お隣の中国ではコンピュータを一般に「電脳」と言う。もともとコンピュータは、人間が“考える”とはどういうことかといった疑問から構想し、生み出した機械なので、電脳とは絶妙な翻訳。この言葉が既に日本で定着しているのもそう感じる人が多いからだろう。
本書は、その電子頭脳・コンピュータと本物の脳がどこまで同じで、どこから違うのかをまとめた脳科学・コンピュータ科学の入門書。脳とコンピュータそれぞれの特質を明らかにしながら、これまでの研究成果や作者の持論が順序良く展開されているので、専門知識がない人でもスムーズに読み進めることができる。
では、脳とコンピュータはどこまで同じで、どこから違うのだろうか? 大雑把に言ってしまえば、考えたり、計算するといった情報を処理する能力があることだけは同じで、それ以降の能力については大きく異なる。例えば、コンピュータは計算の速さでは人間の脳とは桁違いの速さを持っているけれど、人の顔を見分けたり、スイカとメロンを見分けるといったパターン認識でははるかに劣るし、人間の直感に相当する能力や、新しいものを生み出す能力も持っていない。そして何より、脳は意識を生み出す能力を備えているが、コンピュータがその能力があるかどうかは不明だ。
こう書くと、未来ならまだしも、現在のコンピュータに意識を生み出す能力があるはずがないだろう! という声も聞こえてきそうだ。もちろんその可能性の方が格段に高いのだが、そう断定してしまわないのが本書のユニークなところ。
実は、脳がどうやって意識を生み出しているのかについては現時点ではほとんど何も分かっていない。それゆえ作者は、コンピュータの場合も同様に、自分達が理解している理論の中でその要素が見つからないだけで、それはまだコンピュータを理解できてないせいなのかもしれないと言う。私達はそのメカニズムが分からなくても人間に意識や感情があることは身を持って分かるが、コンピュータの場合はそうもいかない。もしかすると、コンピュータには人間とは異なる固有の意識が宿っている可能性だってあるかもしれないのだ、と。
脳という物質からなぜ意識が生まれるのか――この人類最大のミステリーが解けるまでは、本書のサブタイトルにもある「究極のコンピュータは意識をもつか」という問いの答えは出そうにない。それは残念ではあるが、その代わりに現行の研究をリアルタイムで追いかけていく楽しさが残されている。
これから不思議な脳の世界へ足を踏み入れてみたいという人にとって本書は最適な入門ガイド。興味のある方は、ぜひ一読を。
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