夏はビール、と相場が決まっていたものが、冬の暖房や夏の冷房が効いた部屋で一年中飲むようになって季節感が薄れてしまった。梅雨が明けたら、窓辺の風鈴に合わせるようにカラカラと氷の音を立てながら、冷たいグラスの感触を楽しみたくなった。
江戸切り子のタンブラーを探しに葛飾まで行ってきた。日暮里から京成本線に乗り換えて堀切菖蒲園まで。窓の右側に見えた東京スカイツリーがビルに隠れたと思ったらいつの間にか左側に立っていたりするのが面白くて、ついつい気を取られている間に着いてしまった。
葛飾である。駅を出た途端にあった蕎麦屋の一杯が、めっぽう、旨かった。いつまでたっても昭和の空気が抜けきらない東京の下町は愉快だ。ミヨシ油脂の周りに住宅が広がる昔ながらの堀切に、大正12年創業という株式会社清水硝子を訪ねた。工場隣のショールームで江戸切り子をじっくりと見せてもらう。
新作の中にはなかなか面白いものがあって、あれこれ悩んだ揚げ句、やはり定番柄のタンブラーに決めた。柔らかいナメコのように削り出された丸菱に囲まれて魚子(ななこ)と呼ばれる粒つぶが並ぶ。底には彫りの深い菊模様。カットの断面に色かぶせガラスの厚みがのぞく。
手にとって見ているだけでも飽きないが、その多彩な切り子の模様が活き活きと輝き出すのは、投げ入れた氷に琥珀(こはく)色を帯びた水を注いだ時である。夏の夜の花火のように華やかなグラスで乾杯。
- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1982年~88年
- INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
- 1989年
- 世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
- 1991年
- (株)オープンハウスを設立
- 1994年
- 国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyotoを主催
- 現在
- (株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。