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COMZINE PICK UP BOOK 今月の1冊『われらの有人宇宙船 ―日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」―』〜2012年、日本も有人宇宙船の打ち上げに挑戦?宇宙開発賛成派の人にも、懐疑派の人にも、オススメの1冊

2004年を迎えた今、映画「2001年宇宙の旅」で描かれていたような宇宙旅行はまだできていない。それが実現するのは20年先か30年先か、はたまたそれ以上の年月が必要なのか、予測もつかない状況だ。
そうした中、早ければ8年後には、日本国内で有人宇宙船をつくれると謳っているのが本書。宇宙開発事業団(現・宇宙航空研究開発機構)が提案する有人宇宙船「ふじ」構想の紹介から、これまでの有人宇宙飛行の歴史、現在のスペースシャトルの問題点などを分かりやすく説明しながら、今後の日本の有人宇宙活動はどうあるべきかを読み手に問いかける内容になっている。

まず、「ふじ」について簡単に紹介しておこう。これはアポロ宇宙船などに使われていたカプセル型宇宙船をベースに、現在の材料や技術を組み合わせてつくる宇宙船。新しい技術を開発する必要がないため、予算さえ確保できれば、今すぐにでも開発に取りかかり8年後の完成を見込めるのが特徴だ。
既に宇宙観光用の構想も検討されており、その場合、24時間の宇宙旅行にかかる経費は1人2億円程度と試算されている。もちろん、一般的な金額とは言えない。だが、現在、ロシア宇宙庁が実施している国際宇宙ステーションへの観光飛行料金は1週間で2000万ドル(約26億円)なのだ。滞在時間に差はあるが、これが宇宙旅行の敷居をグンと下げることは間違いない。

ロケットの知識がある人の中には「カプセル型」と聞くと、古くさい、時代遅れというイメージを抱く人がいるかもしれない。確かにこれは現在アメリカで運用されているスペースシャトルの開発前に採用されていた様式なのだが、実のところ、まだスペースシャトルの方が優れていると結論付けるだけの実績は残せていないのだ。例えばコスト。カプセル型は「ふじ」も含めて使い捨て型、スペースシャトルは再利用型となっているが、現時点では後者の方が再利用を考慮した設計となる分、割高になってしまう。また、昨年2月に起きたスペースシャトル「コロンビア号」の空中分解事故からも再利用型宇宙船の弱点が指摘されており、同年11月に中国がカプセル型有人宇宙船の打ち上げに成功したこととは対照的だ。

著者は本書の中で、スペースシャトルに依存した有人宇宙活動を続けてきた日本の姿勢を問い、「自分が宇宙へ行きたいと思うなら、そのために行動せよ」と訴えている。ホームページ上で、あるいは雑誌やラジオなどへの投稿などで自分の考えを声にすることで、専門知識を持たなくても積極的に宇宙開発にかかわれるのだと。
そして今年1月29日、政府は一昨年に打ち出していた「今後10年は有人宇宙活動計画なし」とする方針を見直し、日本独自の有人宇宙飛行を含め再検討することを発表した。これは今年に入りアメリカが宇宙政策の新ビジョンを発表したことの影響が大きく、個人個人の小さな声が届いた結果とは言いにくいが、とりあえず「ふじ」構想が実現される可能性はこれまでより大きくなったわけだ。詳細の発表は夏ごろの予定というが、果たして今度こそ独自の有人宇宙活動に本腰を入れるのか、それともアメリカの次世代宇宙船に開発協力するだけなのか……政府の打ち出す新方針に注目したい。

『われらの有人宇宙船 ―日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」―』
『われらの有人宇宙船 ―日本独自の宇宙輸送システム「ふじ」―』
松浦晋也 著
裳華房/1600円(税別)

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