最近、よく聞かれる言葉の一つに「ユニバーサルデザイン」がある。
これは、子供や高齢者など特定の人にとってバリア(障壁)となるものを取り除こうとする「バリアフリー」の考え方をさらに発展させたもので、最初から性別や年齢、国籍、障害の有無などに関係なく、誰もが使いやすいように街やモノをデザインしようという考え方。特に大切なのは、一人でも多くの人に使いやすいモノや空間を実現させるためにデザインを行おうとする姿勢やそのプロセス。具体的な成果より、そうした配慮や努力が、ユニバーサルデザインの本質と言われている。
本書は、そうしたユニバーサルデザインの入門書でありながら、一人の落ちこぼれシステムエンジニアがさまざまな人と出会い、成長していく物語としても楽しめる。小難しい専門用語も一切出てこないので、スイスイ読み進めることが出来るのも魅力の一つだ。
本書の中で著者は何度も問いかける。なぜ、パソコンは使いやすくならないのだろう? すでに眼鏡や靴のように、パーソナルな品物になっているのに。なぜ、もっとITは普及しないのだろう? 障害者をはじめ、多くの人にとって大きな力となるものなのに…。
これには企業側の認識不足ももちろんあるだろう。しかし、私達ユーザーのニーズがメーカーにきちんと伝わっていない、伝え切れていないからとも言えるのではないだろうか?
ITはこれからの街作りにおいても重要なキーワードである。ここにユニバーサルデザインの考え方を取り入れたなら、今は離れている市民と行政の距離を補えるかもしれない。子育て中の女性も、障害を持つ人も、高齢者も参加出来る、誰もが主役になれる社会作りを実現出来るかもしれない。その可能性は十分あるのだ。
人が道具に合わせ、我慢しながら使う時代はもうすぐ終る。終らせなければ困るのは結局、未来の自分なのだから。そのために今、私達がするべきことは、自分の意見を企業や行政に伝えること。幸いインターネットのメールでなら、それも簡単に出来る。
本書を読めば、これまで自分には関係ないと思っていた企業の製品作り、行政における街作りが、何だか身近なものになったように感じるはずだ。ユニバーサルデザインの基礎を知り、ちょっとした意識改革も出来る、お得な1冊なのである。
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