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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 馬毛小判ブラシVol.32 くじらの形の切り出しナイフ 土佐の鯨×打ち刃物

久しぶりで高知に行く機会があった。四万十川上流の山間部に若者たちが住み着いて興味深い活動を始めている、その様子を見に行ったのだが、やはり南国土佐の自然と人情には人を引き寄せる不思議な魅力がある。
帰りがけに、東西に長い高知県を西から東へ横切って、高知市を通り越し、土佐山田まで足を延ばすことにした。四万十川に沿って走り、「しまんとグリーンライン」の愛称で知られるJR予土線(よどせん)の十川(とおかわ)駅から、土佐くろしお鉄道中村線を経由して窪川へ。そこでJR土讃(どさん)線の特急南風に乗り換えると2時間半で土佐山田駅に着く。そこは、千年の歴史を持つと(高知の人が)言う、土佐打ち刃物の産地である。
坂本龍馬や、同じく討幕派の志士だった中岡慎太郎が腰に差していた日本刀の鍛冶仕事を現代に伝える土佐打ち刃物を、土佐人はこよなく愛してきた。高知城の門前に刃物屋が並ぶ光景を見ればそれが分かる。
県の面積の8割以上を占める山林を管理するためのナタや、カマなどの農具から包丁まで、実にさまざまな刃物類を一本一本手で打ち出して作る昔ながらの鍛冶仕事が、ここでは今でも生きている。近年、カッターナイフにすっかりお株を奪われた切り出しナイフを手に入れようと、土佐刃物流通センターをのぞく。お目当ては鎌鍛冶職人である伝統工芸士、山下哲さんが打つ「くじらナイフ」である。
マッコウクジラやミンククジラなど6種類あるが、ナガスクジラがいろいろな用途に使いやすい。荷物の開梱から郵便の開封、鉛筆削り、ちょっとした彫りものまで、カッターナイフよりずっと安定しているので、正確に安全に切れて、研げばいつまでも使える。その上、愛嬌があって心が和む。
「土佐の高知の はりまや橋で 坊さんかんざし買うを見た」 で始まるお馴染みよさこい節。その三番に、「言うたちいかんちゃ おらんくの池にゃ 潮吹く魚が泳ぎよる」とあるのは鯨のことである。土佐とは切っても切れない縁がある鯨だが、ナイフになると、まっことよう切れるぜよ。

画像 くじらナイフ 部分画像 くじらナイフ 部分画像 くじらナイフ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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