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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

都営新宿線で東京を西から東に抜けようとするころ、大島駅を過ぎたあたりで急に地上に出た地下鉄は、そのまま空中を駆けるようにして鉄橋を渡り、河幅600メートル余りの荒川を越えて江戸川区に入る。
江戸川区南篠崎4丁目、下町の風情を残すのどかな町内に、江戸風鈴の篠原風鈴本舗の工房がある。ここでは5代目篠原儀治さんを筆頭に、篠原一家の親子孫三世代がそろってガラスを吹いている。江戸風鈴の名付け親で江戸川区無形文化財保持者にして名誉都民の称号を持つ篠原さんだが、人懐こい大正生まれの江戸っ子職人である。
型も図面もなく、長いガラス管の先に付けた溶けたガラスを一気に吹いて膨らます宙吹きで、次々と透明なガラス玉を作って行く。冷めたガラス玉の根元を切り落とすと風鈴の形になる。丸く切り落とした縁をギザギザのままで仕上げないのが江戸風鈴。ここにガラス棒が当たって涼しげな音が鳴る。
江戸風鈴の特徴はその絵付けにあるといえる。ガラスの内側に筆を入れてさらさらと描かれる金魚や朝顔などの素朴な絵柄は、気取らず、飾らず、こだわらず、あくまで軽やかで粋なのである。風鈴は風を受けて揺れ動き、まぁるいガラス玉が景色を映してきらきらと光る。それにつれて、絵の形も色彩もいきいきと動き、表情を変える。江戸風鈴の面白さはその音色と共に、揺れる姿の涼やかさにあると思う。
18世紀に長崎から伝わり、19世紀前半の天保以降、江戸の町に出回り、明治に入って一世を風靡したというガラスの風鈴は、大きく変わりゆく時代の風景を映しながら毎年夏を迎え、軽やかに鳴り続けてきた。この夏の猛暑は記録的だったが、9月に入ってもまだまだ厳しい暑さとなって残りそうだ。窓という窓を閉ざしてエアコンをかけ続ける野暮をしり目に、思いきり開け放した窓辺に蚊遣りと団扇と江戸風鈴を持ち出して、遠くに花火でも眺めてみたいものである。

江戸風鈴 http://www.edofurin.com/

Vol.05 残暑に江戸風鈴 長崎+江戸川区

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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