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賢いはたらき方のススメ
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政府が推進する「働き方改革」。その根底にあるのは、ライフスタイル、国籍、性別、年齢などの多様化=「ダイバーシティ」を理解すること。個性を受け入れて、最大限に生かす環境を作る(インクルージョン)ことで、一人ひとりが幸せになれて、企業の生産性向上にもつながるという。そんな理想的な働き方を実現するために各企業が取り組んでいるのが、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の積極的な推進だ。

世界最大級のプロフェッショナルネットワーク、デロイトのメンバーであるデロイト トーマツ グループのパートナーの原 夏代さんは、D&Iリーダーとして、大きなミッションに取り組んでいる。最終的な着地点は「多様性を力に変えてプロフェッショナルとして切磋琢磨していける未来」だという。リーダーとして考える日本でのD&Iの理想形、多様性を自身の力に変えていくために必要なことについてお話を伺った。

インクルーシブな職場環境が一人ひとりの個性を活かす

写真:原 夏代さん

―2019年6月、デロイト トーマツ グループのD&Iリーダーに就任されました。D&Iリーダーとはどのような役割を担っているのでしょうか。

:デロイト トーマツ グループでは、D&IをHR(人材育成)の取り組みではなく重要経営戦略として位置づけ、グループCEOをD&I推進責任者としてさまざまな施策を実行しています。インクルーシブな環境は、我々デロイト トーマツ グループがプロフェッショナルファームとしてクライアントのファーストチョイスとなり、成長し続けるための必須条件であり、社会変革のカタリストとしての使命だと考えています。私自身はD&Iリーダーとして、グループCEOの指揮の下、世界各国のデロイトメンバーファームとも連携を図りながら、グループのD&I施策の立案や実行を行っています。

―具体的にはどのような取り組みをしているのでしょうか。

:大きなテーマを4つ掲げています。「インクルーシブな風土の実現」、「女性活躍推進(リーダーの育成)」、「多様性メンバーのインクルージョン強化」「ワークライフマネジメント」で、それぞれのテーマに則り施策を実行しています。

 例えば、「インクルーシブな風土の実現」では、全社員がD&Iの重要性、必要な行動変革、アンコンシャスバイアスの影響について理解するためのインクルージョン研修を実施しました。
 「女性活躍推進(リーダーの育成)」については、男女平等を実現するためにグローバル全体で”ALL IN”という女性活躍推進のための戦略を実行しています。
 「多様性メンバーのインクルージョン強化」については、インターナショナルメンバーが増加していることから、日本のビジネスやカルチャーを学ぶ研修やネットワーキング等を実施するなど、働きやすい環境を整備しています。また、LGBTの理解を深めるために勉強会・イベントなどさまざまな企画を実施しています。
 「ワークライフマネジメント」についても、一人ひとりのライフステージに合った働き方ができるような制度を整備するなど、4つのテーマに沿った多くの施策を実行しています。

―取り組みのきっかけは女性の働き方、活躍の場を広げるところからスタートしているのですね。そこからダイバーシティに広がっていったということでしょうか。

:もともと「TWin Project」という、女性が仕事も生活もウィンウィンにある状況を作るための草の根活動から出発しています。

 最初は、制度の充実、ライフステージによって退職することなく働けるスタイルを確立させて、復職しやすい環境整備に、働き方にも自由度を持たせるという取り組みをしてきました。

 ふと振り返ると、制度はできている、社会進出もそれなりに進んでいるのですが、想定よりもスピードが遅いんですね。日本のジェンダーギャップ(男女平等)指数は、153か国中121位と低い状況で、もっと加速する必要があると思っています。そのTWin Projectが現在のD&Iの前身といえるかもしれません。

影響力が大きいリーダーから変えていくことが大切。鍵になるのは“インクルージョン”

写真:原 夏代さん

―理想となるこれからのダイバーシティはどういう形だと思われますか。

:ダイバーシティは、性別や人種、世代など目に見えるものと、能力や経験、価値観、考え方など目に見えない多様性があるということ。その多様性を生かすも殺すも、インクルージョン(受け入れて尊重し合うこと)にあります。職場環境もカルチャーもあらゆる多様性を受け入れて活かしていくことが大切。その一環として、先述のインクルージョン研修に加えて、リーダーシップに関するワークショップを実施する「Inclusive Leadership Activation Lab」などを取り入れています。

―「Inclusive Leadership Activation Lab」とはどういうものですか。

:デロイトのヒューマンキャピタルチームが開発した独自の研究に基づくワークショップです。D&Iを自身の強みとして確立しているリーダーと、そうでないリーダーを比べたときに、前者には6つの特質があることを発見しました。

 6つの特質は、コミットメント(commitment)、勇気(Courage)、バイアス認識(Cognizance of bias)、好奇心(Curiosity)、異文化適応能力(Cultural Intelligence)、そしてコラボレーション(Collaboration)。6つを理解しないとD&Iを推進するのは難しい。

 6つの特質は、「コミットメント」から始まり「コラボレーション」で完了します。リーダーとしてD&Iを推進するのが「コミットメント」。そして、自分がすべてを兼ね備えたリーダーではない、ということを受け入れる「勇気」も必要です。次に、無意識の偏見を認識し、意識することで偏見をなくしていく「バイアス認識」、いろいろなことに興味を持って相手から聞く姿勢を持つ「好奇心」、自分の持つ文化とは異なる文化をリスペクトして知識を持つ「異文化適応能力」、最後が、多様なメンバーをチームとしてどのようにエンパワーしていくかという「コラボレーション」です。

 これらを教えるのではなくて、日々の業務から立ち止まって、自分を振り返る時間を作り、リフレクションします。そして、チームで話し合い、強みを持っている人のストーリーを聞いて、自分のストーリーも語り、新しい気づきをもってアクションに変えていくワークショップです。

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出所:Deloitte University Press

―スタッフの上に立つ立場の人から行っていくのでしょうか。

:はい。リーダーは、その人自身が思っている以上に影響力があります。そのことをリーダーが自覚し、意識する必要があります。インクルージョンが確立しているリーダーのもとでは、そうではないリーダーと比較してチームメンバーがより能力を発揮でき、チームのパフォーマンスが向上し、ビジネスのパフォーマンスも向上するというデロイトの調査結果が出ています。まずリーダーから意識を高めることを徹底していくことが一つのポイントです。

―とても積極的なことで、実践していくのはハードルが高そうに思えますが、皆さんはどのように取り組んでいるのでしょうか。

:リーダーシップを取るべき層なので、個人のやり方で行動宣言をしていくのが基本です。自分を振り返る時間を持つことはとても大切で、そうすることで改善点も見えてきます。

 そこからいろいろな考え方、価値観が出てくることで、今まで考えられなかった新たな状況をもたらそうという思いが生まれ、イノベーションも生まれてくることでしょう。一人ひとりにこうなりたいというパーソナルビジョンがあるから、自分の役割はここ、強みはこれと、自分を理解したうえで、相手を理解して良い方向へ導いていくことは、これまで以上にコミュニケーション能力が必要になります。

 「あうん」の呼吸はもうありません。強みや考えをきちんと言語化できないと立ち行かないと思います。

ステージが変われば“強み”が“弱み”に変わることも

写真:原 夏代さん

―これからのリーダーとしての姿勢は厳しいものですね。原さんご自身は実践していくために心掛けていることはありますか。

:私は6つの特質でいうならば、コミットメントはあると思います。もともと女性の活躍を推進するという問題意識を持っていました。私が就職した時代は、総合職として女性の採用が多くなってきた時代なので、パイオニアとして仕事と子育てを両立する中で後続のためにもD&Iを推進するという、パーソナルビジョンを強く持ってやってきました。

 その反面、強すぎてしまう部分も多々あり、自分の水準で物事を考えてしまうところがありました。そういう面を意識して改善していくのが私の課題ですね。価値観はいろいろあるし、心の中で思っていることを言えない人もいる、思い込みをしないように気を付けていこうと心掛けています。また、ステージが変わることによって、それまで強みだったことが弱みになることもあります。

―強みが弱みに変わるとはどういうことでしょうか。

:自分ではとても処理能力があると思っていてそれが強みのステージがあっても、ステージが変わると権限移譲が必要になります。しかし、自分で手を動かしてしまったり、なかなか権限委譲ができないこともあります。ステージが変われば求められる役割も変わるということを意識しないといけないなと思います。

―ステージによって求められる役割が変わることを意識すると、働き方も変わってきそうですね。原さんはステージアップによって働き方が変わってきましたか。

:そうですね。グループでも、スタッフは日々必死にさまざまなことをこなしています。ステージが上がると、仕事の大変さの質が変わります。人の管理やプロジェクトの立ち上げ、クライアントとの折衝が増え、同時に裁量も少しずつ増えて、自由度も増していきます。

 私は自分の子供が小学生になるのに合わせて、会社の制度を利用し、6年間、監査法人の品質管理本部に所属しました。主な仕事はマニュアルの開発や監査の研修の企画立案、実施などです。それまでは、公認会計士としてクライアントに突発的なことが起こるとすぐに対応しなければならないなど、予定が立ちにくい部分がありました。部署を異動したことで、予定も立てられ、働き方に柔軟性が出ました。仕事好きな部分があるので、子供にはとても感謝しているんです。子供がいなかったら仕事漬けの毎日だったなと。メリハリをつけてバランスが取れるようになったのが大変良かったと思っています。

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