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矢野
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音楽はCDによってデジタル化が進み、残念ながら、アナログレコードは日本から消えつつありますね。
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寺垣
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デジタル化が悪いわけではない。デジタル化しないと、コストがかかりすぎる分野はあります。一定の時間軸で切って、フォーマットに押し込めれば効率的ですからね。デジタル化には必然性があり、私もそれは認めます。ただ、オーディオ同様、デジタル化は手段であって目的ではありません。
レコードはエジソンが発明して、これまで多くの演奏を記録、複製して文化遺産を積み上げてきた。本来、芸術はコピーされるべきものではないのですが、優れたオーケストラや演奏家はそう生まれるわけではないので、彼らの名演をコピーしてきたわけです。芸術の分野でこれほど長期間、膨大な社会資本が投下されてきた例は他にないですよ。ところがその成果たるレコードが、一度も正しく再現されないまま、捨て去られるのは文化遺産への冒涜だと思っているんです。
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矢野
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先頃、蓄音機展を見る機会がありました。10台ほどの蓄音機でミニコンサートを開いており、なかなか素晴らしい音なのであらためて感心しましたが、出展者は200台もの蓄音機を持っている有名なコレクターで、「レコードはいい音だが、CDはやせた音しか出ない」と言っていました。CDは人間の耳に聞こえない音域をカットして、デフォルメしているため、生の演奏や古いレコードに比べて音に潤いがない、ということのようですね。
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寺垣
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CDを開発したソニーが、量子化数16ビット、サンプリング周波数44.1キロヘルツと決めました。量子化数とはデジタル信号を何段階の数値で表現するかを示し、サンプリング周波数は1秒間にアナログ信号からデジタル信号へ変換する回数を示しています。44.1キロヘルツでは理論的には約2万2000ヘルツまで表現できます。私のような年寄りは1万ヘルツの音は聞こえないし、若い人でも1万3000ヘルツを超えると無理でしょう。したがって、44.1キロヘルツでフォーマットを切ったわけです。
ところが、音には「倍音」というものが含まれています。倍音とは、基本となる音の整数倍の周波数を持つ音です。この倍音が楽器などの音色の違いを生み出す重要な要素なのです。つまり1万ヘルツの音には2万、3万、4万ヘルツなどの倍音が含まれています。人が2万ヘルツを聴き分けられないからといっても、10万ヘルツの音があるかないかは分かるんですよ。デジタルにする以上、ある一定の数値で処理するのは仕方ないにしても、人間が分かるわけがないから切るというのは傲慢な話です。
とはいえ、私は当時として16ビット、44.1キロヘルツが不十分だったとは思いません。何しろ、いまのオーディオ装置はそのフォーマットすら満足に再現していないんですから。ちなみに、このスピーカーでCDをお聴かせしましょう。
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矢野
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CDそのものではなく、スピーカーの方が問題だと。
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寺垣
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ええ、CDの音がやせているんじゃなくて、スピーカーやプレーヤーが悪いんです。箱型のスピーカーではCDの音に素早く追随できないし、安いCDプレーヤーは内部の機械が手抜きで、音に変調を与えています。このスピーカーは振動板が動いて音を出していませんから、音の立ち上がりが既存スピーカーよりずば抜けていい。ガラスの割れる音が入ったCDをかけてみましょうか。
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矢野
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驚くほどリアルな音ですね。
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寺垣
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これだけ表現できるスピーカーは他にないと思いますよ。だからスピーカーを変えるだけでも、CDの音はとても豊かになります。もちろんレコードにはかないませんけどね。
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