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宇宙ビジネスは現代の生活に欠かせないツール。参入しない手はない

写真:青木英剛さん

―現在、宇宙ビジネスの市場規模はどれくらいですか。

青木:世界では、約65兆円の市場規模(2021年、1ドル140円換算)があります。これは半導体や医療機器産業と同規模なので、かなり大きい。約65兆円のうち、NASAなど世界各国政府機関がわずか25%しかありません。日本政府はその内の5000億円ほどの規模です。日本の市場全体では、政府機関を含めると1兆円ちょっとになりますがまだまだ少ないですね。
約65兆円の75%の半分ほどは放送通信です。テレビやインターネット、地上アンテナなどです。カーナビやスマートフォンの位置情報などは約15兆円規模になります。

―市場を見ると、今の生活に欠かせないものばかりですね。ぐんと身近なビジネスに感じます。

青木:自動車産業などに比べれば、宇宙ビジネスはまだまだマニアックな市場ですが、今の生活には必須ツールになりつつあります。テレビの生放送もスマートフォンの地図アプリも、宇宙ビジネスがないと見ることができません。天気予報も気象衛星ひまわりがあるから細かい情報を知ることができます。私たちは知らぬ間に宇宙ビジネスの恩恵を受けているんです。市場の伸びしろはまだまだあります。2040年には100兆円市場に到達すると言われていますが、現在のスピードを考えると、もっと早くに到達するかもしれません。

―とても魅力的な市場ですね。

青木:期待値も含めて、今、宇宙ビジネスに参入しないでいつ参入するのですかと。現在はいろいろな企業が考え始めています。

―宇宙ビジネスで注目したいのはどういう市場でしょうか。

青木:放送通信でいえば、家庭に宇宙から電波を届ける産業ですね。イーロン・マスク氏が運用している衛星コンステレーション「Starlink」のようなビジネスが伸びしろがあります。世界の人口78億人のうち約40億人はいまだインターネットに接続できない状態です。この方々にどれだけインターネットサービスを提供していくことができるかが、今後のポイントになります。意外かもしれませんが、インターネット接続環境が十分に整っていない北米の地方に住む人に向けたサービスは急速に伸びています。

すべての業界が宇宙ビジネスと絡める。
まずはリソースを整理することから

写真:青木英剛さん

―新規参入する場合のねらい目は?

青木:地球を観測する観測衛星の宇宙ビッグデータや、2022年11月中旬以降に最初の打ち上げを予定している月探査ミッション「アルテミス計画」を中心とした惑星探査の分野が注目ですね。新規参入が増えれば、投資も増え、政府の支援も充実していきます。

―新規参入したい場合、どういうステップが必要でしょうか。

青木:まず、何をやりたいのか、何に興味があるのかという思いからスタートしましょう。宇宙ビジネスをやってみたいという思いだけで参入する理由は十分です。
次に、どういうことをやりたいのか。企業の中でも興味がある分野は人それぞれ違います。あらためて自社を振り返り、人材、持っている技術、特許、これまでの実績、取引先などを見渡して、社内のリソースのポートフォリオを整理しましょう。
整理していくと、この分野なら参入できそうだということが見えてきます。これは、自動車産業や通信産業はもちろん、介護の現場では高精度な位置情報を使用したカスタマーの見守りなどに利用することができ、土産屋やホテル、レストランでも、すべての業界において言えることです。必ず宇宙と組める事柄があるんです。

―それは参入を考えている人にとって心強いですね。

青木:現在、 すべての業界で、IT技術を導入しインターネットやメールを活用しています。かつてIT技術を導入したように、これからは宇宙を導入する時代がきます。自社の何かしらの改善、既存事業のさらなる成長、新規事業の創出など。それらの目的に向けて考え始めるときなんです。

―参入するにあたってどのようなハードルがありますか。

青木:現在、 宇宙ビジネスの歩き方がまずわからないですよね。次に大きな予算が必要な場合もある。時間もかかります。宇宙ビジネスは、すぐに技術を蓄積して何かを行うというわけにはなかなかいかない市場です。場合によっては政府とのやり取りも必要です。これらの4つのハードルがあります。
ハードルはありますが、もう1つ、宇宙ビジネスは先行者が必ず勝てるというわけではないことも大きな特徴です。先人が失敗したことを徹底的に学んだ2番手が成功するパターンが圧倒的に多いのです。ということはじっくりと考えてから参入しても間に合うということです。イーロン・マスク氏も大型ロケットの市場で、最後発で参入して成功を収めたひとりです。

日本ならではの宇宙ビジネスモデルは観光とエンタメ。
誰もが宇宙を身近に感じる

―今後、宇宙ビジネスの成長によって、生活はどのように変化していくのでしょうか。

青木:社会インフラとしてはある程度確立されています。観測衛星、地上局、ロケットなど。ですがこれらはB to BやB to G。今足りないのは、一般消費者向けのビジネスです。日本で海外から注目を浴びているのはエンタテインメントですね。宇宙関連のアニメコンテンツなどは日本が先端を行っています。もう1つ、日本を大きく変える可能性があるのが、宇宙旅行とそれに関連した産業です。

―宇宙旅行の可能性とは?

青木:私が携わっている仕事の1つが、スペースポートジャパンです。スペースポートジャパンは日本を宇宙輸送産業のハブにしようという取り組みです。将来的には宇宙旅行の拠点にしたいです。日本は海に面しているので、ロケットが打ちやすい環境が整っています。宇宙旅行に行きたい人は日本に来てくださいと。日本で観光し、温泉に入り日本食を食べて、そして、スペースポートから宇宙旅行へも行きませんかと。
各自治体と連携し、インバウンド観光の需要も見据えつつ、宇宙旅行の可能性を議論しています。スペースポートジャパンは、2018年に一般社団法人として宇宙飛行士の山崎直子さんと共同創業し、現在では、北海道、和歌山、大分、沖縄・下地島でそれぞれの関係者が事業を進めていて、我々は日本におけるハブの役割を担っています。
実はこれは宇宙ビジネスですが、地域を巻き込んだ街づくりでもあります。ホテルやレストラン、土産屋、そこで暮らす人々も巻き込み、観光産業が上向きになる取り組みです。宇宙ビジネスと街づくりの融合まで考えたビジネスモデルは、日本が今最先端です。すでにNASAからも高い評価をいただいています。

―誰もが宇宙旅行へ行ける時代が来るのでしょうか。

青木:将来は、日本各地のスペースポートから宇宙旅行へ行けるようになるのが目標です。まずは富裕層からスタートし、20~30年後には誰でも旅行の選択肢の1つとして宇宙旅行を選べるようになります。

―宇宙ビジネスを通して、エバンジェリストとしての終着点はありますか。

青木:この市場が拡大していく限り、私もともに走り続けると思います。宇宙ビジネスは何百年、何千年と続く世界です。100年後に火星に人が住む都市ができるなど、かつて映画の世界のことだけだった夢が実現していきます。これからは、いろいろな人が宇宙に行けるような場づくりをしていくのが私のやりがいです。エバンジェリストとしてのゴールはなく、ずっと走り続けていると思います。

写真:青木英剛さん

スペースポートシティ構想図
© 2020 canaria, dentsu, noiz, Space Port Japan Association.J

取材後記

こどもの頃に描いた夢を実現するためにあらゆる準備をしてきた青木英剛さん。夢への情熱は冷めることなく、むしろ大人になればなるほど熱く、現実味を帯び、広がっているようです。技術者としての高いスキルを持ちながら、働く中で生まれた新たな課題をクリアするために次のステップに進む行動力と勇気はうらやましい限り。宇宙技術開発に携わってきたからこそわかる、未来を見据えた宇宙ビジネスの舞台の歩き方を、惜しみなく「やりたい」と思う人に伝えていく伝道師という活動は、まさに天職なのだろうと思いました。30年後には、「記念日の旅行は宇宙にしよう」というキャッチコピーで新しいトレンドができていく予感がします。

プロフィール

青木英剛さん
宇宙エバンジェリスト/一般社団法人スペースポートジャパン共同創業者&理事
アメリカで航空宇宙工学の工学修士、パイロット免許を取得。三菱電機株式会社で日本初の宇宙ステーション補給機「こうのとり」を開発し、多くの賞を受賞。その後、ビジネススクールを経てMBAを取得、ドリームインキュベータにて宇宙ビジネスのコンサルティングに携わる。現在はベンチャー企業への投資活動をはじめ、宇宙エバンジェリストやスペースポートの活動にも取り組む。内閣府やJAXAをはじめとした政府委員会の委員等を多数歴任。一般社団法人SPACETIDE共同創業者。

2022/10/24

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