
前回新そばの話をしたと思ったら、もう新米の季節である。うまく炊き上げた新米は本当においしいものである。そう言えば、普段使いのお茶わんには案外と無頓着なことに気がついて、真っ白なご飯を盛るための磁器を探しに砥部(とべ)へ出かけた。
広島県尾道市から瀬戸内しまなみ海道で向島、因島、生口島、大三島、伯方島、大島と飛び石のように瀬戸内海を渡って四国へ。愛媛県伊予郡砥部町へは松山から車で30分。国道33号線に沿ったなだらかな丘に広がる住宅街に紛れるようにして多くの窯が点在する。最近はこのあたりに住みつく若い陶芸作家が増えていて、今や砥部の窯は百を超えているのではないかという。陶磁器の産地は日本中にあるが、こういう明るい話を聞いたのは久しぶりである。
18世紀後半に磁器焼成に成功して以来、砥部は磁器の産地として知られている。今回も磁器の茶わんを探しに来たのだが、たまたま立ち寄った森陶房のギャラリーで見つけたのは陶器の茶わん。鉄粉が散った胴にさらりと季節の草花を染め付けた、何ともいえず素朴な味わいが気に入ってしまった。三代目窯元の森光太郎さんに聞くと、砥部でも江戸中期までは地元の土で陶器を焼いていたそうで、その頃の温かい風合いを大切にしているという。
思わず手に取った絵柄は麦だった。それならば、ぴかぴかの新米にあえて大麦を混ぜて炊いてみよう。このめし茶わんならそんな遊びが似合うはずだ。
- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1982年〜88年
- INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
- 1989年
- 世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
- 1991年
- (株)オープンハウスを設立
- 1994年
- 国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyotoを主催
- 現在
- (株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。