エバンジェリストが語るICTの未来

はじめに

11月13日と14日の2日間、ベルサール新宿セントラルパークを会場に「Agile Japan 2025」が開催されました。本年度のテーマは「Reboot Japan」。一人一人、そして1%の技術革新から始まる小さな変化が、組織や社会全体のリブートにつながるという力強いメッセージが込められたテーマです。会場参加250名、オンライン参加を含めると600名が参加したハイブリッド形式によるイベントは、初心者からエキスパートまで多様な参加者にそれぞれの立場でAgileの熱気を届けるイベントになりました。

Agile Japanについて

Agile Japanは2009年に誕生し、以降、Agileに関する主要イベントの1つとして進化を続けており、今年で17年目を迎えます(今年度の公式HPはこちら)。
タイムテーブルはこちらです。基調講演をはじめトピックは多岐にわたります。Agile Japanの特徴として「あらゆる業界や職種の方が集まり、実践者も初学者も、ともに建設的な意見交換ができる場」という開催趣旨があります。特定の領域をテーマとしたカンファレンスは、ともすれば「初参加の壁が高いと思われる」傾向がある中、開催趣旨で初学者を歓迎する姿勢を明確にしている点は個人的にも共感できる方針だと考えます。

参加して印象的だった4つの気づき

Agile Japanでは、登壇者の資料がタイムテーブルとセットでサイトに公開されていることも特徴です。そのため、個々の講演の要旨は前述のタイムテーブルからたどることが可能です。
そのことを踏まえ、本コラムでは講演で得た個人的な気づきを順不同で記載します。

1.AIで価値を創出する

安野貴博氏の基調講演は、多くの気づきが得られる講演でした。AIというテクノロジーから生み出せる価値を、形を変えながらさまざまな業界にむけて提供しているキャリア自体がまず印象的でした。
その中におけるAIテクノロジーの活用事例として「聴く→(アイデアを)磨く→伝える」サイクル(検証のサイクル)を高速に回していく「ブロードリスニング」という仕組みが興味深い紹介でした(今年2025年の参議院選挙期間中だけで1万件規模の改善提案を収集したとのことです)。ブロードリスニング以外にもさまざまな活用事例を聞くことができました。

そのうえで、本講演で最も驚いたことは、「試行を繰り返すというAgileの思想そのものを実践する講演内容にもかかわらず、「Agile」という言葉が(私の記憶上)1回登場したかという程度に使われない講演だった」ことです。Agileに関する専門用語を使わずとも、Agileを通じて得られる価値を伝えられる、という事実に気づけたことは、今後の私自身の業務において大きなヒントになると感じた講演になりました。

2. AIは知識代替ではなく増幅器である

和田卓人氏の講演で登場したフレーズです。Agile開発においてもAIをどのように活用するかは、さまざまな観点で多くの方が考えているテーマだと思います。私自身もこのフレーズを聞くまではAIを既知となった部分でどう活用するか、という発想だったのですが、その発想をrebootする必要性を感じました。

「増幅器」はプラスもマイナスも増幅する機器なので、「悪いチーム/組織」はAIによりマイナスが増幅される恐ろしい世界が待っていることになります。だからこそ、Agileに関する取り組みを支援するうえで「プラスが増幅されるチームづくり」の重要性を改めて感じたフレーズになりました。

3. 専門職とは…

「専門職とは、専門性を持ち且つ協調して働ける人であり、専門性しか持たない偏った人ではありません。」
森實繁樹氏の講演で登場したフレーズです。Agile分野を専門に働く自分自身にとって大事かつ前提となる考え方です。本コラムをご覧になっている方で「専門職」でキャリアを積もうとする方には、ぜひ「協調して働く」ことも重要なのだという点をまず知ってほしいなと思い取り上げました。

さらに、このフレーズは「越境するマインド(自組織・自分の役割を超えて取り組むマインド)」の重要性に紐づいて紹介されたフレーズになります。 スクラムにおけるあるあるの一つに「PO(プロダクトオーナー)忙しい問題」があります。この問題において(開発者がPO側に)越境して協調することの重要性も(熱狂的に)語ってくれました。

POの意思決定を促すために「越境マインドで関わること」が重要になる。「越境」というキーワード自体は何度か聞いたことがあり、かつ重要性も認識していたのですが、Agileの観点で具体的に結び付けることができるだけの気づきになりました。

4. 17年(以上)の軌跡

Agile Japan初代実行委員長の平鍋健児氏による講演は、Agile分野に関する20年近い歴史を振り返るうえでも有益な講演でした。
「組織とアジャイル」について、「人とAIが共に働く形でのAgileの実践モデル」等、個々のトピックも印象的でした。その上で特に残っているのは、あの平鍋氏でさえも「一度挫折していた」ことです。当時のIT業界の慣例、開発の外の世界(契約やお金まわりのこと)と対峙することの難しさは、(現在これだけAgileという言葉が普及し、重要性も認知されている時点でも難しいと感じているだけに)想像することが困難な領域です。その中で「お客さんと喜び合える仕事がしたい」意思をもち続け、Agile Japanを立ち上げて今に至るまでのさまざまな取り組みや姿勢は、私自身もAgileを担う一人として見習うものが本当に多いと感じる講演でした。

その他の講演でもさまざまな気づきを得ることができました。「気づき」の中にはドキュメントだけでは伝えきれない「五感を駆使することで感じた気づき」もあります。Agile分野に限らず、「現地だからこそ得られること」がカンファレンスには間違いなくあります。カンファレンスの現地参加、おすすめです。

閑話休題

本カンファレンスではスポンサーブースも充実していました。「単に会社、商品を売る」ブースではなく、「Agile」という共通項で対話や議論を楽しめるよう、各ブースが趣向をこらしているのが印象的です。

永和システムマネジメント様のブースの写真
協力:永和システムマネジメント様。
Agile Japanで「リモートアジャイル開発のノウハウ集」の話をさせていただいたつながりがあります。

さまざまなスポンサーの中で気づきが大きかったのは、「スパイス診断-10個の質問でわかるあなたのAgileスパイス」でした。こちらは「スクラムの価値基準」をスパイスに例えてタイプ診断するものです。私(もしくは私のチーム)に必要な要素はガラムマサラ(確約)とのこと。今後の成功に向けて改めて決意するひと時になりました。

むすび

非常に刺激的かつ有意義な2日間となりました。
2日間を通じて、多くの方と交流させていただきました。立場は違えども、それぞれの立場から「今を変える」強い意志を感じました。それらのコミュニケーションも大きな刺激になりました。

帰り道、「変えるために必要なことは何だろう?」と思いにふけりながら開催会場だった新宿を歩きました。本コラムのヘッダ画像は、その時に目に入ったオブジェクトです。恥ずかしながら、「愛をもつことも大事」、と考えた自分がいました。
「参加者から受けた刺激」、「講演で得られたさまざまな気づき」、そして、「愛情」を自分自身にインストールの上でrebootし、改めて「愛情をもって人、チーム、組織に接する、かつ、気づきをもとに引き出しをより多く持った自分」となってこれからの取り組みに望もうとの決意に至りました。

その決意につないでくれたイベントに感謝です。登壇されたすべての方はもちろん、運営のみなさま、カンファレンススポンサーのみなさま、私とコミュニケーションを図ってくれたみなさま、本当にありがとうございました。