NTTコムウェア
 
コム人対談
松尾勇二
ITの多面性
右 松尾 左 矢野
サイバー時代をどう生きるか
松尾 誰もが情報を発信できる時代になって、矢野さんがいらっしゃる朝日新聞社の形態も、大きな変革を迫られるのではないでしょうか。
矢野 揺れていますよね。僕は、今のIT化やデジタル化が人類に及ぼす影響は、グーテンベルクの印刷術が人類のものの考え方や感性に与えたのと同じぐらい重みを持っていると思っているんです。
松尾 私もそう思います。活版印刷術の発明が与えた最も大きな社会的インパクトは、聖書でしたよね。一部の聖職者の手に独占されていた聖書が、どの家でも持てて、いつでも読めるものになった。それはキリスト教が教会のものではなく、信者のものになったということですよね。
今度はインターネットの普及によって、これまで放送や新聞などが送り出してきた情報の流れが大きく変わり、誰もが発信者であり受信者になる時代となった。いろんなカルチャーも変わってくるでしょう。そういう状況にマスメディアはどう対応していくのか、難しいところにきているのでしょうね。
矢野 情報が錯綜し、もはや情報の交差点の意味が薄れてきています。「記者クラブ」などもその象徴的な存在です。ジャーナリズムを標榜してきた我々は、これまで果たしてきた機能をどう維持し、かつ時代にどう対応していくか。それを考えなければならない時にきていると思います。
松尾 矢野さんは朝日新聞社で『ASAHIパソコン』を創刊、初代編集長を務められましたが、ジャーナリストとして近年のITの推移を見てこられていかがですか。
矢野 『ASAHIパソコン』創刊が1988年。当時言われていたのが「コンピュータリテラシー」です。
松尾 パソコンが使えないとダメだ、使いこなしなさい、と。
矢野 あの頃、50代以上の人の大多数は「自分が生きている間にコンピュータ時代など来ない」と思っていたのですが、今では老若男女あらゆる人がコンピュータと無縁では生きられなくなっている。そうなると今度は、多角的に存在している情報を主体的に取捨選択し、自ら発信していく技術を獲得することが大事になります。「情報リテラシー」とか「メディアリテラシー」ということが言われるようになりました。
僕が提唱している「サイバーリテラシー」というのは、さらにその先の話なんですね。インターネット上に成立したヴァーチャルな情報空間であるサイバースペース、これが世の中にどういう影響を与えていくのかということを理解し、それをうまく利用できなければ、これからの社会は快適なものにもならないし、へたをすると、非常に息苦しいものになってしまう。
松尾 矢野さんが提唱される「サイバーリテラシー」は、我々技術者にとっても、企業にとっても、大切なことになってきていると思います。
我々はシステムをつくりお客様に提供しています。それは、社会に提供していることでもあるのですから、「技術がよければいい」ではすまされない。経済はもちろん、社会的な影響まで考えていかなくてはならない。
バイオなどの領域でも、技術だけが進化してよいのかと問われています。矢野さんの言われるように、最先端の技術開発に携わる人間や集団は、トータルに考える視点をきちんと持っていないといけないですね。
矢野 徐々にですが、企業姿勢も、企業が求める人間像も変わってきていますよね。昔は新聞記者も同じ会社で10年修行しないと一人前ではないと言われましたが、今は誰もそんなことを言いません。どんどん社外へ出て切磋琢磨し、人間的魅力を身につけなければいい仕事はできないはずだ、と。
松尾 我々も技術という専門領域の中で、安穏としていることはできません。
矢野 現代は、毛虫が自分の内部諸器官を溶かしてサナギになり、それから蝶へ変身するように、時代の節目である、と「サイバーリテラシーの提唱」にも書きました。過渡期ゆえの苦労はあるが、逃げるわけにはいかない。若い人たちにはアグレッシブに挑戦していける面白い時代のはずです。技術の方々にとっても、きっとそうだと思うのですが。
松尾 技術もこれからです。ユーザーは、ある意味ではインフラをまったく意識しません。ITのいろいろな機能を誰もが使えるものにするのは、システムをつくる側の人間の役割です。専門家じゃないと運転できないような車では困るわけです。かつて整備の講習を受けないと運転免許が取れない時代もありましたが、今は、車づくりの専門家と整備の専門家とユーザーに完全に分離されている。そのように専門家の果たすべき役割が分離し確立しているかというと、パソコンの領域ではそこまでいっていないという気がします。パソコンはまだまだ使いにくいでしょう?
矢野 先日、都内の法人会で講演をしたのですが、40代、50代を中心とした300人くらいの参加者の半数近くがEメールアドレスを使っているのに驚きました。社会の中核を支える世代がITに関心があり、ITと人類の将来について考えようとしている、時代が動いている、と思いました。そういう方々からの講演の求めに応じて、そのうち全国を「サイバーリテラシー行脚」しようと考えています。
また今回は、技術の会社であるNTTコムウェアがホームページをリニューアルするのにあたって、僕の考えも取り入れていただけたことを大変うれしく思っています。
松尾 こちらこそ。「COMZINE」とは、「コムウェア」と「マガジン」の造語だと聞いておりますが、いい名前がついたと思っています。
矢野 この対談コーナーは、「コム人」インタビューだな、と考えました。「コム人」と書けば「コミュニケーション人」。つまり、新しい情報人としての生き方を様々なゲストとともに考える対談でありたい、とお引き受けしました。ゲストには哲学者、経済学者、芸術家もいるだろうし、法律家もエンジニアもいる、というふうにしていくつもりです。
松尾 それは興味深いですね。私も同感です。
Big IT……BtoBのIT企業で、技術に定評。
Challenger……「お客様を理解する」営業の強化が、課題。
Chance……IT不況、技術改革、企業再編…時代の変化は進出のチャンス。
Business model……ハードからソフトへ転じたIBMがビジネスモデル。
Cyber literacy……サイバー社会の読み書きそろばん。
Commitment……今、技術が問われていること。
Paradigm shift……加速するバラタイムシフト。
Tolerance……多様な価値観を内包しつつ歩むには。
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