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かしこい生き方を考える COMZINE BACK NUMBER
COMZINE PICK UP BOOK 今月の1冊『ロボサピエンス』

ロボットと聞いて私達が真っ先に思い浮かべるのは、人間の姿を模したヒト型ロボット。しかし、その他にもいろいろな種類のロボットがある。工場の床にボトルで留められた作業用ロボット、本号の「IT大捜査線」でも紹介している救助作業用ロボットや地雷撤去用ロボット、手術や介護用のロボット、ヒトの表情を再現する顔ロボット、AIBO(アイボ)などのペットロボット、昆虫や魚、サルといった生物の構造や機能を模倣したロボット…。
本書は、こうした目的も形もさまざまなロボットの姿を、彼らを開発した研究者へのインタビュー記事とともにまとめたロボット・レポート。

まず目を引かれるのは、写真の美しさ。著者の一人ピーター・メンゼルが気鋭のフォト・ジャーナリストであるだけに、ライティングやアングルも凝りに凝って、ロボットや研究者を実にカッコ良くカメラに収めているのだ。
例えば、表紙の写真。これは日本の東京理科大学で開発されている顔ロボットなのだが、その半透明の皮膚にイマジネーションをかき立てられた彼は、撮影に立ち会った学生が不思議そうに見つめる中、ロボットの内部にライトを装着して、この写真を撮影した。さらにその後、今度は教授を説得してロボットを夜の新宿へ持ち出し、色とりどりの街のネオンを背景にして、もう1枚違うアングルの写真を撮影したと言う(その写真は巻末に掲載されている)。
本書の中には、こうした取材時の裏話などを紹介した「ピーターからひとこと」というコーナーがあり、ここを読むだけでも十分に面白い。

もう一人の著者フェイス・ダルシオが担当した研究者達へのインタビュー記事も、対談形式で読みやすくまとめられている。その中には日本人研究者も多く取り上げられているので、一般にあまり知られていない、現在の日本のロボット開発事情を垣間見ることもできる。
実際、日本のロボット研究、特にヒト型ロボットの分野に関しては世界の最先端を行っており、海外の研究者もその動向に注目していることが伝わってくる。何しろ、インタビューの中でホンダが開発した「ホンダP3」や「アトム(鉄腕アトム)」という言葉がかなり頻繁に登場するのだ。

もちろん、すべての研究者がヒト型ロボット=将来のロボット像と考えているわけではない。それぞれのロボットに違いがあるように、研究者達のロボットに対する考え方も千差万別。ロボットの二足歩行にこだわる人もいれば、そんなことはお金と時間のムダで何の役にも立たないと否定する人もいる。また、将来ロボットが知性体として人間と共存する、あるいは人間にとって代わると考える人もいれば、便利な機械に留まると考える人もいる。
それに対して、ほとんどの研究者が口をそろえて言うことはただ一つ。それは、ロボットが家や街の中に普通に存在する社会になるためには、まだまだ時間がかかるということ。

それは少し残念ではあるが、逆に考えれば、まだまだいろいろな可能性が残されているということ。本書に取り上げられたロボット達の中に、未来のロボットの原型となるものがあるかもしれない。そんな想像をしながら本書を読むのも楽しいのではないだろうか。

『ロボサピエンス』
『ロボサピエンス』
ピーター・メンゼル、フェイス・ダルシオ 著、桃井緑美子 訳
河出書房新社/3800円(税別)

ピーター・メンゼル氏のホームページで、本書掲載の写真の一部を見ることができます。
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