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日本デザイン探訪〜「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 大麻草の繊維の束Vol.36 黄金色に輝く縄文の布 大麻草×栃木県

思うところがあって大麻博物館へ行ってきた。と聞くと、何やら怪しいと思われるかもしれないが、日本列島に自生してきた大麻草には、いわゆる幻覚作用を及ぼす樹脂成分はほとんど含まれておらず、古来工芸用植物素材として活用されてきた。その点では昨今、不遇な扱いを受けているかもしれない。
栃木県の那須高原から宇都宮郊外に掛けて大麻の栽培農園や関連施設が点在する。大麻博物館は、JR宇都宮線の黒磯駅から国道17号線に出て、那須岳に向けて走り、那須インターを通り越してしばらく行って右に入ると、見落としてしまいそうな小さなコテージに、不釣り合いなほど大きく大麻草の葉を描いた看板でそれとわかる。
以前このコラムで麻のタオルを取り上げた時から、もともとは大麻で作られていたはずの本物の麻布を見てみたいと思っていた。今では一般的に麻と呼ばれる苧麻やリネンではなく、黄金色に輝く大麻草の繊維で織られた布である。
日本では、ほんの数十年前まで、麻と言えば何千年も前から全国に自生していた大麻のことであった。人々は大麻草の種を食べ、油を絞り、茎から繊維を取って丈夫な縄をない、草履をはじめ、蚊帳などさまざまな日常の道具を作り、糸をつむいで布を織った。
縄文土器の縄模様は大麻の縄であったというから、この植物と我々の付き合いは古い。
第二次世界大戦後に施行された法律によって栽培が規制されて以来、負のイメージが先行する大麻であるが、今でも相撲の横綱や神社のしめ縄など、神事には欠かせない素材であることから、栃木県など一部地域で細々と栽培されている。しかし、昔ながらの織物にまで加工する技術はごく一部を残しほぼ絶えようとしている。
大麻博物館では大麻草の栽培から糸づくり、そして織物にするまでの工程を記録し、伝承しようと活動しているが、実際に我々が手に入れられたのはこのストラップになった繊維までであった。いつかまた、この国の環境に最も適応し、有用で、かつ美しい黄金色の布が復活することを夢見ながら、そのしっとりとした手触りを楽しむことにする。

画像 大麻草の繊維の束画像 黄金色の繊維 拡大画像 黄金色の繊維 拡大

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年〜88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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