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日本デザイン探訪~「今」に活きる日本の手技 益田文和

画像 素性の確かなお酉さまの熊手Vol.44 素性の確かなお酉さまの熊手 エコマテリアル×ご利益

今年もお酉(とり)さまの季節がやってきた。毎年コートを羽織るこの時季になると、浅草の鷲(おおとり)神社か新宿の花園神社、あるいは目黒の大鳥神社、時には麻布の十番稲荷で開かれる酉の市に出かけては、新年の熊手を求めてきた。

江戸時代に始まったお酉さまにつきものの熊手であるが、当初は福をかき込むという長い竹の熊手におかめの面を取り付けたシンプルなものだったようだ。近年では境内に並ぶ熊手店ごと、さまざまに趣向を凝らしつつ、その変化の傾向は社会の動きを反映していて面白い。

鶴亀鯛(たい)と松竹梅、大判小判に大福帳、七福神やらお多福さん、打ち出の小槌(こづち)に米俵、サンゴ、あたり矢、宝船など、ありとあらゆる縁起物満載で、昭和の高度経済成長期以来ひたすら商売繁盛を願ってきた。それとともに、元来、竹や古紙、稲わら、荒縄、粘土などの自然素材で作られていた飾り物は、プラスチックなど人工材料を用いた外国製の成型品にとって代わられた。これを燃やせば有毒ガスが気がかりで、神社に納められた古い熊手のお焚(た)き上げは、分別が条件というのが実情。

そんな中、紙に手描きの七福神を中心にシンプルな自然素材だけで豊かな表情を作り続けてきた「よし田」の縁起熊手は、がぜん異彩を放っている。素性の確かなエコマテリアル(環境調和素材)に、はらりと金箔をあしらった粋。これそのものがすでに御利益、ありがたい。

画像 七福神画像 鶴、大判など画像 金箔

益田文和(ますだ・ふみかず)プロフィール

1949年
東京生まれ。
1973年
東京造形大学デザイン学科卒業
1982年~88年
INDUSTRAL DESIGN 誌編集長を歴任
1989年
世界デザイン会議ICSID'89 NAGOYA実行委員
1991年
(株)オープンハウスを設立
1994年
国際デザインフェア'94 NAGOYAプロデューサー
1995年
Tennen Design '95 Kyotoを主催
現在
(株)オープンハウス代表取締役。近年は特にエコロジカルなデザインの研究と実践をテーマに活動している。
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