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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 魔法瓶水筒Vol.40 木の帽子をかぶった魔法瓶水筒 木工ろくろ×ステンレス真空容器

「熱中症」という言葉が普及するにつれて、いつの間にか大変な種類が出回っているステンレス真空容器の水筒だが、印象的なデザインには一度しか出会っていない。いつかどこかで見かけたその記憶をたどって探してみた。
東京は起伏に富んでいる。六本木から渋谷に向かって坂を下りきった谷底は、かつて霞町という風情のある地名を持っていた。今は西麻布と呼ばれるその交差点を右に曲がると青山霊園。その西側に沿って登って行くと青山通りに出る。そのまま突っ切って少し行くとSUSギャラリーというおもしろい店があって、そこにこの水筒が置いてある。
水筒本体は「tsutsu」というシリーズで、新潟県燕(つばめ)市のステンレス二重成形による真空断熱技術を使った容器である。最近たくさん出回っている魔法瓶型水筒のほとんどはこの方式のもので、いわゆる「割れない魔法瓶」なのだと威張ってみても、魔法瓶が割れるなどという謎のような話が理解できる人はだんだん少なくなっている。それくらい当たり前になってしまった先進技術が、日本の地方の中小企業で開発されたということはもっと宣伝されても良いと思う。
印象的なのは、ケヤキでできたキャップならぬカップをかぶっていること。こちらは石川県、中山漆器の木地師のろくろ技術を活かしたものだという。ねじ切りの加工は素晴らしく、工業製品であるステンレスボトルにしっくりとはまる精度はさすがである。
歩きながら飲むならいざ知らず、会議や講演会など人前でのラッパ飲みはいまだに気が引けるからカップで飲めるのはありがたい。ましてや木のカップならただの水でもおいしそうに見えるに違いない。


SUS Gallery http://susgallery.jp/

画像 水筒の開口部画像 内蓋画像 木のカップ

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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