まずは、アナウンサーを辞めて、何故ご自身で起業しようと思われたのかお話しいただければと思います。

きっかけは、27歳から29歳にかけてテレビの特派員としてニューヨーク支局に駐在したことです。テレビの世界は本当に好きでしたし、色々な経験もできて満足していたんですが、やはり若い方が良しとされる女性アナウンサーの世界ですから、続けていくのは難しいだろうな、それよりは50代、60代に繋げていける仕事がしたいなと思ったんです。
支局でディレクターや記者的な仕事を経験したことで、自分で指示して動かすということが私には向いているんじゃないかとも思いましたし、普通の主婦が起業している様子などを見たりしたことも契機になっているでしょうね。それで29歳のときに会社を辞めました。年齢に関係なく自分の夢を追いかけるのを後押ししてくれるニューヨークという土地にいたから決断できたんだと思います。
 でも会社を辞めて肩書きのない自分になったときは非常に不安でした。GMATやTOFLEのテストを受ける度に、大きな夢に向かっているはずが、なんで5点、10点で一喜一憂しなきゃならないんだろうって思いましてね(笑)。でもまあ、無事にコロンビア大学のビジネススクールに合格して1年4ヶ月で卒業することができ、帰国後、勉強のつもりで外資系コンサルティング会社に入り、94年に事業開始しました。


事業に人材紹介をお選びになったのは?

理由は二つあります。ひとつは私自身がアナウンサーからキャリアチェンジをしたので、方向性が見えないという女性達からいろいろな相談を受けていたこと。もう一つはキャリアビジョンを構築するなどコンサルティング会社にいたときの経験を活かせる事業だからです。

外資系企業との取引が多いようですが、これには何か理由があるのでしょうか?

中途採用を行っているのが外資系という、単純な理由です。日本の大企業は人材を放出している側ですから。
 ただ今後は日本の企業も変わっていくと思います。今、日本では会社の体力がなくなり、これまでのような終身雇用制が崩壊して、40歳以上の方はリストラで大変なことになっています。一方、若手で優秀な方でも50歳になるのをただじっと待つのではなく、転職を考え始めています。これらふたつの流れから、大企業は変わらざるをえないと言えます


では、どう変わらなければならないのか。例えば、私は同じような大学を出て、社会人5年目くらいの人たちにお会いする機会があります。一人は、都市銀行に勤務。もう一人は米国系の企業に勤務しているとします。その2人は明らかに顔が違うんですね。それぞれが過ごした5年間のスピードの違いでしょう。持っている資質は同じでも周囲の環境によって、大きな違いが生じてくるということです。
 もう一つ。今まで終身雇用制によって、企業側が人事を決めていたため、自分のキャリアを自分で作れなかった。でも今後は、社員が自分の専門性を高めることを選べるように企業側が取り組まなければならないと思います。そうでないと、企業から放出されたときに、その人は全くつぶしのきかない人間になってしまいます。
 つまり企業としても専門性の高い人材を得るためには、そういう人を育てる環境を作らなくてはいけないわけです。最近ようやく、それを認識し始めた兆しがあるかなと感じています。
逆に個人には何が求められているのでしょうか?

今は企業の持ち駒(人材)が過剰で雇用の需給バランスが崩れているため、企業側が有利な状況にあり、人材を見る眼がすごく厳しくなっています。そうした中で、専門性や知識を別にすると、適応力のある、頭の柔軟な人、また率先して自ら提案できる人が職種を問わず求められていると言えます。
 逆に、今までの価値観をひきずっている人は望まれていない。私どもはそういった方々に対して、直接的にその固さを指摘することはしません。自ら面接にいって、断られる経験を1ヶ月、2ヶ月経ていく中で、体で学んでいくことが必要だと思っています。


キャリア戦略研究所設立から2年後の1996年にザ・クイックを設立されたんですね。

そうです。ちょうど、その年の5月、久しぶりに行ったニューヨークでとても流行っているネイルサロンを見つけたんです。幅広い年齢層の方が気軽に利用しているのを見て、こういうお店が日本にもあればいいなと思って。それから半年ほどリサーチをしながら「ネイル・クイック」のビジネスプランを作りました。コンセプトは、「フレンドリー」「カジュアル」「リーズナブル」「クイック」。
 翌年1月に、友人や知人から資本金を募って、資本金2,000万円で「ザ・クイック」という会社を立ち上げ、3ヶ月後にお店をオープンしました。今では第一号店の青山店を始め新しい丸ビルの4階にオープンした店舗も含め13店舗になります。他に2店舗、サプリメントとジュースのお店「ビタミンバー」もあります。

ネイルサロンの価格破壊ですね。2,800円という価格設定もいろいろ検討されたかと思いますが。

ネイル・クイックを作ったのは、ネイル業界の裾野を広げるためであって、普通のOLさんなどをターゲットにプライシングストラテジーを決定しています。10,000円だと年に一回しか行く気にならなくても、2,800円なら、月に1回、2回と行ってみようかという気持ちになりるでしょう?
 だから、一番基本となるハンドとフットは2,800円や5,300円でも、つけ爪など付加価値のあるものは、他のサロンと同じ価格設定にしています。
 ただ、安いだけではお客様は絶対ついてきてくれませんから、技術に関しては本当に厳しく指導しています。経験者でも、うちでは技術によりアシスタントからスタートするんです。ネイルは髪の毛と違って自分でできるものですから、お客様ができるレベルだったら、事業にはなりません。


二つの会社の経営者として心がけておられることはどんなことでしょうか?

やはり「自分が一番働く」ということでしょうか。これはもちろん単に時間のことではなく、アウトプットですが。でも、会社を始めてそろそろ10年目ですから、早く権限委譲をしたい。大体、自分がやってしまうと下は育たないし、それにどんどん下を育てない経営者は経営者としては不適格ですから。常にそのもどかしさを考えながらも、走り続けるということを自分に課しています。会社の規模に関係なく、経営者は皆、同じ気持ちだと思います。
 なので、常に効率的にしかも効果的に仕事をするようにと指示しています。優れた人材をたくさん育てていくということも、今後ますますの課題ですね。


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