COMZINE BACK NUMBER

日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 江戸切り子タンブラーVol.39 ななこ模様の江戸切り子タンブラー 色かぶせガラス×江戸の切り子細工

夏はビール、と相場が決まっていたものが、冬の暖房や夏の冷房が効いた部屋で一年中飲むようになって季節感が薄れてしまった。梅雨が明けたら、窓辺の風鈴に合わせるようにカラカラと氷の音を立てながら、冷たいグラスの感触を楽しみたくなった。
江戸切り子のタンブラーを探しに葛飾まで行ってきた。日暮里から京成本線に乗り換えて堀切菖蒲園まで。窓の右側に見えた東京スカイツリーがビルに隠れたと思ったらいつの間にか左側に立っていたりするのが面白くて、ついつい気を取られている間に着いてしまった。
葛飾である。駅を出た途端にあった蕎麦屋の一杯が、めっぽう、旨かった。いつまでたっても昭和の空気が抜けきらない東京の下町は愉快だ。ミヨシ油脂の周りに住宅が広がる昔ながらの堀切に、大正12年創業という株式会社清水硝子を訪ねた。工場隣のショールームで江戸切り子をじっくりと見せてもらう。
新作の中にはなかなか面白いものがあって、あれこれ悩んだ揚げ句、やはり定番柄のタンブラーに決めた。柔らかいナメコのように削り出された丸菱に囲まれて魚子(ななこ)と呼ばれる粒つぶが並ぶ。底には彫りの深い菊模様。カットの断面に色かぶせガラスの厚みがのぞく。
手にとって見ているだけでも飽きないが、その多彩な切り子の模様が活き活きと輝き出すのは、投げ入れた氷に琥珀(こはく)色を帯びた水を注いだ時である。夏の夜の花火のように華やかなグラスで乾杯。


株式会社清水硝子 http://www2u.biglobe.ne.jp/~kirikoya/

画像 ななこ模様画像 底の菊模様画像 タンブラー拡大

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
Top of the page