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COMZINE PICK UP BOOK 今月の1冊『「ことば」の課外授業 〜“ハダシの学者”の言語学1週間〜』〜言葉だけでは何も伝えられない?!異色の天才言語学者が語る、言葉の世界

本書は、ノート類は一切持たず、訪れた土地の生活にどんどん溶け込んでいく研究態度で“ハダシの学者”の異名を持つ西江雅之氏が、「言葉」についてざっくばらんに語った放課後の特別講義の模様をまとめたもの。今、世界各国で言語がどのように使われているか、なぜ人間だけが言語を持っているのか、外国語の習得には苦労を必要とするのに、子供が母語を簡単に習得できるのはどうしてか、といった「言語学」の基礎を、ユニークな具体例を挙げながら紹介している。

読み進める中で実感するのは、国や地域、民族によって言葉に対する意識が全く異なるということ。例えば、現在、世界にある約6700種類の言語のうち、文字化されていないものは少なくない。私達はこれを「文字がなくて人々は不便をしているに違いない」「文化が遅れているからまだ文字がないのだろう」などと考えてしまうが、文字化されない理由は、その国の知識人達が「そんなことはまともではない」と思っているケースが多いそうなのだ。既に文字に囲まれた生活をしている者にとっては、そうした意見の方が不思議に思えるが、それが意識の違い、文化の違いなのだろう。

「おや?」と思うのは、言葉とコミュニケーションについて触れたくだり。私達は、言葉=コミュニケーションと考えてしまうが、著者はそれは大間違いで、人と人が現実の場でコミュニケーションを取る時、つまり新聞や雑誌など間接的コミュニケーションを除くナマの伝え合いでは、言葉だけで何かを伝えることはできないというのだ。
言葉以外に必要な要素として挙げられたのは、(1)当人達の身体や性格面での「人物特徴」 (2)表情や視線を含む「体の動き」 (3)接触や顔色の変化などの「生理的反応」 (4)当人同士がいる「場の問題」 (5)その時の「空間と時間」 (6)社会生活上での地位や立場といった「人物の社会的背景」。これに言葉を加えた7つの要素が溶け合って初めて人と何かを伝え合うことができるという。
言葉だけでは何も伝えられない――。何だか変な気もするが、著者が指摘するように、実際に言葉だけで相手に何かを伝えようとしてみれば分かる。相手の姿も見えず、自分との関係も分からず、その場がどこで何時かも分からず……。確かに実際のコミュニケーションでそんなことはあり得ない。

ただし、こうした考え方は、いわゆる言葉の専門家達の間では一般的ではないようだ。彼らの意見に対し、著者はさまざまな例を挙げて、いろいろな角度から反論する。もちろん、どちらの考えに共感するかは読み手の自由だ。人が起きてから寝るまで、いや夢の中も合わせればそれこそ四六時中、当然のように使っている言葉がテーマだけに、共感できる部分は少なくないはず。
インターネットの普及、経済のグローバル化もあって、最近では「英語は話せて当たり前」といわれるが、英語を学ぶ前に言葉そのものについて見つめ直してみることも大切なのではないだろうか。

『「ことば」の課外授業 〜“ハダシの学者”の言語学1週間〜』
『「ことば」の課外授業 〜 “ハダシの学者”の言語学1週間〜』
西江雅之 著
洋泉社/720円(税別)

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