歴史上初めて「タイムマシン」という言葉が使われたのは1888年、イギリスの小説家H.G.ウェルズが母校の学内誌に連載していた小説の中でだった。その後95年にウェルズが『タイムマシン』を発表するとたちまち大反響を呼び、今では“タイムトラベルもの”は小説でも映画でも人気ジャンルに。タイムマシンもいろいろなタイプのものが登場している。
2002年に公開された『タイムマシン』は、そのウェルズの名作を、彼の曾孫に当たるサイモン・ウェルズ監督が現代の最新技術を詰め込んで完全映像化したSFアドベンチャー。「過去は変えられないのか?」という原作にはなかったタイム・パラドックスの問題にも触れながら、2030年、2037年、80万2701年の未来を見せてくれる。
タイムマシンのデザインは物語の設定である19世紀に合わせたヴィクトリア調。巨大なレンズが貝のように上下に設置され、その間にある運転席のレバーで年月日を設定すると上下のレンズが高速回転し、マシン全体が繭に包まれたようになって時空を超える。圧巻なのは時間を移動する時の映像。一筋の水の流れが川となり、大地をえぐり、やがて渓谷に。かと思えば、高いビルがニョキニョキと生え、空には飛行船、飛行機、ロケットが飛んでいく。まさしくタイムトラベラー気分を味わえる一作だ。
一方、タイム・パラドックスを全面に押し出した作品といえば、1980年代の名作『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。『タイムマシン』では変えられなかった運命が、こちらではコロコロ変わっていくのが面白い。シリーズ1作目では、30年前にタイムスリップし両親の出会いを邪魔してしまった主人公が、未来に自分や兄弟が生まれてこられるように2人を結び付けるべく大奮闘する。
タイムマシンとなるのは、時速140kmに達すると次元転位装置が作動するよう改造されたスポーツカー、デロリアン。最初はプルトニウムで核反応を起こさなければならない危険な乗り物だったが、パート2ではゴミを燃料とするエコマシンに改良される。ちなみに、本作品の最初の設定ではタイムマシンは冷蔵庫の予定だった。ところが、映画を観た子供達が真似したら危険という理由で見送られたのだという。自動車で良かったと思う半面、冷蔵庫だったらどんなストーリーになっていたのか知りたい気もする。
最後に紹介するのは、ブレイク前のキアヌ・リーブスがおバカな高校生を演じている『ビルとテッドの大冒険』。ここには冷蔵庫に引けを取らないユニークなタイムマシンが登場する。それは、電話ボックス型タイムマシン。操作は簡単で、受話器を取って、行きたい時代や場所の番号をダイヤルするだけ。番号が合っていれば、電話ボックスの上にアンテナが飛び出し、地中にある歴史回路を通ってタイムスリップできる。
ストーリーもハチャメチャで、歴史の授業で落第寸前の高校生ビルとテッドが、歴史最終発表会で一発逆転を狙おうと、タイムマシンに乗ってナポレオンやジャンヌ・ダルク、リンカーンなど歴史上の偉人達を現代に連れて来るという超お気楽なアメリカン・コメディ。それぞれの偉人がいつの時代に活躍したかも分からない歴史オンチの彼らのために“偉人電話帳”を持たせる配慮はあるのに、面倒なタイム・パラドックスは一切無視。このあたりのバランス感覚はさすがと言うべきか。
タイムマシンは空想上の産物でしかないのか、いつか実現するものなのか、その答えはまだ分からない。ただ、少なくとも科学者の中でタイムトラベルが不可能であることを論証した人は一人もいないのだそうだ。もし実現したら、過去と未来、あなたならどちらへ行きたい?
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