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矢野 |
群馬県には、ケータイやインターネットの問題に取り組んでいる学校はどのくらいありますか。
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下田 |
自分たちでケータイ問題を考えたいので、材料を提供してほしいという学校は増えています。僕も「講習会で子どもたちにケータイを使うなと言わせたいのなら、招かないでほしい」と言っているんです。あくまでも、この問題を議論して考えてほしいのです。
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矢野 |
ああしろ、こうしろとはいいにくい時代ですね。編集者であり、ジャーナリストである我が身としても、現代という土俵の上に、こういう問題があるよと、考えるきっかけを提示する役割が大切だと思っています。
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下田 |
そういう役割の人をもっと全国に増やさなければなりません。僕をワークショップ型講習会に呼んでくれる学校は、問題を抱えながらも解決していこうという熱意のある学校なんです。
というのも、ワークショップに当たっては、事前にアンケートを送り、学年別のケータイ所有率や、性や援助交際などに対する子どもの意識調査などをお願いするわけです。ところが、寝た子を起こすようで、怖くて調査ができない学校もある。最近は援助交際の背景にケータイがあることが分かってきて、調査に応じてくれる学校が増えてきました。かなり面倒なことに学校側が取り組み始めたことは一つの希望だと思います。
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矢野 |
ねちずん村のホームページには、援助交際に関する具体的なインタビュー記事(ティーンズ・エクスプレス)もあって、そのあからさまな内容には驚かされます。これは大学の学生さんや中高生のスタッフたちがインタビューしているのですね。
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下田 |
そうです。大学生がサポートして、子どもたち自身がインタビューなどを行っています。大学3〜4年生は僕のゼミ生ですが、群馬大学以外の学生さんも協力してくれています。ゼミ生は演習や卒論の一環として活動しているわけですが、「ケータイ小説」を卒論テーマにしている4年生の女性もいます。
このケータイ小説というのがすさまじい代物で、「Deep Love」などは安直なハードコアポルノですよ。それが女子高生を中心に人気となり、書籍化もされて、全シリーズで発行部数が60万部を超えているというのですから。この作者は、まさに矢野さんがおっしゃる「ハーメルンの笛吹き男」ですね。もともと少女たちが中心になって自分たちの経験を作者にメールで送り、それを編集して作っただけの安手のポルノ小説で、あげくに子どもたちに資金まで出させて出版したのですから凄腕ですよ。しかしうちの学生も含め,こうした手法に若者は好意的なことも事実です。
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矢野 |
ホームページにあるインターネット関連の記事を集めた「ねちずん新聞」は、どなたがお作りになっているのですか。
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下田 |
ネタを中心になって集めてくれているのは青森にいる協力者で、編集は僕と妻が一緒にやっています。新聞・雑誌・ネットニュースからインターネット利用に関するニュース、子どもたちをめぐる事件などをピックアップし、データベースを作ろうとしているのです。いろいろと活動していますが、まだまだ質量ともに不足していて、もっとちゃんとやらなければと思っているのですが、どうにも資金がかかるので、簡単ではありません。
じつは、来年の2004年1月に、アメリカから親たちを呼んで、日本の親と交流する国際会議を前橋市で開催することになったのですが、海外から人を呼ぶためにかなり費用がかかり、資金協力してくれる企業や市民たちを探しているところです。ジャーナリスト時代のかつての友人たちは、僕が大学に入ってから、すっかり子どもやNPO寄りになったと冷やかしますが、親と協力しながらこうした活動をしている組織は他にないので、もう後には引けないですね。
いずれにしても、いまは働き方や生き方の問題で、普通の人も切実に考えなければならないことが増えている。やはり時代の転換期だと思います。
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矢野 |
おっしゃる通りですね。それは私たちの肩にのしかかった「重い荷物」ですが、誰も避けては通れない。
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下田 |
とくにウエブケータイは家庭の問題であり、日本特有の現象ですからね。あまりに変化が激しい中で、なるべく早くこの問題を英訳して海外に発信し、外国から「逆輸入」しないと、日本人自身はなかなか自分で問題の深刻さと進展の速さに気づかないのではないかと思うんです。
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矢野 |
その意味でも、海外の親たちと交流するのは有意義ですね。この問題は一人ひとりが親として、大人として真剣に考え、子どもたちと向かい合って話し合うべきですね。僕もぜひ国際会議には出席させてください。本日は貴重なお話をどうもありがとうございました。
(なお、今回の対談では携帯電話のことを「ケータイ」、インターネットにつながる携帯電話のことを「ウエブケータイ」と表記している。下田さんが携帯電話とお話しになった部分の一部も、同一表記してあることをご了承ください。
ケータイは電話の最新形態というよりも、声もデータも送受信できるモバイル情報端末だとの認識によるものです
― 矢野注記)
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