私達は日々、記憶を積み重ねながら生きている。過去と現在をつないでいる記憶は人生であり、生き方そのもの。では、その中から一つだけ、あなたにとっても最も大切な記憶、思い出を選んで下さいと言われたら……？
『ワンダフルライフ』は“あの世”と“この世”の中間地点にある古い建物を舞台に、天国へ持って行くたった一つの思い出を選ぼうとする死者と、その作業をサポートする職員達の１週間を描いた作品。選ばれた思い出は、それぞれ職員の手によって「映画」に撮られ、上映会が行われる。その映画を見ながら、最良の記憶とともに、彼らは正式にあの世へと旅立って行くのだ。
若くして死んだ人も大往生した人も、選べる思い出は一つだけ。たとえ、そこに記憶違いや美化があっても構わない。大切なのは実際どうだっだかではなく、その人自身がどのように記憶して人生を歩んできたかなのだから。
死者の中には、すんなり思い出が決まる人もあれば、なかなか思い浮かばない人、時にはそれを拒否する人もいる。また、俳優陣に混じって一般の人が自分の一番の思い出を語るシーンもあって、見ている側も思わず自分の人生を振り返ってしまう。

一方、『トータル・リコール』は、その大切な記憶がすべてニセモノだと言われてしまった男の“自分探し”の物語。近未来、美しい妻と幸せな日々を送っていた平凡な建築技師が、記憶移植による火星への擬似旅行を試そうとしたことをきっかけに、同僚や妻に殺されそうになる。そして、命からがら逃げ回る中で“本当の自分”が地球の植民地となった火星で諜報部員をしていたことを知るのだ。
これまでの記憶を否定され、自分が誰だか分からなくなる不安。今自分が遭遇している出来事は現実なのか、それとも虚構なのか、何もかも信じられなくなる恐怖。普通の人ならパニックを起こし、苦悩しまくるのだろうが、本作品の主人公は悩むことなく、信じた道をガンガン突き進む。こうした展開に違和感を感じさせないのは、演じるシュワルツネッガーのキャラクターゆえ?!

最後に紹介するのは、目の前で妻を殺され、自分も頭を殴られて「前向性健忘症」という病気になってしまった男の復讐劇を描く『メメント』。発病後、10分以上の記憶を保てなくなった彼は、ポラロイド写真を撮り、メモを取り、重要な事柄は身体にタトゥーを彫って、新しい記憶をつなぎ止めながら犯人を捜し歩いている。
今、電話で話している相手は誰か、なぜ自分は走っているのか、親しげに話しかけてくるこの男は敵か味方か？ 10分ごとに記憶がまっさらになってしまうため誰とも信頼関係を築けない主人公が唯一信用できるのは、過去の自分が必死に集めた分厚い捜査資料だけだ。本作品が描いているのは“新しいことが覚えられない悲劇”ではなく“永遠に過去から逃れられない悲劇”。常に忘却と戦っている主人公が“忘れられることの幸せ”から一番遠い場所にいるのが切ない。