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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

奈良市では、今年が平城遷都1300年に当たるのを記念して、さまざまな記念事業が開催されている。そのため、いつもは比較的静かな古都もこのところ随分にぎやかである。主会場の平城宮跡は、復元された朱雀門と大極殿の他は広大な空き地が広がるばかりだが、遺跡には想像力を覚醒させる力があるのだろうか、草の原を黙々と歩くだけで天平時代にタイムトラベルしたような気分になれるから不思議だ。

奈良には伝統の蚊帳生地を扱う中川政七商店がある。その麻の蚊帳生地で作られたタオル、下ろしたてはパリッとしているが、使うほどに柔らかくなる。他の麻のタオルの中には、乾いている時は張りがあっても濡れるとクタッとして紐のように細くなってしまうものが多い。そうなると石鹸の泡立ちも悪く、体をこすっても洗った気がしない。しかし、このタオルは平織りの蚊帳生地を三枚重ねてあるので、柔らかくなっても腰があり、麻特有のシャリ感は崩れない。ボリュームがあって湯をよく含むので泡立ちも良く、肌触りの適度な刺激がいつまでも心地よい。

素材はリネンである。日本語でひとくくりに麻と呼んでしまっているが、実はさまざまな種類があって、植物の種類も違えば繊維の性質も異なる。リネンは和名を亜麻といい、ヨーロッパでは服地の素材として長い歴史を持っているのだが、日本で亜麻が栽培されるようになったのは明治以降だという。だとすると、江戸時代以前から作られていた奈良の蚊帳は、元々、この国の代表的な農産物であった大麻(おおあさ)で作られていたと思われる。戦後厳しく栽培が規制されてしまった大麻の蚊帳生地タオルが、もしも手に入るものならば、早速風呂に持ち込んで、色づく柿でも眺めながら天平文化に思いを馳せたいものである。

Vol.06 蚊帳生地タオルと天平文化 麻×天平時代

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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