ナビゲーションを読み飛ばすにはここでエンターキーを押してください。
COMZINE BACK NUMBER

日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

Vol.18 青ひびに走駒の酒器に思う 相馬駒焼×大堀相馬焼

このところ東日本大震災の被災地域にゆかりの深いものを取り上げる機会が多かったが、福島にはもう一つ、どうしても忘れることができない伝統的工芸品がある。相馬焼である。一般に相馬焼と言われる陶器には二系統ある。一つは、相馬中村藩の初代藩主であった相馬利胤の御用釜となって以来、相馬市にあって三世紀半に亘り窯元を受け継いできた、相馬駒焼の田代釜。もう一つは、浪江町の大堀地区を中心に25軒の窯元が相馬焼伝統の技を競い合ってきた、大堀相馬焼である。
相馬駒焼唯一の窯元を引き継いできた15代田代清治右衛門氏は震災で窯を壊され、その後他界されたと聞く。誠に痛ましいことである。一方、浪江町の大堀相馬焼は、震災に重なる原発事故のために窯元の皆さんは未だに避難生活を余儀なくされているという。今、我々が手に入れることができるのは、震災による損傷を免れた製品のうち、窯元の皆さんが一時帰宅の際に工房から持ち帰ったものらしい。もちろん、放射線検査済みであるから心配はないというが、それにしても新しい大堀相馬焼が入手できるのはいつのことだろうか。
この酒器は震災前に仕入れられたものを福島駅前の福島県観光物産館で求めたもの。青ひびの貫入りと駆け駒の絵付けは相馬焼の特徴である。焼き上がって窯から出す時に冷えてピーンという音とともにひびが入るという。手頃な価格の扱いやすそうな器だが、秋の気配が濃くなる頃にふと思い立って燗を付ける時など、こうした飾り気のない器が好ましい。ぬる燗の千駒などにはうってつけである。震災で被害を受けられた方々に心からのご冥福と復興を祈りつつ、相馬焼の窯に再び火が入る時が早く来るようにとの想いを馳せながら献杯。

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
Top of the page

月刊誌スタイルで楽しめる『COMZINE』は、暮らしを支える身近なITや、人生を豊かにするヒントが詰まっています。

Copyright © NTT COMWARE CORPORATION 2003-2015

[サイトご利用条件]  [NTTコムウェアのサイトへ]