『マトリックス』『ハリー・ポッター』『ロード・オブ・ザ・リング』など近年の人気作品にはいずれもCG技術が使われており、逆にそうした技術を使っていない作品を探す方が難しいぐらいになっている。このように今や当たり前に使われているCG技術を、映画史上初めて導入したのが1982年公開のディズニー作品『トロン』。ある陰謀のためコンピュータ内部に転送されてしまった主人公が、人間の姿をしたプログラム達と一緒に、電子世界を支配するMCP(マスター・コントロール・プログラム)と戦うといったストーリーなのだが、その電子空間を描くために用いられたのがCG技術。とは言っても、実際にCGが使われたのはごく一部で、残りはモノクロで撮影したフィルムに1コマ1コマ彩色を施して“それらしく”作ったものだった。それでも、薄暗い空間の中でネオン光が幻想的に輝く電子世界の映像は、当時としては新鮮でインパクトがあったに違いない。
ディズニーがCGだけでも30億円という莫大な製作費をかけて生み出した本作品は残念ながら興行的にはコケてしまったが、CG時代の幕開けを告げる記念碑的作品として今でもカルト的な人気を誇る一作となっている。
CGキャラクターが初めてスクリーンに登場したのは、それから3年後。『ヤング・シャーロック ピラミッドの謎』という、あの名探偵シャーロック・ホームズと相棒ワトソンの若かりし日の活躍を描いた作品だ。劇中、悪者一味に毒矢を射られた登場人物達はそれぞれに幻想を見るのだが、その幻想シーンには当時の最先端CG技術が詰め込まれている。記念すべきCGキャラクター第1号が登場するのは神父が見る幻想シーンで、教会のステンドグラスに描かれていた騎士が飛び出し、手にした剣で神父を襲い始める。今見ると見た目も動きも物足りないが、この30秒ほどのシーンに半年もかかったと言うから当時の技術としてはどんなに大変なものだったか分かるだろう。
本作は、その公開以降CGを用いた特殊効果の流れを変えた画期的な作品なのだが、ホームズ物なのに謎解きがなく、インディージョーンズ系の冒険映画になってしまったためか、興行成績は振るわず。しかし、ホームズのトレードマークである帽子やパイプの由来を説明するエピソードがあったり、なぜ彼が生涯独身だったか謎が解けるなど見どころは多い。
88年になると、ジョージ・ルーカスが「指輪物語」への思いを託して製作総指揮を取ったファンタジー・アドベンチャー『ウィロー』の中で、モーフィングと呼ばれる特殊技術が取り入れられた。モーフィングとは、例えば男の人の顔が犬に変わっていくというように、ある物体が別の物体へ滑らかに形を変える視覚効果で、最近ではテレビCMでもよく使われている。実はこの技術を半年かけて開発したのが『ウィロー』の特撮チーム。劇中ではフクロネズミに姿を変えられてしまった良い魔女を元の姿に戻そうとする主人公ウィローが、教わった呪文を唱えるものの上手く行かず、ヤギやカメ、ダチョウ、トラなど、どんどん違うものに変身させてしまう…というシーンを楽しむことができる。
お約束通りと言うべきか、この作品も辛うじて制作費を回収する程度の興行成績に留まり、当初予定されていた続編の製作はボツになってしまったと言うから残念。
しかし、この3作品が駄作ということは決してなく、最新の技術を取り入れたために制作費がかさんでしまい、興行的には失敗したということ。今見てもそれぞれに十分楽しめる作品なので、機会があれば見てほしい。
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