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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 鹿沼箒Vol.25 蛤の形を持った座敷箒 畳文化×掃く快感

春、5月の声を聞くころになれば、さすがのヒノキ花粉も収まって、窓を開けて春風を招き入れたくなる。掃き出し窓を全開にして、溜まった埃を掃き出す心地よさ。ああ、短柄の座敷箒(ほうき)が欲しいと思い立って鹿沼に出かけた。
浅草から乗る東武伊勢崎線は、4月以来路線の一部がスカイツリーラインに、業平橋(なりひらばし)駅はとうきょうスカイツリー駅へと名前が変わった。埼玉県を突っ切って栃木県に入ったあたりから車窓の風景もだいぶ、のどかになってくる。2時間ほどで新鹿沼駅に着く。
彫刻屋台で知られる木彫の町鹿沼市を南北に貫く日光例弊使(れいへいし)街道を10分ほど北上すると「鹿沼屋台夢箒」の看板を掲げた大坂屋が目に留まったのでのぞいてみる。なんと創業300年、14代目というご主人の鈴木隆さんは、鹿沼でも今や数少ない伝統的箒職人ながら、絵も描けば、文章も書くという趣味人である。いろいろと面白いお話を伺った後で、とっておきの一本を譲っていただく。
鹿沼箒は、ホウキモロコシを扇型に束ねた元の部分の豊かな膨らみが蛤(はまぐり)の形を連想させることから、ハマグリ箒とも呼ばれる。入手したものには麻の葉模様の綴じ編みが見られる。このあたりで、例外的に今でも栽培が続けられている大麻の、成長の速さと繊維の強さにちなんだ縁起の良い模様である。焼き竹の柄の艶やかな飴色にハマグリの金糸の丁寧な編み込みが映えていかにも美しい。
ホウキモロコシの不ぞろいで腰のある穂先が畳の目に引っかかるようにして、溝に入りこんだ埃をはじき出す、その感触とサッサッという爽快な音はたまらなく心地よいものである。この箒を使うために掃き出し窓を持ったイ草の畳部屋を用意することができれば、箒の音に乗せて心の塵も払えそうな気がする。

 
大坂屋 http://www.kanuma-kanko.jp/entry.shtml?992

画像 麻の葉模様の綴じ編み画像 ハマグリの金糸の編み込み画像 穂先

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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