今年もお酉(とり)さまの季節がやってきた。毎年コートを羽織るこの時季になると、浅草の鷲(おおとり)神社か新宿の花園神社、あるいは目黒の大鳥神社、時には麻布の十番稲荷で開かれる酉の市に出かけては、新年の熊手を求めてきた。
江戸時代に始まったお酉さまにつきものの熊手であるが、当初は福をかき込むという長い竹の熊手におかめの面を取り付けたシンプルなものだったようだ。近年では境内に並ぶ熊手店ごと、さまざまに趣向を凝らしつつ、その変化の傾向は社会の動きを反映していて面白い。
鶴亀鯛(たい)と松竹梅、大判小判に大福帳、七福神やらお多福さん、打ち出の小槌(こづち)に米俵、サンゴ、あたり矢、宝船など、ありとあらゆる縁起物満載で、昭和の高度経済成長期以来ひたすら商売繁盛を願ってきた。それとともに、元来、竹や古紙、稲わら、荒縄、粘土などの自然素材で作られていた飾り物は、プラスチックなど人工材料を用いた外国製の成型品にとって代わられた。これを燃やせば有毒ガスが気がかりで、神社に納められた古い熊手のお焚(た)き上げは、分別が条件というのが実情。
そんな中、紙に手描きの七福神を中心にシンプルな自然素材だけで豊かな表情を作り続けてきた「よし田」の縁起熊手は、がぜん異彩を放っている。素性の確かなエコマテリアル(環境調和素材)に、はらりと金箔をあしらった粋。これそのものがすでに御利益、ありがたい。
- 1949年
- 東京生まれ。
- 1973年
- 東京造形大学デザイン学科卒業
- 1982年~88年
- INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
- 1989年
- 世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
- 1991年
- (株)オープンハウスを設立
- 1994年
- 国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
- 1995年
- Tennen Design '95 Kyotoを主催
- 現在
- (株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。