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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 伊賀の里のかまどさんVol.42 伊賀の里のかまどさん 呼吸する土×忍法かまど炊き

今年も新米の季節がやってきた。うまい米をさらにうまく味わうための土鍋を求めて伊賀上野まで出かけた。
名古屋駅からJR関西本線亀山駅で加茂行きの単行ディーゼルに乗り換え、右も左も緑また緑の中を分け入るように駆け抜けて伊賀上野駅まで、およそ2時間のローカル線の旅である。

駅から乗ったタクシーは、狭い曲がりくねった山道をためらうことなく登って行く。もう三重県から滋賀県へと県境をまたごうかというあたりになって、やっと伊賀焼窯元の集落、丸柱に着く。
すぐそこの峠を越せば信楽焼の里、甲賀市だという。伊賀流忍術VS甲賀流忍術、伊賀焼VS信楽焼のライバル同士が峠ひとつはさんで文字通り対峙している。

180年前の天保3年築窯という伊賀焼の老舗、長谷園のヒット商品「かまどさん」は、手間いらずで必ずおいしくご飯が炊ける土鍋として人気が高い。一合炊きから五合炊きまでそろっている中から、迷った末に二合炊きを選ぶことにした。

小ぶりでもしっかり重い土鍋を持ち帰って、早速炊いてみる。強火のガスコンロに掛けて10分余り、蒸気が噴き出したのを合図に火を止めて20分蒸らす。多孔質で、「呼吸する土」と異名をとる琵琶湖湖底層の陶土が勝手に「はじめチョロチョロ中パッパ」をやってくれるので、火加減なしでぴかぴかのご飯が炊き上がる。
開発には千点を越える試作を重ね、3年半の年月を要したという。忍術も窯術も一朝一夕に出来るものではない。


長谷園 http://www.igamono.co.jp/

画像 表面拡大画像 内部画像 炊き上がったぴかぴかのご飯

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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