NTTコムウェア
コム人対談
松尾勇二
ITの多面性
松尾勇二
ITと文化の多様性
松尾 社会の枠組がどんどん変わっていますが、それもひとつにはITの技術がもたらしたものと言えるでしょう。例えばイトーヨーカ堂が銀行を始めるなど、5年前には誰も考えなかったことです。銀行側にとっては、イトーヨーカ堂はお客さんからコンペティターになったのですから。
矢野 今までの垣根が崩れていくということは、垣根があって安定していた部分が壊れることでもある。そのときに、過去の秩序に代わる新しい秩序は何なのか、それを新たにどう組み立てるのか、という問題が出てきます。
松尾 これから直面する大きな問題ですよね。今やあらゆるものが大衆化していくことを止められない時代です。変化が激しいだけに、危険を感じることもありますね。
矢野 例えばアメリカなども、若く流動的な国ではあるが、東部エスタブリッシュメントの世界もあれば、アーミッシュなど昔ながらの生活を守る人々もいるというように、多元的に構成された社会ですよね。
日本の場合は、どうか。なにかエポックがあるたびに、古いものをすっかり脱ぎ捨てて、どどどっと変わってきたように思います。明治維新や敗戦など、その時々の変わり身の早さは素晴らしいが、良いものまで捨ててきたのではないでしょうか。
松尾 確かに今の日本は、多様な価値観を許容しない、なにか均一な社会とも言えますね。戦前の日本は、私はまだ生まれていないんですが、都会と地方は明らかに生活も価値観も違ったろうし、違いを違いとして認める精神的風土があったと思います。が、今はマスメディアが発達して津々浦々まで同じ情報が流れ、生活レベルも似たり寄ったり、みんな同じような価値観で生きている。だからどこかが傾くと、一斉になびいてしまうような、そういう不安定性みたいなものを感じます。
矢野 ITによって情報格差が是正されるのなら、例えば農村からもっとオリジナルなものが発信される、という方向に進んでほしいのですが、どうもそうはいっていない。過渡期だからなのかもしれませんが。
松尾 文化の多様性みたいなものは、ぜひ残していかないといけないでしょう。お祭りとか伝統的な行事とかは、費用をかけてでも残していくべきだと思います。
   
松尾 ITでグローバル化が進んで、アメリカン・スタンダードというのが世界中に広がっていますよね。日本はまだ固有の言語を持っているし、何千年の文化が残っているとは思うのですが。
何かで読んだブータンの話が印象的でした。ブータンにテレビが入り、インターネットも入るようになったところ、あらゆる情報がインドからのものになってしまった。すると言葉から生活習慣までブータン独自の文化が、インド文化に席捲されてしまった。子どもたちがブータンよりもインドのほうがいいと言うようになって、親世代が嘆いている…というのです。
矢野 身につまされるような話ですね。本来ITは、多言語国家というか、多元的な社会をつくり上げるのに適したツールのはずなのに、それが政治的文脈、経済的文脈の中で、逆に一極化や均一化に向かう現象が起きている、ということですね。
松尾 日本にも地域の祭りがあるように、世界には様々なローカルな文化があります。そういうものが、消えていっていいのか疑問を感じます。希少生物を保護するように、ローカルな文化を守っていかなきゃならない。そうでもしないと、なにかチャカチャカした薄っぺらな文化が世界中をのし歩くことになりかねない。いや、昔は良かった…などと回顧趣味のことを言うつもりじゃないんですけど、ね(笑)
矢野 多元的な情報を知らせていく、というメディアの役割も後退していますね。同じようなニュースばかりが流れる、という風潮ですからね。
松尾さんはどんなIT社会が来たらいいなと思われますか。ITへの夢をうかがわせてください。
松尾 今お話してきたような、多様性のある社会であってほしい、ということです。IT化の途上では、均一化や、強い文化が弱い文化を凌駕するというようなことが起きると思います。それを防ぐ方法論と英知が必要でしょう。ITはヴァーチャルとリアルの差をどんどん縮めていくでしょうが、コピー万能の世界になると、人間のリアルな五感が奪われはしまいか──私がこんなこと言うのも何だけど(笑)。
矢野 いやいや、技術が人間社会とどう切り結んでいこうとしているのか、とても大切なことを言われたと思います。
松尾 サイバーリテラシーと同じことだと思いますね。あらゆるものがそうであるように、技術にも100%いいことばかりでなくて裏腹の問題がある。さっき矢野さんが、「COMZINE」での対談を多角的な視点で進めてくださると言ってましたね。ありがたいと思います。ITは私どもの主要なビジネスですが、ITの持つ多面性を、いい点も、問題含みの点も含めて、いろんな議論が交わされる場所がこのホームページ「COMZINE」であってほしいと思っています。
Big IT……BtoBのIT企業で、技術に定評。
Challenger……「お客様を理解する」営業の強化が、課題。
Chance……IT不況、技術改革、企業再編…時代の変化は進出のチャンス。
Business model……ハードからソフトへ転じたIBMがビジネスモデル。
Cyber literacy……サイバー社会の読み書きそろばん。
Commitment……今、技術が問われていること。
Paradigm shift……加速するバラタイムシフト。
Tolerance……多様な価値観を内包しつつ歩むには。
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