矢野 今やっておられる仕事、「All About Japan(オールアバウトジャパン)」の話からお聞きしましょうか。
粟飯原 これはリクルートとアメリカの「About.com(アバウト・ドットコム)」が2001年2月に合弁で立ち上げたサイトです。
 1テーマに1人、専門家のガイドがいて、テーマに興味を持って訪れたユーザーをナビゲートします。例えば私が、インターネットで紅茶について調べようとしたとき、何万というサイトから目的のものを選びだすのは本当に大変で、それだけで消耗しちゃいます。そこで、紅茶に関してはプロ級の人間が、その目で選び出したサイトを紹介してくれたら安心だし、楽しく見られるでしょう。そういう感じで、インターネット、ビジネス、暮らし、グルメ、ペット、結婚、恋愛、エイターテインメント、スポーツなど250のテーマをそろえてガイドしています。スタートして約1年半で、いまでは月間約500万人のユーザーにご利用いただけるようになりました。
矢野 おもしろいですね。
粟飯原 今までの検索エンジンは、ロボットで機械的に検索をさせていました。それに対して異議を唱えたのがアバウト・ドットコムで、これからは「ヒューマン・インターネット」の時代、ロボットではなく専門家が検索の役目を負いますよ、と。プロの目でいいサイトだけを抜き出してユーザーに提示するわけです。それがユーザーの支持をいただいたと考えています。実際に人の目で見ないと、このサイトは面白いとか、このサイトのここを見ればいい、という行き届いたサービスはできませんよね。
矢野 コロンブスの卵みたいなものですね。昔、『朝日ジャーナル』という雑誌に「文化ジャーナル」というのがあった。他の雑誌でも同じようなことをやっていたけれど、映画とか演劇とか生活とかのジャンルごとに1ページものの署名記事があり、私の薦める今週のテレビ番組だとか、映画の紹介、生活の知恵など紹介していました。だから手法は必ずしも新しいわけではないと思いますが、こういうふうにドンと徹底してやるところがすばらしい(笑)。
粟飯原 束になっているのが一番の強みだと思います。専門家を何百人も集めてトータル化していることで、ほかのテーマもあるだろうなと、ユーザーが横移動していけるのも強みだろうと思います。
矢野 レースクイーン・ガイドもあるんですって。
粟飯原 ええ、すごい人気ですよ。レースクイーンが本当に大好きな方、レースクイーンに惚れ込んでいる方がガイドをやっていて、イベントには必ず出かけて、愛情あふれる写真を撮り、いち早くアップしてくださいます。ものすごいアクセスです。
矢野 レースクイーン評論家ですね。
粟飯原 矢野さんは『情報編集の技術』で「1億総エディターの時代」と書いていらっしゃいますが、誰でも、好きなことを追求して専門家になり、1サイトの編集長になれるという「夢の世界」を実現しているのが、まさに「All About Japan」だと思います。
 レースクイーンのガイドをしておられる方は、もともとフリーターだったのですが、レースクイーンが好きで好きでしょうがなくて、ここまでやって、いまではレースクイーンの雑誌にも取材を頼まれるようになりました。サイトがきっかけでブレークした方もたくさんいらっしゃいます。そういうふうに、このサイトは個人に活動の間口を広げたという面もあると思います。宝塚のコーナーは、元タカラジェンヌの方がガイドをやっていらっしゃるんですよ。普通の人が知り得ないような情報、裏話なども満載で、たくさんのファンがおられます。
 ネットレイティングスという視聴率データ会社の2001年に伸びた3大ウエブみたいなところで取り上げられたりしました。

矢野 少なくとも250人の専門家がいるわけですね。どうやって集めるんですか。
粟飯原 1つは公募で、サイトの応募画面で呼びかけています。応募者には作文やコラムを書いてもらったり、いろんなトレーニングをしていただいたりして、「この人こそふさわしい」という方を採用しています。主婦、会社員など職種や出身はさまざまです。もう1つはヘッドハンティングですね。この方は面白いという話を聞けば、うちのプロデューサーが出かけて、ぜひガイドになってほしいというお願いをしています。
矢野 ガイドへの報酬は?
粟飯原 最低で月額3万円です。その後、実績によってプラスアルファがあります。
矢野 自分の好きなテーマで書くわけだから、趣味と実益を兼ねている。こういうテーマでぜひやらせてほしいという売り込みもありますか。
粟飯原 あります。それが非常に面白ければ採用されます。ガイドになるトレーニングは結構厳しくて、丸々1つ、ガイドサイトを作っていただいています。1つのテーマで200とか300とかのサイトを見つけてリンク集を作ったり、自分のコメントをつけり、コラムを10本書いたり、という作業を一通りやった後で審査するんです。
矢野 原稿はどういうふうに入稿するんですか。
粟飯原 オンラインにアップするツールがあって、ガイドの方が直接アップしています。独自で開発したツールで、それを販売する事業もやりたいと思っています。
矢野 ウエブログですかね。
粟飯原 ウエブログは日記を上げるものですよね。あれとはちょっと違う仕組みです。
矢野 ガイドの年齢はどれぐらいですか。
粟飯原 中心は30代ですが、未成年者はいません。年配の方では60代もおられますよ。
矢野 お年寄りを集めたほうがいいですよ。『インターネット白書』を見ていたら、「オンライン・ショッピングが盛ん」という記事の中に、昔は若い女性が多かったけれど、いまは高齢者が多い。「ITおばさん」が増えた、と書いてあった。年長者は時間にゆとりがあり、実務の経験もあり、趣味でいろんなことをやっている人も多いから、そういう人たちに得意のテーマで書いてもらえば、いいコミュニティサイトができるんじゃないでしょうか。
粟飯原 うちのサイトは、ほかのポータルと比べて年齢層が高いというのが1つの特徴です。年配の方のほうが知的好奇心があるみたいです。
矢野 サイトの運営は、広告収入が基本ですね。記事で紹介したり、取り上げたりした企業からお金を取るわけですか。
粟飯原 そうです。
矢野 記事の客観性や公正さが損なわれるというようなことは? 「この際広告を出しませんか」と言えば言えるけれど、広告を出すから記事に載せてくれという話にもなるので、この辺は記事の客観性という点で微妙だと思いますね。
粟飯原 それはうちとしてもすごく意識しています。客観性というのがうちの要でもあるので、クライアントに対しては「ガイドは自由に書きますよ、結果的にあなたの商品の悪いところも書きますよ」とはっきり言っています。ただ、最近の担当者の方は悪く書かれるのを喜ばれるんですよね。こんなところもあったんだ、みたいな。国産車コーナーで、ガイドが最近スバルを買って結構気に入っているという話があれば、それを受けてスバルさんに営業に行くとか、そういう方法でガイドの趣味、嗜好を損なわないようなスタイルを模索しているところです。
矢野 私的な趣味、あるいは見解を表明するところだというスタンスですね。
粟飯原 そうですね。あくまでもガイドが個人の趣味に基づいてお気に入りを伝えると。
矢野 リクルートの精神から言えば、最初に広告があって、その味付けとして記事がある。そのほうがむしろいいかもしれませんね。リクルートの雑誌は全部そうですよね。
粟飯原 でも一応、オールアバウトは既存のリクルートの媒体とは違うマーケットを作りだそうとしているところもあるので。共存して行く世界ではあるんですけれども、違う路線をやってみようというトライアルですね。
矢野 ここは微妙ですね。新聞でも広告記事は載っているし、広告だと言っても、署名記事は本人の視点で書いているのだから、そういいかげんなことはできないという面はありますから。
粟飯原 広告のページには広告ときちんと書いていますので。それは一般の読者が記事と間違わないようになっていますけれども。ただ、どうしても広告にならないようなガイドの偏愛の世界という記事があるんですね。それがまたすごく面白くて、「よくこんなこと見つけてくるな」とか「なぜこんなことにこんなにこだわりを持っているんだ、この人は」みたいな、思いもよらない記事が出てくることは、インターネットの醍醐味でもありますね。



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