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矢野 |
アメリカでは政策に影響を及ぼすほどの強いボランティア団体がありますが、日本でもボランティア活動が少しずつさかんになっているんですね。
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名和 |
僕もこの活動をはじめて、似たようなことをやっている人たちが多いのに驚きました。ボランティアの人たちは熱心のあまり、会員同士でぶつかってやめてしまうなど、人の出入りは激しいのですが、全体として増えていることは間違いないですね。
杉本泰治さんという僕よりやや年長で、熱心にボランティア活動をされている方がいて、「科学技術倫理フォーラム」というNPOを主催しています。僕も手伝っています。杉本さんは応用化学のご出身で、ベンチャーを若くして立ち上げられましたが、働き盛りの真っ最中に突如転進して大学の法学部に入学され、会社法の勉強をされた変わり種です。その後、PL法の本も書かれて、これがベストセラーになった。技術倫理や原発の内部告発の本などもお書きになっています。
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矢野 |
インターネットの世界を専門家がコントロールできなくなり、一方で非専門家がNPOを作って動き出している。つまり、世の中の構造が変わりつつあるなかで、古い組織が崩壊して、新しい秩序が生まれようとしているのだが、まだ力を持っていないという段階でしょうね。
メディアの世界もこれまではマスメディアがジャーナリズムを担ってきましたが、いまや組織ではなく、機能でジャーナリズムを考えるときですね。組織に属さない専門家も増えているわけで、専門家とは何か、現代におけるプロフェッショナリズムとは何かというのも、たいへん興味深いテーマだと思っています。
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名和 |
杉本さんは技術士です。技術士は専門家としての社会的認知もあり、自立してもいます。だが、そうした資格も持たず、組織も持たない市民がどうやって社会的に自立できるのか。1人では持てる力は小さい。その1人を支援するところにNPOの役割があるんだと思います。
一昨日、神奈川県立川崎図書館(日本で有数の技術系の公共図書館)に行ったら、定年退職して毎週、専門書を図書館に読みに来る人がいると聞きました。その方はこれからの日本の技術をどうするかということについていろいろな意見をもっているという。それならば、図書館は、こうした人たちの社会的発言の場所を提供してはどうかと、スタッフに提案しました。
もう一昔も前になりますが、川崎市に呼ばれて、市民が生活上で必要とする科学技術の目標を調査したことがあります。市民の希望を聞くことになって、いろいろな学会の名簿から川崎市民を探して、アンケート用紙を送ったら、「よくぞ聞いてくれた。喜んで協力したい」という方が多いんですよ。専門知識を持っていてリタイヤされている方や、子育てを終えた主婦のみなさんは活躍できる場を求めている。そういう人たちのための拠点作りをするべきだと思いますね。
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矢野 |
いまのお話は、「消費者のなすべきことは、愛想のよいネチケットなどに同調することでは足りない。疑問があれば、臆せず、それを専門家に質す。これしかない」とお書きになったことに続くものとして理解していいですね。
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名和 |
そうです。その通りです。したがって逆にいえば、市民の疑問に応えるのが専門家の倫理、また、市民の疑問をしかるべき専門家を探してそこに繋ぐのも専門家の役割、こう考えています。
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矢野 |
僕は長らく編集者をやってきて、編集者の仕事というのは、「現代」という土俵の上に多くの著作者、あるいは時代のテーマを引き出すことだと考えています。これからは誰もが編集者になる時代でもありますが、それはとりもなおさず、いたるところに交流の場を作っていくということでもありますね。
今日はたいへん興味深いお話をどうもありがとうございました。
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