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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

トンネルを抜けた上越新幹線は、長岡を過ぎた辺りから越後平野に入り、はるかに広がる水田の只中を行く。刈り取りの済んだ稲田を眺めながら日本人はよくもまあこれだけの米を食べてしまうものだ、と感心しているうちに燕三条駅に着く。三条市は昔からの鍛冶屋の町であり、大工道具を始め、さまざまの工具類や包丁などの刃物の産地である。
一方、燕市はスプーン、フォーク、ナイフなどの金属洋食器で日本一の生産地、かつては世界的にも知られる規模と品質を誇っていた。今でも、土地の人が自らを「さじ屋」と呼ぶ、職人のプライドが生きる街である。
三条市が鉄を、燕市がステンレスを主に扱うという違いはあるものの、どちらも金属の加工業が中心であるが、近年はプラスチック製の生活用品も多く手がける。中でも、燕市の有力企業である曙産業が作るしゃもじは、日本中のほとんどの家庭で使われていると言っても良いほどのヒット商品で、すでに日本の食卓の風景に溶け込んでいる存在である。
新潟産のコシヒカリは、炊き上がるとピカピカと光るように美しく、甘味があってたまらなく美味い米であるが、どちらかというと粘りがあってひっつきやすい。その一粒一粒の形を崩さず、無駄なく、ふっくらと盛り付けるために開発されたというしゃもじの秘密は、表面を覆う半球状の突起である。しかし、よく見るとその突起の表面も更に小さな突起で覆われているのが分かる。この驚異的な成型技術こそが地元の米に捧げられたものづくりの魂なのである。黒い新製品はよそうご飯の量が一目で分かる。
今、正に新米の季節であるが、この夏の異常な猛暑は米の品質にも影響していると聞く。日本の農業と工業が、実は自然環境と密接な関係にあるということを改めて考えながら、もうひとつおかわり。

Vol.07 日本一のご飯をよそう道具 成型技術×お米の産地

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1991年
株式会社オープンハウスを設立(代表取締役)
1995年
Tennen Design '95 Kyoto 実行委員長
2000年
東京造形大学教授に就任
2006年〜2009年
サステナブルデザイン国際会議実行委員長
1988年〜2009年
グッドデザイン審査委員
現在
近年は特にサステナブルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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