブタイプ。使い勝手は良かったが、レギュラー商品の根強い人気にはかなわなかった。また、1960年代から80年代にかけて発売された「ロゼットダイヤモンド」は、天然硫黄に加えて卵黄などの成分が配合された贅沢な商品。通販で注文を受けた分だけを一品ずつ手作りしていた。値段はレギュラー商品の倍以上。比較的、長寿だったのは、経済成長が目覚ましかった時代の歩みと足並みがそろっていたからだろう。

 


画期的だった白子さん黒子さんの“おしゃれ問答”

漫画広告
漫画広告
漫画広告

白子さん黒子さんが登場する対話形式の漫画広告。2人は対話形式だけでなく、さまざまな広告に登場。今見てもそれほど古さを感じさせない。

40代以上の中年層にとってロゼット洗顔パスタのイメージは、商品そのものよりも、テレビCMや新聞・雑誌などの広告の方が強いかもしれない。白子さんと黒子さんという2人の女性キャラクターが登場する漫画広告で、対話形式でロゼット洗顔パスタの良さを分かりやすく説明していくという内容だった。「あ〜ら、白子さんの肌、いつもおきれいねぇ〜」(黒子)。「だってロゼット洗顔パスタを使っているんだもん」(白子)という具合。
この広告が印象的だったのは、その独特のキャラクター造形による。見ていただくと分かるが、白子さんも黒子さんも異様に目が大きく、しかも目の下はすぐ口になっていて鼻がない。顔以外はいたって普通の造形で、この2人以外のキャラクターは全く違和感なく描かれている。大人はともかく、子供にはかなり不気味なキャラクターとして映ったのではないだろうか。

これらの広告は社内のデザイナーが作っていたという。白子さんは創業者である原敏三郎の妻が、黒子さんはその姪がモデルだったらしいが、それにしてもなぜここまで個性的な造形にしたのだろう? 商品の説明だけなら、白子さんも黒子さんも普通の顔のままでいい。資料が残っていないので憶測の域を出ないが、おそらくは「黒い肌が白くなる」という変化を最大限の効果で見せるため、インパクトのある造形で見る者の注意を引こうと考えたのではないだろうか。そうだとしたら、その狙いは大成功といって良い。ロゼット洗顔パスタそのものを覚えていなくても、白子さん黒子さんの軽妙な“おしゃれ問答”を覚えている人は結構多いからだ。

ロゼット洗顔パスタのテレビCMが始まったのは、1960年代の半ば頃から。この漫画広告を発案したのもまた、敏三郎だった。彼には「漫画は人の頭の中に必ず残る」という強い信念があったらしく、漫画形式以外のCMはあまり作られていない。
敏三郎の巧みなメディア戦略は、ここでもいかんなく発揮されている。テレビの黎明期に実写とアニメを合成させたCMは極めて斬新だったし、そもそも対話形式で商品の内容を説明するというスタイル自体が、日本ではほとんど馴染みがないものだった。テレビなら強烈なインパクトで訴求できるし、新聞や雑誌の広告なら、漫画があるだけで見てもらいやすくなる。しかもスポーツや旅行などアクティブに活動する白子さん黒子さんは、今でいうキャリアウーマンの先駆けのような存在。女性にとって白子さん黒子さんは単なる漫画のキャラクターではなく、ライフスタイルのお手本でもあったのだ。

結果的にこの漫画広告がロゼット洗顔パスタの販売数を大きく押し上げることになった。ピーク時には年間600万個も売り上げたという。広告のコピーに関しては薬事法が見直された現在の基準からするとやや不適切な面はあるが、それは薬品や化粧品の広告なら全て同じ事。レオン時代よりその広告、宣伝の業界から高く評価されていたが、ロゼット洗顔パスタの広告は、その斬新さや完成度の高さにおいて、間違いなく日本の広告史に残るはずだ。


 
祖母・母・娘の三代に渡って愛用される信頼のブランド

現行ロゼット洗顔パスタ

現行の「ロゼット洗顔パスタ」。箱のデザインも発売当初とほぼ変わっていない。ピンクが普通肌用。優しい洗いあがりで肌あれ・ニキビを防ぐ。ブルーが荒性肌。肌荒れを防ぎ、うるおいのある肌に洗いあげる。525円/60g、682円/90g。

ハローキティ ロゼット洗顔パスタ
ファミリーサイズが仲間入り

「ハローキティロゼット洗顔パスタ」。丸顔のキャラクターを活かした秀逸なデザインだ。

© 1976, 2007 SANRIO CO.,LTD. APPROVAL NO.S8102503

ロゼット洗顔パスタの成分、容器、箱は、1951(昭和26)年の誕生当時からほとんど変わっていない。容器や箱は古さが逆にレトロな味わいを醸し出し、これだけでもオールドファッションが好きな女性には好まれそうだ。
ずっとロゼット洗顔パスタを使い続けてきたユーザにとって大事なのは、見た目のデザインではない。大事なのは、ほのかに硫黄の香りがする洗顔クリームと内蓋を利用した独特の容器。製品に対するユーザの信頼度は想像以上に高く、一時的に他の製品に移っても、再び戻ってくるユーザが非常に多いとのこと。そうした熱心なユーザが、時として世代を越えた愛用者となる。今もロゼットには、「我が家は祖母・母・娘の三代にわたって愛用しています」といった内容の手紙が届くという。

ただ、ロゼット自体は今後もこのままのデザインでいくか、それとも何らかの新しいテイストを盛り込むか思案しているようだ。容器や箱のデザインを大胆に変えると既存のユーザが離れてしまうことが往々にしてある。ロゼットも以前、ある地域でテスト的に箱を斬新なデザインに変えて発売したことがあるが、不思議なことに売り上げはほとんど変わらなかったという。
どうやらロゼット洗顔パスタのユーザは、箱のデザインには興味がないらしいのである。もっとも中心ユーザが中年以上の女性層だから、それも無理はないのかもしれない。かといってこのまま何も変えずにいたら、新しいユーザを獲得することはできない。需要は先細りになってしまう。

では、ロゼット洗顔パスタを全く知らない若い女性を想定して、一からデザインを見直したらどうだろうか。2007(平成19)年の暮れから今年の春にかけて、そんな発想を形にした興味深いキャンペーンが行われた。サンリオとコラボレーションし「ハローキティ ロゼット洗顔パスタ」を数量限定で発売したのである。中身はそのままに、いつもの容器を白くし、上蓋にハローキティの顔をアレンジ。知らないで見ると、とてもロゼット洗顔パスタとは思えない。しかも箱は表裏でデザインを変えるリバーシブル仕様。説明書もキティバージョンにするなど、細部までこだわりをもって仕上げた。この商品はハローキティのファンを中心に、今までロゼット洗顔パスタを全く知らなかった女性層を開拓することに成功。製品は市場にほとんど残っていないという。
既存のユーザのために今までの製品はそのまま残し、その一方で新規ユーザ獲得を目指した大胆なアプローチを行う。ややもすると古いと言われがちなロゼット洗顔パスタだが、まだまだ需要を拡大する余地はありそうだ。

ロゼット洗顔パスタには、他のどの洗顔料にも負けない長い伝統がある。硫黄を含んだ洗顔料の分野では、競合商品もほとんど存在しない。その礎は、創業者の敏三郎が作ったものだ。現在のロゼットは創業家の手を離れているが、創業者が植え付けたDNAは、おそらく今も受け継がれているだろう。
ロゼットは戦後、社名と商品名、容器を変えて再スタートを切っている。必要とあらば大胆な変更も厭わず、思い切って新しい要素を取り入れるのもロゼットのDNAだとしたら…いつの日か再び、私たちが驚くほどの変化を見せてくれるかもしれない。

 
取材協力:ロゼット株式会社 (http://rosette.jp
     
白子さん黒子さんがこんなところに!
チューブ入りロゼット洗顔パスタ2種
「ロゼット洗顔パスタさっぱりタイプ」と「ロゼット洗顔パスタしっとりタイプ」。共に630円/130g。

古くからのユーザにとっては思い出深い白子さんと黒子さん。もう会えないのかと思っていたら、いつの間にかロゼットのパスタシリーズで復活していた。チューブ入りの「ロゼット洗顔パスタさっぱりタイプ」と「ロゼット洗顔パスタしっとりタイプ」のパッケージに、ちゃんと描かれているのである。よく見ると昔の白子さん黒子さんとは少し印象が異なり、どことなく優しい雰囲気。目の大きさは相変わらずで鼻もないが、昔のキャラクターよりずっと親しみやすい。
ということは、ずっと社会の第一線で頑張ってきた彼女たちも、いろんな経験をしてやっと落ち着いてきたのかも。パッケージの絵柄を見ていると、こんな会話が聞こえてきそうだ。「昔の私たち、ホントに元気いっぱいだったわよねえ」。

 
タイトル部撮影/海野惶世 タイトル部撮影ディレクション/小湊好治 取材編集/バーズネスト Top of the page

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