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“孤独の解消”をテーマに。
できなかったことこそ、未来につながる価値がある

― “孤独の解消”をテーマにロボット開発をしようと思われたきっかけは?

吉藤:車いすに関するいろいろな悩み相談を受けて、私にできることがあるのではないかと思い、おじいちゃん、おばあちゃん、障がいを持つ方などに話を聞いたんです。耳が遠くなって人の話が聞きづらくなったとか、年をとって社会のお荷物になっているとか、使いやすい車いすが必要というよりも、みなさん孤独を感じていることがわかりました。私もひきこもり時期には無力感や孤独を感じてとても苦しい思いをしました。こういう感情は本来持つべきじゃないですよね。どうやったら孤独を解消できるかを研究しようと、将来の進む道を決めました。

― ご自身が経験していることにやるべき課題があったのですね。

吉藤:そうですね。私は人との出会いを通してひきこもりから抜け出すことができ、社会とつながることができ、孤独が解消されました。やりたいこともみつかりました。高専で人工知能の研究をしましたが、人工知能ロボットでは、根本的な孤独の解消にはつながらない、やっぱり人との交わりが必要です。うまくコミュニケーションができないなら、それを仲介するロボットがあればいいと思いました。

― 人と人を仲介するのが分身ロボット「OriHime」なんですね。

吉藤:はい。大学在学中にオリィ研究所を立ち上げ、分身ロボットの研究を始めました。「OriHime」は、人工知能は搭載されていません。人が遠隔で操作しながら動かすもので、まさに分身です。行きたい場所があるのに行けない人にとって、分身として行って、その場を共有できます。離れている人とのコミュニケーションは電話やオンライン会議ツールなどがありますが、それだと離れた場所のままで、孤独は解消されません。「OriHime」の視覚を通して周りを見たり、音を聞くことができるので、そばにいる雰囲気を共有できます。共通の体験や思い出を持てるので安心感が生まれるんです。それはまさに私が入院していた時、ひきこもりの時に一番欲しかったことでもあるんです。

― 2021年、東京・日本橋に「OriHime」がサービスを提供するカフェ「分身ロボットカフェ DAWN ver.β」をオープンしました。それから1年半が経ちましたが、実感をお聞かせください。

吉藤:分身ロボットカフェは、今まで誰もやったことがないことにどんどん挑戦して、お客さんにもそれを感じてもらおうという、研究・実験をする場所でもあります。私はここを通してどんどん失敗をしていきたいんです。

―たくさん失敗していきたいとは?

吉藤:誰もやったことがない、遠隔操作で動かして接客をし、コミュニケーションをしていく。誰も結果を知らないので、失敗をすることにすごく価値があると感じています。失敗することで解決策を考えてできるようになる。例えば、我々は空を飛びたいと思い、空を飛ぶために飛行機が作られてきたように、できないことに未来につながる大きな価値があるんです。だから、そのプロセスを含めて、カフェに集うお客さんも含めて一緒に完成形を進めていこうということをコンセプトにしています。現在進行形で、課題が見えたら地下の開発室で研究を重ねて、試していくという試行錯誤をしています。

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―「OriHime」はどのような方が遠隔操作されているのですか。

吉藤:「OriHime」を操作する人をパイロットと呼びますが、歩くことができない、外に出ることができない、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で眼球しか動かすことができない方など障がいを持つ方、外出困難な方から、海外に住んでいて日本とつながっていたいという方など、国内外から約70名のパイロットが従業員として働いています。みんな、社会に参加したいのにできない悩みを抱えていました。そんな人たちに「居場所」と「役割」を作ってあげられるのが「OriHime」です。

― パイロットの方々の反応はいかがですか。

吉藤:みなさん積極的に「OriHime」を介してコミュニケーションしています。私が作ったものを使ってくれるのはとてもありがたいです。私が作ったもので楽しんでくれることが、私にとっての楽しさなんです。

うれしいと思えることを増やせば、生きやすくなる。
寝たきりの先にもキャリアはある

― ロボット開発者として次に実現したいことはなんでしょう。

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吉藤:人生を謳歌できるロボットを作りたいです。私は「独占」という言葉が嫌いです。特に「役割の独占」ですね。忙しい人は忙しく、そうでない人はスキルアップの機会さえも与えてもらえないのは嫌ですね。誰もが自分のできることで何かの役に立てる世の中を作っていきたいんです。

― それはシェアすることを増やしていくということですか。

吉藤:そうですね。ほかの人よりもできるようになったら自分の仕事を切り出して次の人に渡していくことができればいいと思います。これは高齢者から若者に単純に代替わりをしていくということではなくて、適材適所で変えていく働き方を提案していきたいんです。

以前、ALSの患者さんから「これはおいしいから食べて」と言われたことがあります。本人は食べることができないのに、その人の前で「おいしい」って言っていいのか悩んだんですが、彼は「自分は食べられないけれど、自分が選んだものを目の前の人がおいしそうに食べてくれる姿を見ることが、僕にとっておいしさなんだ」と。だからぜひ食べて感想を聞かせてと。すごいことだなと思いました。その思いと一緒で、自分の周りの人や仕事仲間が活躍するのはうれしいことだなと思うんです。

自分が褒められなくても、自分に関わった人たちが褒められるのはうれしい。そういううれしいと思える存在を増やすことで自信が持て、もっと生きやすくなると思います。研究していく中でそういう生き方をしていきたいと思うようになりました。

― 実現できると働き方の選択肢が広がりますね。

吉藤:そうです。私は寝たきりになっても働きたい。生きていいと思っていたいんです。寝たきりの先にもキャリアはあります。寝たきりになってしまったと悲壮感を抱くことなく、その先を考えられるようにしたいんです。寝たきりの先のことをフランクに話せるようにしたいですね。

分身ロボットカフェがあることで、我々も体が動かなくなった後に、ここで働いてもいいと思える空間があるというイメージを持ってもらえる。そういう場所がある未来をめざしています。

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取材時にエントランスで分身ロボットOriHimeを介して接客していたのは、東京2020オリンピックの聖火ランナーを務めた、頸髄損傷による四肢マヒの障がいを持つコーキさん。カフェに入ると「いらっしゃいませ」と声をかけてくれる

取材後記

吉藤さんは、大学生になってまず初めに社交性を身に付けようと行動しました。社交ダンス部や演劇部に所属してひとつずつコミュニケーションの仕方を学んでいったそうです。「孤独を解消する」という自分のやりたいこと、使命とするものが見つかったことで、モチベーションが上がり突き進んでいきます。そして課題を解決するためにいろいろな人のところへこまめに足を運んでいます。吉藤さんは予想をはるかに超える努力家で、自分の感情をきちんと受け止めて真正面から向き合ってきた人なのだと思いました。「寝たきりの先のキャリア」をフランクに語れる世の中が来ることを期待しています。

(プロフィール)

吉藤オリィさん
株式会社オリィ研究所代表取締役 所長 デジタルハリウッド大学院特任教授/1987年奈良県生まれ。小学5年生~中学3年生まで不登校を経験。高校時代に電動車椅子の新機構の発明を行い、国内最大の科学コンテストJSECにて文部科学大臣賞、世界最大の科学コンテストIntel ISEFにてGrand Award 3rd を受賞、その際に寄せられた相談と自身の療養経験から「孤独の解消」を研究テーマとする。早稲田大学にて2009年から孤独解消を目的とした分身ロボットの研究開発を独自のアプローチで取り組み、2012年株式会社オリィ研究所を設立。分身ロボット「OriHime」、ALS等の患者さん向けの意思伝達装置「OriHime eye+ switch」、全国の車椅子ユーザに利用されている車椅子アプリ「WheeLog!」、寝たきりでも働けるカフェ「分身ロボットカフェ」等を開発。米Forbes誌が選ぶアジアを代表する青年30人「30 Under 30 ASIA」、2021年度の「グッドデザイン賞」15000点の中から1位の大賞に選ばれる。著書に「孤独は消せる」「サイボーグ時代」「ミライの武器」など。

2023/04/05

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