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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 馬毛小判ブラシVol.31 小伝馬町の馬毛小判ブラシ 江戸の刷毛×靴磨き

上着をしっかり着こむ季節になると靴を磨きたくなる。日だまりでシャクシャクとブラシをかけた革靴は秋の日差しを受けて見違えるように生き返る。
靴磨き用のブラシを求めて日本橋まで行くことにした。
地下鉄日比谷線の小伝馬町駅に接する日本橋小伝馬町、大伝馬町界隈には江戸の残り香がある。伝馬町牢屋敷跡の大安楽寺をはじめ、べったら市の寶田(たからだ)恵比寿神社など寺社も多く、江戸時代から続く和紙問屋「小津和紙」も近い。
小伝馬町駅から人形町に向かい、銀行の角を右に曲がると大伝馬町。なんとなく風情のある通り沿いに、「江戸屋」の風格ある建物が見えてくる。享保三年創業、280年以上の歴史を誇る将軍家お抱えの刷毛(はけ)屋である。
化粧用ブラシに洋服ブラシ、ヘアブラシやボディブラシ、さらにさまざまな掃除ブラシが博物館のように並び、そのどれもが美しく、しかも少しも高くない。シュロとパームを半分ずつS字に巻いたタワシが珍しく、浴槽洗いや歯ブラシなど、あれこれ思わず買ってしまった。大満足での帰り道、肝心の靴ブラシを買い忘れたことに気がついた。
仕方なく戻りかけた途端、「奈良ブラシ」と書いた小さな店先に目がとまった。素晴らしく美しい靴ブラシがあるではないか。小判型のブナの白木に馬毛をみっしりと密度高く植え込んだだけの素っ気ないものだが、手にとると、ほれぼれするような作りである。
聞けば、やはり100年前から続く刷毛問屋だという。こんな東京の真ん中にも、時の流れに流されないものづくりの心がちょいと顔をのぞかせる。まだまだ捨てたもんではない。一つ求めて店を出ると、正面に東京スカイツリーが突っ立って笑っていた。

画像 馬毛小判ブラシ 部分画像 馬毛小判ブラシ 部分画像 シュロとパームを半分ずつS字に巻いたタワシ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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