箱根ラリック美術館開館5周年記念企画展「箱根寄木 アール・デコ ラリックに先駆けた和の工芸」を観た。ガラス工芸作家ルネ・ラリックが、1904年のセントルイス万国博覧会で箱根の寄木細工に出会い、その精緻な幾何学的造形美に触発されて、それまでの有機的で豪華なアール・ヌーボー風一点もの芸術作品から、アール・デコ風の実用品へと作風を転換するきっかけを得たのではないか、という仮説を検証する展示構成である。ちょうど19世紀から20世紀に変わる節目で起きたルネ・ラリックの作風の変化と対比させる形で、小田原で4代に亘って寄木細工を制作している露木工作所の作品が並ぶ。
箱根寄木細工は江戸時代の終わりごろに箱根の畑宿で始められたとされる。当時から我が国有数と言われた箱根山系の樹種の多様さを活用し、それらのさまざまな色彩と木目の小片を寄せて作る精緻な模様が特徴である。模様面にカンナをかけて得たシート状の「ズク」を箱などの面に貼るのを基本とする。小さな木片を集めて作った模様を薄く削って何百枚もの材料を得る、実に無駄のないエコロジカルなデザイン技法なのである。一方、最近は寄せた木をそのまま削って作る「ムク」の技法による製品も多く開発されている。
ズクの代表的な製品である秘密箱は小田原・箱根の土産物としてあまりにも有名であるが、今回はミニチュアの秘密箱とムクの合子(ごうし)を紹介する。秘密箱は、蓋を開けるまでに何回部品を動かすかで値段と大きさが変わるのが普通だ。技術に応じてということだろうが、このくらい小さくなると、逆に格段に高い加工精度が求められる。箱の各面には江戸時代から伝わる箱根寄木細工の代表的な模様のズクが貼られている。合子はゴウスとも言われ、小さな蓋付きの容器のことであるが、これはまた特に小さな菱形の容器である。両方とも手のひらにすっぽり入ってしまうかわいらしさで、その模様の細い線一本まで薄い木片を組んで描かれているのだから驚きである。さて、この小箱に何を入れようか、とあれこれ悩むのも楽しい。
- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1991年
- 株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
- 2000年
- 東京造形大学教授に就任
- 2006年〜2009年
- サステナブルデザイン国際会議実行委員長
- 1988年〜2009年
- グッドデザイン審査委員
- 現在
- 近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。