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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

富山県高岡市といえば銅器。銅や青銅を始めとする非鉄金属工芸を得意とする鋳物の街である。富山県の中にあってこの街が異彩を放つのは、慶長14年に加賀藩主前田利長によって開かれて以来、梵鐘のほか神具や仏具など、あらゆる鋳物製品を400年にわたって作り続けてきた職人の矜持が、今もって保たれているからだろう。
高岡でも老舗の一つ、大正時代創業の「能作」では、素材として銅や真鍮のほかに錫を扱っている。錫は1000年以上前にわが国に伝えられ、金や銀に次ぐ高価な金属として貴族階級の道具に使われていたようだが、江戸時代には庶民の間でも酒器などの材料としてとして重宝がられていたという。
錫は元素記号Sn、英名はTinで、青銅を始めさまざまな合金が存在するが、中世ヨーロッパ以降世界各地で高級な食器として愛用されてきたピューターはその代表格である。ところが「能作」の錫製品はあえて100%純粋な錫を使って作られている。
このビヤカップは、何とも素っ気のない、すとんとした形がかえって粋である。錫100%の鋳造品であるから熱伝導率が極めて高く、冷やしたビールを注ぐと錫特有のつやがすっと消えて白っぽくなる。それが目にも涼しげで、更に、縁に口を当てると中身と器が同じ温度に冷えている感触が心地よく伝わってくる。説明書きには錫のイオン効果で水を浄化し飲み物をまろやかにするとあるが、そのせいか冷酒など入れても、のど越しがやけに軽くてすいすい入るのは良いことかどうか…。あらかじめ冷やしたカップに野菜など入れると生き生きと鮮度が保たれるようで、色も鮮やかに見える。
肌の荒れた形(なり)に鈍い輝きがある様子も感じも味わい深く、ぎゅっと握ると少しつぶれて形が変わるのも、錫ならではの面白さである。探しても手に入れたい逸品である。

能作 http://www.nousaku.co.jp

Vol.04 錫100%のコップ 高岡の鋳物×ビール

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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