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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

京都東山、東大路通から坂本龍馬の墓がある霊山護国神社へと登る道は「維新の道」と呼ばれている。その中程、高台寺公園脇の「金網つじ」に美しい豆腐すくいがある。京都には湯豆腐を出す店が多いから、良い豆腐すくいが見つかっても不思議ではない。京都→寺町→精進料理→豆腐→豆腐すくいという連想だが、湯豆腐をすくうためなら、陶磁器やホーロー、金属あるいは木や竹など、素材は何であれレンゲのようなものに穴をあければ用が足りると思うのだが、わざわざ手間のかかりそうな金網で作るのはなぜだろう。
聞くところによると京金網の歴史は平安時代にまでさかのぼるという。どうやら湯豆腐より前に金網があったようだ。そういえばお寺に金網は付き物である。恐らく鳩などの鳥や小動物が軒下や屋根裏に入り込まないようにしているのだろう、山門から伽藍の隅々まで金網が張り巡らされている。お寺の御用で始まった金網作りが千年の歴史を経て洗練された技となり、やがて庶民の暮らしに役立つ焼き網、ざる、茶漉しといった日常の道具作りに活かされてきたものと思われる。そう考えると湯豆腐すくいに金網が使われても一向に不思議はない。
網の中心に花形の模様を配する「菊出し」という意匠は京金網伝統の技だと聞くが、赤銅の菊を精緻に編みこんだ豆腐すくいの、なんと美しいことか。カメラのレンズを近づけてのぞき込んで見るとその尋常ではない手技の鮮やかさに感嘆する。実際に豆腐をすくってみると、このパターンが目処になるので中心に載せやすくバランスがとれる。なおかつ、繊細な網目が柔らかな豆腐の表面をとらえて滑らず、網面が平らであるために豆腐の形を崩さない。誠に機能的なのである。
豆腐という、勝れてシンプルな食材を扱うものだからこそ、こうした贅も野暮ではない。

Vol.02 豆腐すくい 京金網×精進料理

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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